横浜線沿線散歩街角散歩
町田市本町田
秋の本町田
November 1998
本町田団地のイチョウ並木
鎌倉街道の通る町田市本町田はさまざまな謂われの残る土地だ。現在では住宅街となっている本町田だが、寺社をはじめとして昔ながらの風景も残っており、のんびりとした散策も楽しめるところだ。
本町田散策の出発点は「ひなた村」にしてみよう。同じ名のバス停を降りると、目の前に「ひなた村」の大きなゲートが見える。ゲートからの道は小高い山へと登っているのだが、この山は「日向(ひなた)山」と呼ばれているらしく、山全体が日向山公園となっており、テニスコートや野球場なども併設されている。

カリヨン館
「ひなた村」はその日向山公園の中に造られた施設で、小学生を中心とした子どもたちのさまざまな創作教室や野外教室が季節ごとに催されている。ゲートをくぐって坂道を登り詰めたところにあるのが「カリヨン館」といい、ホールなどがあって「ひなた村」の活動の本拠となっている建物だ。利用するにはそれぞれ料金が必要だが、こうした施設がせっかくあるのであれば、積極的に利用するのもよいだろう。大人が想像する以上に子どもたちは自分の手で何かを造ったりするのが大好きなのだ。

カリヨン館裏
「カリヨン館」の横を通り過ぎ、公園の裏手に回ってみる。桜の名所でもあるらしいのだが今はすっかり葉を落として秋の装いだ。そのまま裏手の斜面を降り、真っ直ぐに突っ切って向かい側にある道を鎌倉街道側へ向かって戻る。やがて宏善寺の裏に着く。裏から入るのは少々失礼かもしれないが、そのまま境内に入らせてもらうことにした。
宏善寺
宏善寺は1271年(文永8年)、日蓮が佐渡への配流の途中に井出の沢の観音堂に憩い、久住山宏善寺と号を授けたのが開創であると寺伝にあるらしい。現在地に移ったのは1338年(歴応元年)の日海の時で、日海を開山とするのだそうだ。この辺りは旧鎌倉街道に面していて、さまざまな謂われの残る土地だが、その一方で兵火に晒されることも多かったとのことで、この宏善寺にも中世文書などは完璧には残っていないのだという。それでも日蓮自筆文の断片が現存し、寺宝として伝わっているとのことだ。

寺は本町田の住宅街の奥にひっそりと佇んでおり、幹線道路などからは距離があるためになかなか静かな印象だ。山門横には町田名木百選に指定されているイヌマキの古木がある。訪れてみた時はちょうどお彼岸に近く、端正な印象の参道の横には彼岸花が咲いていた。
山門をくぐって正面側から宏善寺を後にする。周辺は住宅街だが、並ぶ住宅の間に畑が残っていたり、住宅の背後は雑木林だったりする。幹線道路からは外れた通りなので車輌の通行も少なく、のんびりとした雰囲気だ。そのまま真っ直ぐに進むと養運寺だが、途中鋭角に戻るように丘の上へと向かう道があるのでそちらへ進むことにする。

宏善寺の墓所を左手眼下に見ながら坂道を登ってゆくと、やがて本町田遺跡公園の前に出る。縄文、弥生の時代の集落跡を整備し、公園としたもので、園内には住居跡が保存され、復元住居も展示されている。

町田市立博物館
公園を過ぎると町田市立博物館がある。開発による文化財の散逸を防ぐ目的で、1973年に郷土資料を集めて開設された郷土資料館が前身であるという。ホールや図書室も用意されており、民族資料などの展示の他、特設の展示も行っている。入場は無料だ。本町田遺跡公園もこの博物館の管理下にあるようだ。本町田遺跡公園と町田市立博物館の間に、両方兼用の駐車場があり、10台ほどが駐車可能だ。

