America
1.Riverside
2.Sandman
3.Three Roses
4.Children
5.A Horse With No Name
6.Here
7.I Need You
8.Rainy Day
9.Never Found The Time
10.Clarice
11.Donkey Jaw
12.Pigeon Song
Dewey Bunnel : 6 String Acoustic Guitar, 12 String Acoustic Guitar, Vocals
Gerry Beckley : 6 String Acoustic Guitar, 12 String Acoustic Guitar, Piano, Chimes, Bass, Vocals
Dan Peek : 6 String Acoustic & Electric Guitar, 12 String Acoustic & Electric Guitar, Piano, Bass, Vocals
Ray Cooper : Percussion, Bell Tree
Dave Atwood : Drums
Dave Lindley : Electric Guitar, Steel Guitar
Kim Haworth : Drums
Produced by Ian Samwell with Jeff Dexter, and America
1971
2.Sandman
3.Three Roses
4.Children
5.A Horse With No Name
6.Here
7.I Need You
8.Rainy Day
9.Never Found The Time
10.Clarice
11.Donkey Jaw
12.Pigeon Song
Dewey Bunnel : 6 String Acoustic Guitar, 12 String Acoustic Guitar, Vocals
Gerry Beckley : 6 String Acoustic Guitar, 12 String Acoustic Guitar, Piano, Chimes, Bass, Vocals
Dan Peek : 6 String Acoustic & Electric Guitar, 12 String Acoustic & Electric Guitar, Piano, Bass, Vocals
Ray Cooper : Percussion, Bell Tree
Dave Atwood : Drums
Dave Lindley : Electric Guitar, Steel Guitar
Kim Haworth : Drums
Produced by Ian Samwell with Jeff Dexter, and America
1971
「名前のない馬」という曲が大好きだった。「名前のない馬」は「アメリカ」という名のグループのデビュー曲で、1972年の春にアメリカでもヒットし、日本ではやや遅れて1972年の初夏から夏にかけて大ヒットになった。どちらかと言えば淡々とした印象の地味な曲だが、なぜか心に残るものがあり、特に日本人の感性には訴えるものがあったのに違いない。
「アメリカ」というグループは、Dewey BunnellとGerry Beckley、Dan Peekという三人によるグループで、その名に反してイギリスから登場した。といっても三人のメンバーのうち、イギリス人なのはDewey Bunnellひとりで、Gerry BeckleyとDan Peekのふたりはアメリカ人だ。この三人はイギリスのアメリカン・スクールに通う同窓生だったらしい。「アメリカ」は1968年に結成され、1972年の初頭にデビュー・アルバムを発表、その中からシングル盤として発売されたのが、「A Horse With No Name(名前のない馬)」だった。
「アメリカ」はアコースティック・ギターを主体にしたフォーク調の音楽を演奏するグループで、歯切れのいいギター・サウンドと美しいコーラスとが軽やかで爽やかな印象を与えるものだった。そのような印象の音楽といえば、アメリカ西海岸で生まれた音楽、いわゆる「ウエスト・コースト・サウンド」と共通するものだが、「アメリカ」がデビューした時にはCS&Nとの音楽的共通性が取り沙汰され、一部にはCS&Nの「二番煎じ」的な扱いをする者もあった。確かに「アメリカ」の音楽とCS&Nの音楽とに共通する要素は多いが、じっくりと聴いてみれば違いもまた大きい。
