多摩市愛宕
愛宕の街
Visited in May 2000
多摩市の中央部西端、八王子市に接して愛宕という地区がある。乞田川北側の丘陵を造成した住宅地で、多摩ニュータウン域の北端にあたる区域のひとつでもある。緑も多く、緑地や公園が点在する愛宕の街を、風薫る五月の初めに歩いてみた。
愛宕地区の最も西に当たる部分には上之根公園という小さな公園がある。丘陵の南斜面を利用して造られた公園で、明るく開放的な雰囲気が魅力だが、人の姿は無い。この公園を通り抜けて階段を上り、丘の上の道路に出る。愛宕四丁目、三丁目、一丁目から八王子市鹿島にかけて、輪を描くように通る道路だ。この道路の歩道を東に向かって進むと、道路はやがて長い直線を描く。
少しばかり進むと道路南側に愛宕第四公園がある。道路脇にはちょっとしたスペースがあってベンチが置かれているだけだが、公園自体は斜面を利用して造られており、散策路を辿って下へ降りて行くと木立に囲まれた芝生の広場がある。ちょうど地元の子どもたちが遊びに来て歓声を上げていた。
再び上部の道路に戻って東に向かう。しばらく進み、道路が北へ向かって大きくカーブを描く直前、愛宕第三公園に辿り着く。愛宕第四公園と同様に丘陵の南斜面を利用した公園だが、こちらは規模も小さく、芝生の広場のようなものもない。その代わりに眺望が良く、ベンチに座るとまるで展望台のように多摩ニュータウンの景色が見渡せる。
散策路を辿り、林を抜けて差点の角に出ると、道路を挟んで北側に愛宕東公園がある。愛宕東公園は愛宕地区では最も大きな公園で、テニスコートも併設している。
公園の東にはあたご切通しが南北に抜けている。愛宕の丘陵をえぐって南北を繋ぐ道路が抜けているが、「あたご切通し」という名があることから察すると、造成が成される以前からこうした切通しの道があったのかもしれない。
水道事業所の給水塔だが、この給水塔は柊あおいの原作をスタジオジブリが1995年にアニメ化した映画「耳をすませば」に登場してファンの間で一躍有名になった。
「耳をすませば」は桜ヶ丘周辺が物語の舞台のモデルとなっており、印象的な風景が多く登場するのだが、この給水塔は主人公の「雫」が暮らす団地の背景として描かれている。主人公「雫」の暮らす団地の全体的なイメージもこのあたりの団地のそれに近く、ファンの間ではこの近辺がそのモデルになったのだろうと言われているのだ。
愛宕地区はそもそも愛宕神社を祀る鎮守の森があった丘陵で、そのために「愛宕」の名がある。本来の愛宕神社はその森の中に在ったのらしいが、多摩ニュータウンの造成に伴って現在の場所に遷座したものだ。
愛宕神社は北側に降りたところに鳥居があって、こちらから見えるのは愛宕神社の後ろ姿だ。神社の敷地は駐車場になっていて、住宅街の中に取り残されたように建つ社の姿が少々哀れだ。
愛宕神社から道路を挟んで、眼前にはこんもりとして雑木林がある。鎮守の森の一部を緑地として残した愛宕山緑地だ。愛宕山緑地の南側には東愛宕中学校があり、その間を遊歩道が西に延びている。遊歩道の脇には木立も多く、野鳥の声を聞きながらの散策を楽しむことができる。
遊歩道をしばらく進むと市境を越えて八王子市鹿島になり、やがて視界が開け、大塚東公園の傍らへと至り、愛宕地区から八王子市鹿島にかけてほぼ一周したことになる。
本来が鎮守の森を抱えた丘陵であった愛宕の街だが、今はその面影はわずかに愛宕神社や愛宕山緑地などに見ることができるに過ぎない。愛宕の街の散策はほとんど住宅地の中を辿ることになるのだが、南側斜面には大小の公園が点在し、北側には遊歩道脇に緑が多く残る印象で、また場所によっては広く開けた眺望を楽しめる場所もあり、気ままな散策もそれなりに楽しめる。ここに暮らす人たちにとってはなかなか快適なものかもしれない。丘陵の南側には多摩ニュータウンが拡がっているが、北側にはまだまだのどかな風景も残っており、その景観の違いも印象的だ。