八王子市打越町
いしばしいり緑地
Visited in June 2004
八王子市打越町の南端部の角に「いしばしいり緑地」という名の緑地がある。住所としては打越町なのだが、南東部には北野台の住宅街が、西部は片倉町の住宅地が広がり、それらの住宅街の生活圏に属していると考えた方が正しいだろう。
南側に広がる住宅街は丘陵地で、住宅地として造成される以前はおそらく雑木林の広がる丘だったのだろうと思うが、この緑地はその丘の北側から入り込んでゆく谷戸の、最も奥まった場所だったのではないかと思える。「いしばしいり緑地」の名の「いしばしいり」とは、推測だが、昔からのこの谷戸部の呼び名だったのだろう。緑地の北側へと抜け出ると、まさにそうした「谷戸」を逆から降りてゆくときの風景を目の当たりにする。ただ、緑地の西側には今は八王子バイパスが南北に抜けており、そのために昔ながらののどかな風景が残されているとは言い難いのが残念なところか。
緑地はそうした谷間、いわゆる「谷戸」の奧の様相で、雑木林の斜面と低地の沢や湿地から成り、中央部には池も抱えている。かつての谷戸をそのまま残したものなのだろう。北野台五丁目の住宅街に面した南西側の角に「西入口」が設けられており、そこから北東側に降りてゆくように散策路が設けられている。散策路は沢を挟んで左右に二本が辿り、途中、「八ツ橋」と名付けられた小さな木製の「橋」が沢を渡って左右の散策路を繋いでいる。周囲は鬱蒼とした雑木林で、住宅街の喧噪も遠のき、鳥の声が聞こえるばかりだ。
「八ツ橋」を過ぎてさらに辿ると池があり、池の北側はパーゴラなどを設けて「公園」然とした一角に整備されている。パーゴラの建つ場所は堤のように小高くなっており、そこから階段状に作られた斜面が池の辺へと降りている。そこから見下ろす池や周囲の木立の様子がなかなかのどかで穏やかな印象があり、のんびりとくつろぐには良い場所であるような気がする。池では希にカワセミの姿を見ることもあるらしい。パーゴラの横には四阿の置かれた一角もあり、周囲はのんびりとした空気に包まれている。
パーゴラや四阿のある一角から南東側へと延びる散策路を辿ると「東入口」へと至る。「東入口」の付近は今ではスーパーや大手ドラッグストアなどが並んでいる。四阿の横手から北へと降りる通路を辿ると、畑の横手を抜け、八王子バイパスをくぐり、やがて打越町の住宅地へと至っているが、打越町側から緑地に至るのはルートがわかりづらく、少々距離もあり、そうした意味でも緑地は北野台や片倉町の生活圏に属していると言った方がいいだろう。
いしばしいり緑地はあくまで「緑地」であり、一般的な街角の公園のような子どもたちのための遊具類は設置されていない。その意味では子どもたちのための遊び場としては不十分な気もするが、雑木林や沢の流れなどが別の意味で子どもたちの「遊び場」を提供してくれることだろう。すぐ近くに住宅地が広がっているとは思えないような緑濃い緑地だ。近辺に暮らす人々にとっては素敵な散策路となっているに違いない。