「アメリカ」の、少なくともこのデビュー・アルバムに於いて、収録曲の半数ほどはイギリス人であるDewey Bunnellによって書かれている。そのせいもあるのか、「アメリカ」の音楽には「ウエスト・コースト・サウンド」的なカントリー・ロック的な側面とともに、ブリティッシュ・トラッド的な要素を感じる。その音像には「ウエスト・コースト・サウンド」的なからりと乾いた印象とともに、少し湿った重さを感じることができる。「アメリカ」とCS&Nとの共通項は、実はギター・サウンドとコーラスとが醸し出す音像の美しさという表層的な側面だけなのかもしれない。
「アメリカ」は12弦ギターを大々的に使用していたのも特徴で、その響きによって彼らの音楽は独特の表情を持つ。12弦ギターは通常のギターの一本の弦が張られているところに二本の弦を張ったもので、メキシコの「バジョー・セクスト」という楽器が原型であるらしい。バーズのロジャー・マッギンによる「ミスター・タンブリンマン」での演奏や、後にはイーグルスが「ホテル・カリフォルニア」で使用しているのが一般的には有名だろう。どちらかと言えばアクセント的に使われることもあるが、「アメリカ」の場合はこの12弦ギターの響きこそが彼らのサウンドの要であるようにさえ思える。その硬質で独特の響きが、「アメリカ」の音楽の表情の輪郭を形作っているようでもある。
「America」と、自らのグループ名をタイトルにした、このデビュー・アルバムは、シングル・ヒットとなった「名前のない馬」を含めた12曲が収録されている。アルバム全体の佇まいは「名前のない馬」の印象とそれほど異なるものではなく、12弦のアコースティック・ギターを中心にしたサウンドに美しいコーラスが重なるというスタイルが貫かれている。
「アメリカ」のメンバー三人は、主としてアコースティック・ギターを演奏し、ヴォーカルを担当するが、楽曲によって担当する楽器が異なり、Gerry Beckleyはアコースティック・ギターの他にベースやピアノを、Dan Peekはアコースティック・ギターの他にベースとピアノ、さらに6弦と12弦のエレクトリック・ギターも演奏する。さらにアルバムの制作に当たって楽曲によってはドラムスやパーカッションも加えられ、そのサウンドに多彩な表情を与えている。いかに美しいアコースティック・ギターの演奏とコーラスと言っても、そればかりだと単調な印象にもなってしまいがちだが、ピアノやパーカッションを加えることによって単調さをうまく回避している。
冒頭の「Riverside」は「アメリカ」の音楽の魅力が凝縮されたような楽曲で、硬質な12弦ギターの響きにコーラスが重なる様子はとても爽やかで美しい。Ray Cooperの演奏するパーカッションの響きも軽やかで、楽曲の魅力をさらに引き立てている印象だ。「アメリカ」の代表曲のひとつと言って差し支えないのではないか。
「Sandman」は少々ヘヴィな印象の楽曲だ。「ウエスト・コースト・サウンド」よりブリティッシュ・トラッド的な楽曲と言ってよいだろう。Dave Atwoodによるドラムスを加えた演奏で、終盤にはDan Peekの演奏するエレクトリック・ギターも加わる。このエレクトリック・ギターは歪んだサウンドで、この頃のブリティッシュ・ロック的な味わいも感じることができる。
「Three Roses」は再び爽やかな楽曲だ。硬質なギターのカッティングが印象深く、この曲にもRay Cooperの演奏するパーカッションが加えられ、軽やかでポップな魅力がある。Gerry Beckleyがベースを演奏しているが、このベースの演奏もなかなか素敵だ。
「Children」はDewey、Gerry、Danの三人によるアコースティック・ギターの演奏とコーラスを主体にした楽曲だ。これにDave Lindleyの演奏するエレクトリック・ギターが加わる。エレクトリック・ギターは控えめで、遠くでかすかに鳴っているような印象で聞こえてくる。美しく、少しばかり夢想的な印象を湛えた楽曲だ。
夢から覚めるように「Children」の演奏が終わると「名前のない馬」が始まる。夢想的な印象の「Children」から淡々とした「A Horse With No Name」へ移るときの、対比が素敵だ。「A Horse With No Name」は比較的小さな音量で始まる楽曲で、例えばベスト盤などで聴くと、他の楽曲に比べてイントロ部が静かなために印象が薄くなってしまうような傾向もあるのだが、実はこのオリジナル・アルバムでの「Children」から「A Horse With No Name」への流れでは、それが実に効果的に楽曲の魅力を倍加させている印象がある。
「A Horse With No Name」は「アメリカ」の代表曲であり、1970年代ポップ・ミュージック・シーンを代表する楽曲のひとつと言っても差し支えないだろう。淡々とした中に情熱を秘めたような独特の曲想が素晴らしく、ポップでわかりやすい構成と相俟って、「名曲」と呼ぶに相応しい。この楽曲ではDeweyは6弦アコースティック・ギターとリード・ヴォーカルを担当し、Gerryが12弦アコースティック・ギターを、Danがベースを演奏、さらにRay CooperのパーカッションとKim Haworthのドラムスが加わる。
