埼玉県坂戸市の東部、飯盛川と谷治川の合流点脇に「すみよし菖蒲園」という花菖蒲園がある。水田の広がる長閑な田園風景の中に設けられた花菖蒲園だ。花菖蒲が見頃の六月中旬、すみよし菖蒲園を訪ねた。
「すみよし菖蒲園」は2016年(平成28年)を最後に閉園した。2017年(平成29年)6月、坂戸市役所商工労政課の担当者の方からその旨のご連絡をいただいた。本頁は「すみよし菖蒲園」が花菖蒲の名所として人気を集めていた頃の記録として、このまま公開しておきたい。
すみよし菖蒲園
埼玉県坂戸市の東部に位置する塚越地区の北端、飯盛川と谷治川の合流点の右岸に「すみよし菖蒲園」という花菖蒲園が設けられている。
すみよし菖蒲園
周囲は長閑な田園風景だ。特に飯盛川の北側は越辺川右岸部に広がる水田地帯で、見渡す限りに田圃が広がっている。南側は水田地帯より5mほど標高が高くなって台地状の地形を成し、畑地や住宅が点在している。南に数百メートル離れたところには大宮住吉神社が鎮座している。「すみよし」は、その神社の名に由来するものに違いない。住吉神社を鎮守とする、この地域そのものが「すみよし」と呼ばれる土地なのだろう。
すみよし菖蒲園
「すみよし菖蒲園」は2003年(平成15年)に「すみよし花卉(かき)愛好会」の人たちが休耕田を借りて花菖蒲を植えたのが始まりだそうだ。約20種、7万本ほどの花菖蒲が育成されているらしい。花期を迎える6月には「菖蒲まつり」が開催され、近隣から大勢の人が観賞に訪れるという。
すみよし菖蒲園
すみよし菖蒲園
「すみよし菖蒲園」は今でも(2013年現在)「すみよし花卉愛好会」の人たちが管理を行っているという。そのためもあってか、自治体(あるいは自治体から委託された団体等)によって管理される公園内に設けられた花菖蒲園などに比べると、“手作り”感のある素朴な花菖蒲園という印象を受ける。“花菖蒲園”と言うより、“水田地帯の中の田圃の一部を使って花菖蒲を植えた”という様相のままと言っていい。そのため整備が行き届かず来園者が不便を強いられることもないわけではないが、その“手作り感”漂う、素朴な佇まいが「すみよし菖蒲園」の魅力と言ってもいい。
すみよし菖蒲園
すみよし菖蒲園
広々とした風景の中だから実感しにくいが、菖蒲園はなかなか広い。菖蒲田の中に設けられた小径を辿れば、花菖蒲を間近に観賞することができ、その美しさを充分に堪能することができる。約20種の花菖蒲が植えられているとのことだが、(少なくとも2013年に訪れたときには)特に品種名を記したプレートなどは設置されていないようだった。菖蒲田の中には水車や木造の小舟なども置かれており、それが風景にアクセントを添えて良い風情だ。水車の前には作成者の名を記したプレートが立てられていたから、これも地元の方の手作りなのだろう。
すみよし菖蒲園
すみよし菖蒲園
菖蒲園の周囲は今も耕作の行われる農地だ。南側と東側には水田が横たわっている。水田は田植えを終え、ようやく苗も根付いた頃だろうか。遠目に見れば薄緑の絨毯を敷いたような景観を見せている。菖蒲園の西側は麦畑だ。季節はまさに麦秋、実った麦は刈り取り間近だろうか。田植えを終えた水田や刈り取りを待つ麦畑と共に見る花菖蒲の風情は、他の一般的な花菖蒲園では見ることのできないものと言っていい。水田や麦畑越しに菖蒲園を眺めるのもよく、水田や麦畑を背景に花菖蒲を見るのもいい。農地の中の花菖蒲園という在り方が独特の興趣を醸し出しており、それが「すみよし菖蒲園」の最大の魅力ではないかと思える。

花菖蒲を観賞した後は谷治川や飯盛川の河岸を歩いて、周囲に広がる田園風景の美しさも楽しんでおきたい。長閑な風景の中の散策が好きな人にはお勧めの「すみよし菖蒲園」である。
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