町田市成瀬
かしの木山自然公園
Visited in May 2006
町田市成瀬の北西の端、西に
恩田川を見下ろす丘の上に、「かしの木山自然公園」という公園がある。公園の西側は北では南大谷、南では
高ヶ坂に接している。1988年(昭和53年)に開園したもので、4.8haほどの面積の園内のほぼ全域を林が占めている。尾根筋には鎌倉古道跡も残っており、古い時代の多摩丘陵の姿を保った、自然溢れる公園だ。
南大谷方面と成瀬台方面とを繋ぐバス通りに面して、公園のメインエントランスとなる「北口」が設けられている。坂道となったアプローチの道を上がってゆくと、「森の家」という施設がある。「かしの木山自然公園愛護会」の活動拠点となっている施設で、公園の管理事務所を兼ねている。「かしの木山自然公園愛護会」は公園の開園と同時に設立されたもののようで、町田市から公園の維持管理を委託され、「森の家」を拠点に各種観察会や講習会、工作教室など、さまざまな活動を行っている。「森の家」は誰でも自由に利用することができ、室内には「かしの木山自然公園愛護会」の紹介や「かしの木山フェスタ」の紹介の他、公園内で撮影された写真や蝶の標本、狸の剥製などの展示物があり、なかなか興味深い。公園を訪れた際には立ち寄ってみるといい。「かしの木山自然公園マップ」も用意されているから、園内を散策する前にこれを貰っておくと便利だ。
かしのき山自然公園は西側が高所で、南北に延びる尾根筋に当たっている。「森の家」から南へ尾根を辿って散策路が延びており、散策路を進んでゆくと広場がある。「中央広場」と名付けられた広場は周囲に茂る木々に囲まれてはいるが、公園の地形が東に低いために東側に展望の開けるところがあり、斜面林越しに東方の町並みが見え隠れする。また広場の南端部分には「六角亭」と名付けられた四阿があり、そこからは木々の隙間に西方の視界が開け、恩田川河畔の
高ヶ坂の住宅街から町田市中心市街、さらにその向こうには遠く丹沢の山並みを眺望する。広場の随所にベンチが置かれており、ベンチに腰を下ろして吹き渡る風を感じれば、のんびりとしたひとときの中で「丘の上」の爽快感を存分に楽しむことができる。「中央広場」は街の喧噪から隔たり、静けさの中に野鳥の声が聞こえるばかりだ。季節柄、ウグイスやカッコウの声も聴くことができた。ときおり遠くから聞こえてくる電車の音は小田急線だろうか。風に乗って届く電車の音もかえって辺りの静けさを際だたせているように思える。
「中央広場」から尾根筋の散策路を南へ辿ると、木々の間を抜けて公園の「南口」へ至る。「南口」へ至る小径はいかにも古道らしい佇まいだが、鎌倉古道の跡であるらしい。「鎌倉古道」についての解説を記した案内板が小径脇に設置されている。「南口」から公園を出て、園内の小径の延長のように延びる小径を辿ると、尾根を東西に越える道路を小さな橋で渡ってさらに南へ続き、やがて住宅街の端の道路へ出るのだが、この
住宅街の一角に「鞍掛の松公園」という小公園がある。公園内に「鞍掛の松」についての解説がある。1333年(元弘3年)、鎌倉攻めのために挙兵した新田義貞が、分倍河原の合戦で北条泰家に大勝した日の夜、この地で兵を休ませ、その際に新田義貞が馬の鞍を掛けた松が、後に「鞍掛の松」と呼ばれるようになったという。「鎌倉古道」や歴史に興味のある人なら足を延ばして「鞍掛の松公園」にも訪ねてみるといい。