この辺りは高所となっていて、駐車場からは眼下に藤の台団地の様子がよく見える。今回は大きく回り道をしたのだが、実は日向山公園もすぐ下に位置する。駐車場脇には藤の台団地に降りて行く小道もあるが、それより博物館寄りに博物館の背後の雑木林へと続く小道がある。ちょっと興味を覚えて入り込んでみた。
雑木林
博物館横の小道はしばらくフェンスで遮られた雑木林の横を辿っているのだが、やがてフェンスが途切れ、雑木林の中への小道が見つかった。特に「道」として造られたわけではなく、人々が通り抜けるうちに小道にようになってしまったというような小道が林の中に延びている。所々に分かれ道もあるが、勘に頼って進んでみる。途中、犬を連れた人とすれ違った。地元の人にとっても散歩コースになっているのだろう。時折木々の間から交通量の多い道路が見えるが、地理的に鶴川街道だろうと考えてコースを選ぶ。

やがて鶴川街道の「市立博物館前」のバス停からわずかに入ってきたあたりに出た。ふと振り返ると、林の入口には「関係者以外立入禁止」の旨の看板が「養運寺」の名で立ててあった。この雑木林全体がおそらく養運寺の地所なのだろう。というわけで、鶴川街道に出てしばらく歩き、養運寺に立ち寄った。
養運寺
浄土宗養運寺は、開創は1567年(永禄10年)のことであるらしいが、実は歴史は古く、1200年代の末期の文永年間には天台宗の寺として存在していたようだ。宏善寺とともに旧鎌倉街道に面しており、それにまつわるさまざまな伝承も残っているという。現在では周辺はすっかり住宅街となってしまっているが、寺の周囲の雑木林が往時を偲ばせる。石段の奥の境内は落ち着いた印象で、とても静かだ。右手の墓所内で目を引くケヤキなど、大木も多く、散策の目を楽しませてくれる。

養運寺のムクロジ
特に寺社に関心の無い人の目にも興味を覚えるのが、鐘楼の脇にあるムクロジの樹だ。町田市の名木百選にも選ばれている古木のようだが、そのムクロジの樹の根本に、小さな石仏が鎮座しているのだ。まるでムクロジの樹に抱かれるようなその姿だが、おそらく古(いにしえ)の時代に置かれた石仏を樹がその成長とともに包み込んでしまったものなのだろう。
お稲荷様
養運寺から再び鶴川街道に戻り、本町田団地を目指して鶴川街道を横切る。この季節なら本町田団地のイチョウ並木がきれいに染まっているだろうという期待があった。

途中、家々の屋根の向こうに見える見事なケヤキの樹に惹かれて道を逸れてみると、その下には小さなお稲荷様の社があった。有名な寺社や旧跡を辿るだけでなく、こうした小さな発見もまた気ままな散策の醍醐味だ。
本町田団地
本町田団地のイチョウ並木は期待通りの美しい黄葉に染まっていた。道路越しに見る並木も美しいし、真下から見上げる様子も美しい。残念ながら今年(1998年)の紅葉・黄葉は全般的に時期が遅く、色も今一つだったが、次第に日が短くなってゆく季節、低い角度で差す陽光にイチョウの葉が逆光で染まり、黄金色に輝く並木の様子はやはり美しい。あちこち場所を変えてカメラを構えていると、地元の人が興味深そうに覗いてゆくのだった。

本町田団地を後にして菅原神社を目指す。残念ながら菅原神社はまだ紅葉には早いようだった。境内をしばらく散策して一休み。鎌倉街道に戻ると「菅原神社前」のバス停がある。今回の本町田散策はここでひとまず終わりということにしよう。
宏善寺のイヌマキ養運寺のムクロジ
宏善寺や養運寺、本町田遺跡公園や町田市立博物館などを繋いでの、本町田の歴史散歩といった趣での散策が楽しい。予め本町田の郷土史などを調べておくと、さらに楽しめるかもしれない。春は桜の名所として知られるところも多く、桜の季節の花見散策も楽しいに違いない。
養運寺にて