町田市野津田町〜山崎町
早春の七国山
Visited in March 2006
(本頁の内容には現況と異なる部分があります)
町田市山崎町の北東部から野津田町の南部にかけて、
七国山周辺の丘陵部は畑地や林の織りなす風景の美しいところだ。北部には牡丹の名所として知られる「
町田ぼたん園」が、東部には四季折々に花々の楽しめる「
薬師池公園」などがあり、四季を通じて散策を楽しむ人たちの多いところだ。その七国山周辺の丘陵を、梅の咲く季節に歩いてみた。
薬師池公園の駐車場に車を置き、公園の裏門側の小道を辿ってまず七国山を目指そう。小道は薬師池公園の外縁部に沿うように延びている。道は上り坂で、けっこう勾配がきつい。坂道を上りきると視界が開け、道の左手(南側)に丘陵部の斜面を利用して造られた畑地が広がる。畑地の横を下る小道は、鎌倉街道の今井谷戸方面へと降りてゆくことができるのだろう。畑地の向こうに家並みが見え隠れする。畑地の下方に梅林がある。陽光を受けて輝く様子が美しい。その梅林の風景を写真に捉えようというのだろう、カメラを構えてより良い構図を探している様子の人の姿があった。
薬師池公園の外縁部を辿り、北へ回り込むように小道が続く。道は尾根道だ。右手には公園の林の木々が並び、左手には緩やかな斜面に畑地が広がっている。公園の木々は葉を落とした姿で、見上げれば裸の枝の向こうに早春の青空が見える。やがて小さな分かれ道に差し掛かる。公園外縁部を辿る道から左手、西側へ細い未舗装の小径が延びている。小径の左手は谷戸の地形で、畑地が緩やかに降りている。分かれ道の傍らには小規模ながら梅林があり、紅白の梅が常緑樹の緑を背景に美しく映える。未舗装の小径をこちらへ歩いてくる人たちの姿がある。散策を楽しむ人たちのグループのようだ。狭い道だから、その人たちが行き過ぎるのを待って小径へと進んだ。
周囲に広がる長閑な風景を楽しみながら七国山へと歩く。七国山頂上部の傍らに見晴台のような場所がある。案内板が設置されており、「山崎見本園見晴し台」との名がある。傍らの畑地は町田市が借り受け、(社)町田市シルバー人材センターに花の栽培を委託している場所という。初夏から秋にかけてはマリーゴールドが美しいと記されている。時刻はすでにお昼に近いが、日陰になったところには霜柱が立っている。三月とは言え、まだまだ春は浅い。見晴台からは視界が開け、丘陵部の向こうに連なる家並みが見える。どの辺りの街並みが見えているのだろう。見晴台にはときおり散策の人が立ち寄り、そこからの眺めを楽しんでいる。
見晴台を後にして周辺の散策へと歩を進めよう。見晴台前の道を少し南へ行くと「鎌倉井戸」だ。以前にも見たことはあるが、せっかくなので立ち寄ってゆこう。「鎌倉井戸」は以前見たときと少し違う。どうやら改修が行われたようだ。「鎌倉井戸」を見た後は「七国山緑地保全地域」に指定された雑木林の中の小径を歩こう。林はまだ冬枯れの風景で、木々はまだ芽吹きを迎える前だ。林の中は陽光が降り注いで明るい。緑濃い季節の林も良いものだが、冬枯れの林の明るさもまた楽しい。この林の中には鎌倉古道が残っているという。独特の堀割状の地形が目を引く。林を抜け出たあたりは、以前は丘の上に畑地の広がる長閑な風景だったのだが、今は宅地造成されて、ところどころで住宅の建築工事が行われている。ほんの数年で風景はすっかり変わってしまった。住宅地となった丘を後にして、いったん北へ降りて町田ぼたん園へと坂を上がろう。