「Here」は5分を超える長い楽曲で、静かな内省的な雰囲気のイントロ部から始まり、途中から硬質なギターのカッティングに導かれて力強い演奏が展開する。やがて再び静けさが戻り、そのまま終息してゆく。なかなか聴き応えのある楽曲だ。Gerry Beckleyによる楽曲で、Gerryが6弦アコースティック・ギターとベース、リード・ヴォーカルを担当する。
「I Need You」もまたよく知られた楽曲だろう。これもGerry Beckleyによる楽曲だ。ピアノの演奏から始まる楽曲はポップな魅力に溢れ、甘美なメロディ・ラインも親しみやすい。後の「金色の髪の少女」にも繋がるような、ポップ・ソングとしての魅力に溢れた楽曲だ。Gerryがピアノとベース、リード・ヴォーカルを担当し、Danが12弦エレクトリック・ギター、Deweyは6弦のアコースティック・ギターを演奏、Dave Atwoodによるドラムスも加えられている。
「Rainy Day」はDan Peekによる楽曲で、Danが12弦と6弦のアコースティック・ギター、リード・ヴォーカルを担当している。Deweyは6弦のアコースティック・ギター、Gerryは12弦のアコースティック・ギターだ。静かな楽曲だが、思索的な深みを感じさせる楽曲で印象深い。この楽曲にはDave Lindleyの演奏するスティール・ギターが加えられているが、あまりカントリー・ミュージック的な雰囲気はなく、遠くで響くようなスティール・ギターの音色は少々幻想的な寂寥感を伴っている。なかなかせつなく、心に訴えてくるもののある楽曲だ。
「Never Found The Time」もDan Peekによる楽曲だ。Danがピアノと12弦アコースティック・ギター、リード・ヴォーカルを担当している。Dan Peekのソロを他のふたりがサポートしているという感じかもしれない。ゆったりとした印象の、繊細な美しさを湛えた楽曲だ。CS&N的な雰囲気も濃厚に漂っている。
「Clarice」はGerry Beckleyによる楽曲で、Gerryがリード・ヴォーカルを担当し、他にもアコースティック・ギターやピアノなどさまざまな楽器を演奏している。この楽曲はGerryのソロを他のふたりがサポートしているという形かもしれない。哀感に満ちた静かな楽曲だが、エンディングで軽快なギターのカッティングにパーカッションが加わり、力強いベース・ラインが響くところはなかなか面白い。
「Donkey Jaw」は再びDan Peekによる楽曲だが、リード・ヴォーカルはDeweyに任せ、Danは12弦アコースティック・ギターやエレクトリック・ギターを演奏している。5分を超える楽曲で、静かなイントロに導かれて始まる楽曲だが、途中からパーカッションやドラムスが加わり力強く展開してゆく。そこで加わるDanのエレクトリック・ギターの演奏がなかなかいい。硬質でエッジの効いたギターは「ロックっぽい」魅力に溢れている。
最後に収録された「Pigeon Song」はDewey Bunnelのソロだ。2分を少し超えるほどの短い楽曲だ。ブリティッシュ・フォーク的な味わいの、シンプルな歌と演奏がなかなかいい。アルバムの締めくくりに相応しい素朴な小品である。
「アメリカ」というグループを「ウエスト・コースト・サウンド」の流れの中に位置づけてとらえる人も少なくないのではないかと思う。その音楽性や、CS&Nの「弟分」的に扱われたことにもその要因はあるだろう。しかしこうして聞き返してみても、彼らの音楽性のルーツには「ウエスト・コースト」の軽やかな音楽とともにブリティッシュ・フォークの味わいが濃厚にあることがわかる。特にやはりメンバー唯一のイギリス人であるDewey Bunnelの楽曲、歌と演奏にその傾向が強い。彼の歌声にはどこかキャット・スティーヴンスやデイヴ・カズンズを彷彿とさせるところがある。爽やかで軽やかな「ウエスト・コースト・サウンド」の意匠を借りながら、その根底には翳りを帯びたブリティッシュ・フォークが見え隠れする。そうしたところが「アメリカ」の魅力だったかもしれない。
このデビュー・アルバムは全体の完成度という点で言えば「傑作」とか「名盤」と呼ぶべきものではないかもしれない。しかしシングル・ヒットとなった「名前のない馬」をはじめ、佳曲も多く、なかなかの好盤である。「名前のない馬」を聴いて気に入ったという人があったなら、ぜひこのアルバムも聴いてみて欲しい。失望することは絶対ない。
This text is written in September, 2004
by Kaoru Sawahara.
by Kaoru Sawahara.