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相模原市緑区小倉〜川尻
小倉橋
Visited in August 2020
小倉橋
相模原市緑区、小倉橋という橋が相模川を跨いでいる。1938年(昭和13年)に竣工したという小倉橋は相模川に架かる道路橋の中で最も古いものという。アーチが4径間連続する姿はたいへんに美しく、相模川の景勝として知られる。2004年(平成16年)には小倉橋のすぐ上流側に新小倉橋が開通、二つのアーチ橋の競演が見事な景観を見せている。小倉橋の下、右岸側には河原があり、バーベキューなどを楽しむ人たちで賑わうところだ。以前、相模川の河岸散歩の途中で小倉橋の横を通ったことがあったが、今回は小倉橋に焦点を当てて、相模川の河岸を歩いてみたい。
小倉橋
小倉橋と新小倉橋は相模湖のすぐ下流側で相模川を跨いでいる。橋の名の「小倉」は右岸側の地名だ。小倉橋の左岸側は基本的には久保沢だが、現在の住所表示は複雑で相模原市緑区川尻、谷ヶ原、久保沢、向原などが入り組んでいる。

小倉橋は1938年(昭和13年)に竣工、すでに百年近い年月を経ているが今でも現役で、相模川に架かる道路橋の中では最も古いものだという。橋長176.6m、幅員4.5mの上路式アーチ橋(アーチの上部に道路が通っている構造)で、径間36.75mのアーチが4径間連続する構造は当時画期的なものだったらしい。

小倉橋
四つのアーチが連なる構造美は素晴らしく、ちょっとレトロな味わいも醸しつつ周辺の風景と共に風趣に富んだ景観を織り成している。歴史的な建築物としての貴重さや、景勝としての美しさは各方面で評価が高く、1979年(昭和54年)に「かながわの景勝50選」のひとつに選出された他、1986年(昭和61年)には「相模川八景」に、1990年(平成2年)には「かながわの橋100選」のひとつに、さらに土木学会による「平成20年度選奨土木遺産」にも認定されている。名実共に「名橋」である。

小倉橋
新小倉橋は小倉橋のすぐ上流側に架けられた新しい橋で、1989年(平成元年)に着工、竣工は2000年(平成12年)、開通したのは2004年(平成16年)のことだ。新小倉橋は地上から約50mの高さで、支間150mという巨大なアーチで相模川を一跨ぎにする。景勝として知られる小倉橋のすぐ脇ということもあって、そのデザインには修景にも気を遣い、当時の最新工法が用いられたという。新小倉橋もまた美しい橋である。完成前には小倉橋のせっかくの美しい景観の興趣が新小倉橋によって損なわれるのではないかという危惧もあったが、杞憂だったようだ。

小倉橋
昭和初期に造られた小倉橋は幅員が狭く、車両は交互通行を強いられる。行楽シーズンの休日などには渋滞が発生していたものだが、新小倉橋が完成してからはそうしたこともなくなった。現在でも小倉橋を通行する車両は少なくないが、ほとんどは地元の人、あるいは小倉橋の通行に慣れた人であるようで、信号などが無くてもスムースに交互通行が行われている。実際には普通車と軽自動車などであれば橋上ですれ違うことも不可能ではない思われる(途中にはすれ違いのために幅員の広くなった場所もある)が、通行する人たちが自主的に交互通行を実践しているのだ。初めて小倉橋を車で通行する際には気をつけよう。

小倉橋は歩いて渡ることも可能だ。橋上からの相模川の眺めもなかなか素晴らしい。ただ小倉橋には歩道はなく、前述のように幅員が狭いため、歩く方も気を遣うし、その横を通り過ぎる車両の方にも気を遣わせる。歩いて渡るときには相応の注意を怠らないようにしたい。

小倉橋
下流側から眺めれば小倉橋の背後に新小倉橋が見え、両者の競演が見事な景観を見せてくれる。特に左岸側の河岸から眺めると二つの橋がうまく重なって印象的な景観を見せてくれる。右岸側から眺めると両者の中心が少しずれてしまうが、それはそれで面白い景観だ。古いが優美で味わい深い小倉橋と、新しく力強くも軽快な印象の新小倉橋とが、うまく競い合うように調和して新たな景勝を生み出している。昭和初期生まれの祖父と平成生まれの孫との競演といったところか(橋はフランス語では男性名詞)。

小倉橋
小倉橋の袂、右岸側の相模川河岸には河原がある。小倉橋河川敷、あるいは小倉橋下河川敷などと呼ばれ、行楽シーズンにはバーベキューを楽しむ人たちの姿が多く見られるところだ。河原まで車で降りてゆくことができるため、なかなかの人気のようだ。河原でバーベキューと言うと、川遊びとワンセットで楽しむ印象があるが、小倉橋下の相模川は遊泳禁止なので注意しよう。またすぐ上流側には城山ダムがあり、希にダムの貯水が放流されることがある。放流されると増水するため、河原に降りてはいけない。放流されるときはサイレンなどで知らされる。現地の注意書きをよく読んでおこう。

小倉橋河川敷に降りれば、真上に小倉橋がある。真下から見上げる小倉橋は威風堂々とした姿だ。南側から新小倉橋を背後に従えた姿を見るのもいいし、北側から小倉橋の向こうに相模川の流れを見るのもいい。美しい景観が楽しめる。

小倉橋
河原に降りてゆく道の途中に小公園のようなスペースが設けられている。小倉橋を北側から眺めることのできる展望所の役割があるようだ。そこには小倉橋が「相模川八景」のひとつであることを示す石碑が設けられ、石碑には簡単な説明文も添えられている。小倉橋の辺りは鮎釣りの名所であり、かつては鵜飼いによる鮎漁も行われていたという。小倉橋が架けられる以前は渡し舟が両岸を繋いでおり、渡船場跡を示す石碑も置かれている。ぜひ見ておこう。

小倉橋
右岸の下流側は家々が集まって集落を成している。長閑で穏やかな空気感の漂う集落だ。少し散策の足を延ばしてみるのも一興だろう。

「相模川八景」の碑に記されているように、夏には相模川に鮎釣りを楽しむ人の姿がある。その姿と小倉橋との取り合わせも夏の風趣だ。また夏の宵刻には新旧小倉橋のライトアップも行われる。興味のある人は見に行ってみるといい。
小倉橋は車で何度も渡ったことがあるが、その度にいつか機会を設けてゆっくりと小倉橋河川敷を歩いてみたいと思っていた。ようやく機会を作って訪ねることができた。残暑の厳しい日だったが、夏の青空の下、新旧小倉橋の姿はたいへんに美しかった。楽しい河岸散歩だった。
小倉橋
小倉橋
小倉橋