丸山橋方面へと進み、途中で右手(東)へ折れて坂を上れば町田ぼたん園だ。坂道の途中、道脇に見事なシラカシが枝を広げている。こんもりとした姿が印象的だ。常緑樹の緑はこの季節にはとくに目立つ。「町田市名木百選」と「町田市指定保護樹木」の双方に指定された樹木である旨が記されたプレートが木の幹に取り付けられている。樹高25m、幹周り3.1mであるそうだ。このシラカシの、道を挟んで向かい側では見事な白梅が花を咲かせている。少し坂の上の方にも白梅と紅梅が日の光を浴びて輝いている。梅と並んで花を咲かせている黄色い花は山茱萸(サンシュユ)だろうか。そうした樹木や花々を楽しみながら坂を上る。
坂を上りきれば町田ぼたん園の少し南側の丘の上へと出る。横手の丘の上の畑地に梅林があり、美しい早春の風景を見せてくれている。この付近はなだらかな起伏の丘の上に畑地が広がり、たいへんに美しい景色が堪能できるところだ。散策を楽しむ人の姿もこの付近がいちばん多く、道脇ではスケッチを楽しむグループの姿もある。この季節の風景は葉を落とした雑木林が少々寒々しい印象だが、梅の花の色彩がそれを補って早春の気配を漂わせている。あちらから見たり、こちらから眺めたり、少し離れて高みから見下ろしたり、畑越しに見える風景を楽しんだり、視点を変えれば景色の表情が変わり、それぞれに美しい。
町田ぼたん園にも立ち寄ってゆこう。町田ぼたん園はその名が示すように牡丹の名所として知られ、四月末から五月上旬の牡丹の花期には多くの訪問客で賑わう。牡丹の花期には入園料が必要だが、それ以外の時期には無料で開放されており、自由に利用することができる。この季節にはもちろん牡丹の花は無いが、園内の随所に
梅や馬酔木などが咲いており、充分に楽しめる。園内にはのんびりと散策を楽しむ人たちの姿もあった。和風庭園的な造りの園内は落ち着いた佇まいで、散策中の一休みにもよい場所だ。園内を一巡りした後はベンチに腰を下ろし、少し休憩してゆくことにしよう。
町田ぼたん園で一休みした後はのんびりと丘の風景を眺めながら
薬師池公園へと戻ろう。町田ぼたん園の前の道を南へ、緩やかな坂道を上り、ファーマーズセンターの横から畑地の脇を辿る小径へと進む。少し行けば住宅地へと出て、そのまま進めば薬師池公園の西側、ちょうど薬師堂の横手へと入って行ける。薬師堂の前を抜けて公園内へと降りてゆくと梅林だ。里山の畑地に見る梅林も素朴な味わいがあって良いものだが、
薬師池公園の梅林は公園の風情と相俟って絢爛な印象があり、やはり素晴らしい景観だ。梅林は今が満開のようだ。大勢の人が観梅に訪れて賑わっている。それに混じって公園の梅林を堪能してゆこう。梅の匂いを充分に愉しんでから駐車場へと向かうことにしよう。
今回は早春の風に吹かれながら丘陵を歩き、最後に薬師池公園の梅林を見てゆこうというのが、大まかな予定だったが、予想以上に美しい景色に出会えた散策だった。町田ぼたん園周辺の丘陵の風景は特に美しく、長閑な景色の中、春の息吹を感じながら歩くのは素晴らしいひとときだった。町田ぼたん園周辺と薬師池公園の双方だけでも、充分に早春の散策の楽しみを堪能することができる。あまり先を急がず、のんびりと早春散歩を愉しみたい。
【追記】
町田市では2014年度(平成26年度)から薬師池公園とその周辺を一つの大きな地域公園として捉え、「町田薬師池公園 四季彩の杜」の名称で整備を進めている。それに伴い、「薬師池公園」は「町田薬師池公園 四季彩の杜 薬師池」に、「町田ぼたん園」は「町田薬師池公園 四季彩の杜 ぼたん園」に、それぞれ呼称が改められている。本頁の内容はそれ以前のものであることもあり、以前の呼称のままにしておきたい。