「中央広場」の東側は東へ低くなった斜面林に覆われており、最も低くなったところに湿地を抱えている。それらを一周するように散策路が辿り、里山の風景を彷彿とさせる中の散策を楽しむことができる。「森の家」のやや南側から東へ延びる散策路を辿って行くと、左手北側は「シラカシの森」だ。「かしの木山自然公園」を構成する丘陵の林は以前からシラカシが多く繁茂するところで、地元では「どんぐり山」と呼ばれて親しまれていたという。今でも公園内にシラカシの木は多く、それが「かしの木山自然公園」という公園名の由来にもなっているのだという。多摩丘陵の林と言えばコナラやクヌギなどの落葉樹を中心にした雑木林という印象が強いが、人々がその営みの中で雑木林を利用するようになる以前の多摩丘陵は照葉樹林帯に属し、カシやシイなどの照葉樹が多く茂る林だったという。人々の営みから離れて自然の変遷に任されれば、やがて雑木林はかつての照葉樹林へと、ゆっくりとその姿を戻してゆく。そうした変化を見守るべきか、あるいは人々の営みと共にあった「里山」を守るべきなのか、選択は難しい。そのような旨のことが、散策路脇の解説板に記されている。
「シラカシの森」の横を抜ける小径は、北側を抜ける道路の車の騒音が大きく響き、少々興をそがれるところがあるのが残念だ。小径を東へ辿って行くと、道脇に「馬頭観音」がある。明治期に火事で死んだ馬を供養するために建てられたものという。馬頭観音は本来は仏教に於ける六観音のひとつ「馬頭観世音菩薩」で、憤怒の形相をした観音様として知られる。近世になってからはこのように死んだ馬を供養するために路傍に石碑を建てた「馬頭観音」が多く見られるようになったという。馬頭観音の横を過ぎると小径は南へ折れて急な下り坂になる。坂道の左手東側は竹林だ。竹林は公園の東端に当たっており、その向こうは住宅街だ。そのせいか竹林は明るく、青々と茂る竹林の陰影がとても美しい。
竹林横の坂道をさらに降りてゆけば小さな谷戸の地形となった湿地へ出る。木々に包まれるようにして横たわる湿地は周囲から隔てられて密やかな空気を湛えている。湿地を横切るように木道が設置されており、木道から池や沢を間近に見ることができる。池には「トンボ池」の名が与えられている。その名が示すように初夏から秋頃にかけて数多くのトンボを見ることができるという。木道脇にはさまざまな種類のトンボの写真と解説を記した案内板が設置されている。訪れた五月にもすでにトンボの姿を見ることができた。池を覗き込むと、おびただしい数のオタマジャクシの姿があった。もっと近くで見てみたいとも思うが、「木道から降りないでください」との旨の注意書きがあった。大勢の人々が不用意に木道から降りて池の岸辺に足を踏み入れれば、こうした湿地は簡単に荒れてしまう。いつまでもこのような自然の姿が残ることを願って、木道から眺めるだけにしたい。湿地を竹林とは反対側、南側へと小径を上ってゆけば丘の上へと出て「中央広場」の南側へと至っている。
自然溢れる「かしの木山自然公園」は緑濃い穏やかな佇まいが魅力だ。小径を辿って園内を一巡りした後は、「中央広場」で鳥の声を聴きながらのんびりと一休みするのがお薦めだ。公園内にはシラカシが多く自生しているということだが、もちろんさまざまな樹木が茂り、ミズキなども多く、オオシマザクラやヤマザクラも少なくない。主な樹木には丁寧な解説を記したネームプレートが付けられているのも嬉しい。園内が端正に整備され、荒れた印象がまったくないのは、愛護会の方々の尽力によるものだろう。5ha足らずという面積は決して広大な印象ではないが、雑木林散策の醍醐味は存分に味わうことができる。多摩丘陵や鎌倉古道に興味のある人には特にお薦めできるだろう。「森の家」に「どんぐり」をあしらったスタンプが用意されている。来園の記念によいかもしれない。
「かしの木山自然公園」に駐車場はなく、訪れるにはバスを利用しなくてはならない。町田バスセンターから成瀬台行きのバス路線を利用し、「大谷原」バス停か「三ツ又」バス停で下車するのが至近だが、成瀬駅北口から成瀬台方面行きのバス路線で「勧性寺前」バス停で降りてもそれほど遠くはない。
恩田川の河岸など、周辺の散策も兼ねて訪ねてみるのもいい。公園は開園時間が定められており、開園閉園の時刻は季節によって若干異なる。開園時間の詳細や「森の家」の電話番号などは、町田市サイト(頁末「関連する他のWebサイト」欄のリンク先)を参照されたい。