幻想音楽夜話
Razamanaz / Nazareth
1.Razamanaz
2.Alcatraz
3.Vigilante Man
4.Woke Up This Morning
5.Night Woman
6.Bad, Bad Boy
7.Sold My Soul
8.Too Bad, Too Sad
9.Broken Down Angel

Dan McCafferty : lead vocals .
Manuel Charlton : electric, acoustic and slide guitars, banjo, and backing vocals.
Pete Agnew : bass guitar, backing vocals.
Darrell Sweet : drums, percussion and backing vocals.

Produced by Roger Glover.
1973 Mooncrest.
Thoughts on this music(この音楽について思うこと)

 1970年代の「ブリティッシュ・ハード・ロック」が語られる時、いわゆる「中堅どころ」のバンドとしてナザレスの名が挙げられることが少なくない。レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、ブラック・サバスといった「ビッグ・ネーム」のバンドほどの高い知名度を誇るわけではないが、当時のロック・シーンを知る者にとって、特に「ブリティッシュ・ハード・ロック」を愛した人々にとって、ナザレスの名とその音楽はやはり忘れられない。

 ナザレスは1970年代の初期にデビューしたバンドだったが、当初は作品の質も高いとは言えず、当然のことながら人気も芳しくなかった。そのナザレスがブリティッシュ・ハード・ロックの第一線に躍り出るきっかけになったのが、1973年に発表された「Razamanaz」だ。このアルバムは当時ディープ・パープルのロジャー・グローヴァーがプロデュースを担当したことでもロック・シーンの話題を集めた。ロジャーのプロデュースが功を奏したのか、作品は小気味よいハード・ロック・アルバムとして完成し、ナザレスの経歴の中でも忘れられないものとなった。

節区切

 ナザレスのロックはいたってシンプルなものだった。基本はロックン・ロールであり、ブギであり、それがただハードにエネルギッシュに演奏されているに過ぎない。先進的な技法が導入されているわけでもなく、音楽的実験が試みられるわけでもない。ギターとベース、ドラムスが支える演奏と、そして歌というその構成も、ロック・ミュージックの基本と言っていい。

 何ら奇をてらったところのないその演奏は、しかしエネルギーの塊のようだ。ハードで鋭いギターの音色、絶叫するかのようなヴォーカル、激情をそのまま音に託すように、大音量で演奏されるそのロックは確かに「熱い」。その姿勢は実直ささえ感じさせてロック・ミュージックのダイナミズムを聴く者に与える。彼らのペンによる楽曲は難解さとは無縁で、わかりやすくポップな魅力も感じさせてくれるし、どこか「土の匂い」のする演奏は、力強く「踏ん張った」感じがするのもいい。

節区切

 そうしたナザレスのロックは、難を言えばスケール感に乏しいところはある。レッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったバンドと比較すれば、「音楽の広がり」と言った点では確かに劣る。それはすなわち、その音楽の背景にあるものに依るのだろう。メンバーそれぞれが持つ音楽的素養の懐の深さや、バンドとして目指したものの在り方といったものに関わっているのに違いない。

 ハードなロックの中にもバロック音楽の要素を感じさせたディープ・パープルや、トラッド・ミュージックの要素も取り入れながら音楽的実験を試みたレッド・ツェッペリンなどが、そうした点に於いて自身の音楽の中に深みと広がりを得たとすれば、ナザレスの音楽にはそれらに匹敵するものに乏しく、やはり「小粒な」感じがするのも否めない。そのことが当時のロック・シーンに於いて、人気や評価、商業的成功の点に於いて、彼らを分かつ要因のひとつになったことは確かだ。

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 正直に言うが、当時、このアルバムがあまり好きではなかった。特に「Razamanaz」や「Alcatraz」などの楽曲がダメだった。そのハードな演奏、絶叫するヴォーカル・スタイルなどは「猪突猛進」的な印象があって「暑苦しく」感じたものだった。わかりやすい曲調、耳に残る印象的なフレーズなどは、安直で「あざとく」感じたものだった。

 あれから30年ほどを経て、機会があって手にした復刻CDを聴いた時、ずいぶんと当時の印象が間違っていたのだと感じた。確かにナザレスの音楽は「猪突猛進」的な暑苦しいロックだ。わかりやすく「世俗的」なロックだ。音楽的実験によってロックの進化を促すような、思想性を秘めた音楽ではない。しかし、その愚直なほどの姿勢は潔く、そのロックは小気味よく痛快だ。あの頃はまだ「耳」が幼かったのか、その魅力を理解できなかったのだ。

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 ナザレスは先進的思想性と音楽的実験によってロック・シーンを牽引したバンドではない。レッド・ツェッペリンやディープ・パープル、キング・クリムゾンやピンク・フロイドといった一部のバンドたちが当時のロック・シーンの先端を走りながら引っ張っていったのだとすれば、ナザレスはいわゆる「中堅」的な立場で、当時のブリティッシュ・ロックの基盤を支えた数多くのバンドの中のひとつだったと言えるだろう。一部のバンドのみがその知名度と評価を今に残している観もあるが、実はこうした半ば忘れられがちな「中堅バンド」たちの音楽こそが、当時のブリティッシュ・ロックの隆盛を根底で支えたのだ。

 ガンズ・アンド・ローゼスのアクセル・ローズは、かつて「どんな音楽をよく聴いていたか」というインタビューに答えてナザレスの名も挙げている。確かにアクセルのヴォーカル・スタイルはその声質までもナザレスのダン・マッカファーティによく似ている。おそらく少なからぬ影響を受けたのだろう。余談だが、「Night Woman」のエンディングで聴かれる特徴的なリフは、後に頭脳警察が「悪たれ小僧」で使用したリフの、いわゆる「元ネタ」だろうか。

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 若い頃には理解できなかった音楽を、何年かの後に自分自身の中で再評価するということはよくある。年齢を重ねるほどに多種多様な音楽を耳にして、音楽に対する考え方や嗜好が変わってゆくからなのだろう。ナザレスの「Razamanaz」というアルバムについても、そういう事が起きた。ロック・ミュージックというものは、本来若い世代に共感されるべき音楽だとも思うのだが、当時は敬遠していたナザレスの魅力を今さらながらに実感するというのも奇妙な感じがする。

 当時は好きになれなかった「Razamanaz」や「Alcatraz」が何とも痛快に感じる。ポップな魅力の「Broken Down Angel」もいい。その他の楽曲ももちろん、「足が地についた」感じのシンプルなハード・ロックが何とも小気味よく感じるのだ。エネルギッシュに演奏されるナザレスのロック、それはシンプルなロックン・ロールやブギでしかないが、しかしだからこそ、そのロックは普遍的な魅力を携えて今も耳に届くのである。