横浜市青葉区恩田町
晩冬の恩田町
Visited in February 2022

冬の寒さの続く二月中旬、恩田町を訪ねた。白山谷戸の周辺を歩いて、冬枯れの里山風景を楽しみたいと思ったのだった。東急こどもの国線恩田駅から出発して、恩田町の北東部を一回りしてみたい。

やがて丘の西側斜面に沿って辿る細道に合流する。この道は車一台がようやく通れるほどの幅しかないが、道沿いには住宅も点在している。丘の中腹に沿って延びる道は、ところどころで眺望が開けて恩田駅周辺の景色を眺めることができる。

道祖神が祀られていることや、道の様相から考えれば、丘の斜面を辿る道が旧来の道なのだろう。こどもの国通りが通る奈良川河岸には、かつては農地が広がっていたのではないだろうか。

道の左手(北西側)には丘が横たわり、民家が点在する。途中、丘の斜面に小さな石の“祠”に守られてお地蔵様が佇んでいらっしゃる。昔から道行く人を見守ってらっしゃるのだろう。お地蔵様の身体は風化によるものか、ずいぶんと傷んで、もはやお顔もはっきりとしないが、それでも地元の方に大切にされていることが窺える。

白山谷戸は冬枯れの風景だ。農地は耕作前、雑木林の落葉樹は葉を落としている。殺風景とも思える風景だが、閑寂な空気を湛えた季節の興趣である。そんな風景を楽しみながらのんびりと谷戸の道を歩く。谷戸の道を通り過ぎる車もなく、人の姿もない。静かなひとときである。

その坂道の脇に「源流の森保存地区 横浜市」と記された標柱が立っていた。「源流の森保存地区」とは、横浜市のウェブサイトによれば「緑豊かな都市景観を形成し、市民生活に潤いと安らぎを与えているとともに、保水・治水機能の保全と河川の水量の確保に寄与している郊外部の良好な樹林地について、土地所有者の方にご協力いただき指定することにより、樹林地の保存を図る制度」だそうである。なるほど、分かりやすい説明である。こうした制度によってこのような雑木林の丘陵が保全されているのは嬉しいことだ。

白山神社を名乗る神社は全国各地にあるが、そもそもは北陸の白山を信仰する山岳信仰の神社である。山は流れ出る水によって人々の暮らしを支える存在であり、そこから水神や農耕の神としての信仰対象となったと考えられる。恩田町の白山神社も白山谷戸の農地を守る神として勧請されたものだろう。昔はもっと立派な社が建っていたという話も聞いたことがあるが、残念ながら詳しいことはわからない。いつ頃創建されたものかもよくわからないが、かなり古いものであることは間違いないだろう。

丘を横切る道の途中、尾根を越えるところで小さな“切り通し”のようになったところがある。道は車両の通行の出来ない細道で、いかにも尾根を削って小径を通したらしい様相だ。道脇の崖面は土が剥き出しになって木の根が露わになっている。こうした風景も今ではなかなか見ることが少なくなった。昔懐かしい里山の風景である。

道はやがて緩やかに下り坂になって丘を降りてゆく。道の右手(東側)には木々が鬱蒼と茂り、左手(西側)は竹林だ。この辺りの道の様子がとてもいい。このような道に出会うのも里山歩きの醍醐味と言っていい。景観を楽しみながらゆっくりと歩き、立ち止まっては振り返って景観を楽しむ、ということを繰り返した。

150mほど進んだところに十字路があり、こどもの国通りから西へ入り込む道がある。道は奈良川を橋で越え、東急こどもの国線を踏切で越え、さらに奥へ延びている。道の先には小さな谷戸がある。行き止まりの谷戸なのだが、恩田町の昔ながらの風景を残すところだ。おそらく地元の人だけが通る道を、少し恐縮しながら歩かせていただく。谷戸の奥に入り込むと長閑な風景が広がっている。谷戸の風景を堪能したら、また奈良川の河岸へ戻ろう。

途中、川岸の草の上にカワセミの姿を見つけた。このような交通量の多い道路脇でもカワセミの姿があるのかと、少し驚く。この日使っていたカメラが40mm単焦点のレンズだったため、カワセミの姿を写真に捉えることができなかったのは残念だった。

「うしでんしゃ」は東急電鉄とこどもの国協会、雪印こどもの国牧場が連携して、「こどもの国」の認知度向上や来園者増加、こどもの国線の利用者増加などを目的に行っているものだ。2018年(平成30年)10月から運行を開始、当初は2020年(令和2年)3月までの期間限定運行の予定だったが、好評だったことを受けて運行を継続している。こどもの国線では「うしでんしゃ」の他に、2020年(令和2年)3月から「ひつじでんしゃ」も運行している。これも機会があれば見てみたいものだ。

恩田町の辺りはこれまで何度も訪ねたことがあるが、訪ねる度に新しい発見がある。今回は白山神社を訪ねることができてよかった。「うしでんしゃ」に遭遇したのも楽しかった。まだまだ厳しい寒さの続く時期だったが、すでにところどころで梅も咲き始めていた。充実した散策だった。


