神奈川県真鶴町、相模灘に小さく突き出た真鶴半島の突端が真鶴岬だ。展望台から眺める海原の景色は美しく、数多くの観光客が訪れる。残暑厳しい九月下旬、真鶴岬を訪ねた。
真鶴岬
真鶴岬
神奈川県足柄下郡真鶴町は神奈川県のほぼ南西端に位置する。町域の南部は相模灘に突き出た小さな半島を成している。真鶴半島という。真鶴半島にはクスノキやスダジイなどの照葉樹やマツ、さらに多くのシダ類が繁茂し、鬱蒼とした照葉樹林を成している。この森が豊かな漁場を育み、昔から地元の漁師たちによって大切に守られてきたという。2009年(平成21年)には「真鶴半島の照葉樹林」として神奈川県の天然記念物にも指定されている。森には遊歩道が設けられており、森林浴を楽しみながら散策することもできる。
真鶴岬
真鶴岬
真鶴岬
その真鶴半島の突端の岬が真鶴岬である。ちなみに真鶴岬と三浦半島突端の城ヶ島とを繋ぐラインの北側が「相模湾」、南側が「相模灘」なのだそうだ。真鶴岬の突端部には展望所が設けられている。展望所は標高約50メートル、眼前には大海原が広がり、壮大な眺望を楽しむことができる。空気が澄んでいれば、水平線の上には大島や初島、式根島といった島々から三浦半島、房総半島のシルエットを見ることもできるという。岬の磯辺の沖に浮かぶ岩礁のような小島は三つの巨岩が海面に突き出た形状から「三ツ石」と呼ばれ(正式には「笠島」という)、真鶴岬の象徴的な景勝として知られる。「真鶴岬と三ツ石」は1979年(昭和54年)に選定された「かながわの景勝50選」のひとつにも名を連ねている。

展望広場の隅には幕末に築かれた台場跡の痕跡が残っている。1825年(文政8年)に幕府から出された異国船打払令(外国船打払令とも言う)を受けて小田原藩も5ヶ所の台場(砲台)を築いたが、そのうちのひとつが真鶴岬にもあった。台場は縦約36メートル、横約30メートルの規模だったそうだが、現在では台座の石材がわずかに残るのみという。岬の展望所から海原を眺めながら、当時の人々の思いを想像してみるのも一興かもしれない。
真鶴岬
真鶴岬
真鶴岬
真鶴岬の展望広場には「ケープ真鶴」という休憩施設が建っている。「ケープ真鶴」にはお土産物を扱う売店や軽食の可能な喫茶コーナーもあり、真鶴岬を訪れた人の休憩コーナーとしての役割を担っている。

「ケープ真鶴」の二階部分は「真鶴町立遠藤貝類博物館」になっている。長年、貝類の収集研究をされきた遠藤晴雄氏のコレクションを展示した施設だ。遠藤晴雄氏は真鶴町生まれ、貝類の収集と研究にその生涯のほぼすべてを捧げてこられた。遠藤晴雄氏は2006年(平成18年)に亡くなり、その後、それまで個人で運営されていた遠藤貝類博物館に展示されていた氏のコレクションが氏の夫人から真鶴町に寄贈され、それを展示する施設として造られたのが「真鶴町立遠藤貝類博物館」だ。博物館は遠藤晴雄氏の収集された“貝殻”を生息地で分類して展示したものだが、これがなかなか楽しめる。世の中にはこんな形状の貝もいるのかと、見学してゆくほどに驚きを覚える。入館には料金が必要だが、ぜひ見学してゆくことをお勧めする。特に貝に興味が無いという人でも新たな発見があるに違いない。
真鶴岬
真鶴岬
「ケープ真鶴」前の展望広場かから岬突端の磯辺「三ツ石海岸」へと、小路が斜面を下っている。磯辺へと降りれば展望広場からの視点とはまだ違った印象で大海原の景観が楽しめる。今回訪れたのはまだ朝と言っていい時刻、眼前の三ツ石は逆光の中にシルエットで浮かび、海原は陽光を反射して煌めく。その様子が美しい。三ツ石を構成する岩礁には注連縄が渡され、小さな鳥居も置かれており、古くから“霊域”として信仰の対象だったことをうかがわせる。岬の磯辺から三ツ石までは波に洗われて小さな岩礁が連なっている。大潮の引き潮のときには完全に地続きになるらしい。磯辺では何組もの家族連れが磯遊びを楽しんでいる。今回訪れたのは九月下旬だったが残暑が厳しく、海風が心地よい。
真鶴岬
真鶴岬
真鶴岬
「三ツ石海岸」から磯辺を辿るように小路が延び、岬の南側へと回り込んでゆける。磯釣りや磯遊びを楽しむ人たちの姿を眺めつつ小路を辿ってゆけば、やがて小さな浜辺に出る。「番場浦海岸」だ。番場浦海岸は小さな入り江の形状を成しており、その奥に小さな礫浜を抱えた形だ。この入り江が「番場浦」なのだろう。周辺の磯辺や崖の景観が荒々しくも美しい。真鶴町の海岸はシュノーケリングを楽しめる場所が多いそうだが、その中でも「番場浦海岸」はシュノーケリングの“穴場”的なスポットらしい。今回訪れたときにもシュノーケリングを楽しむ人たちの姿があった。「番場浦海岸」から鬱蒼と木々の茂る岬の斜面を遊歩道が辿っている。遊歩道を息を切らして登れば「ケープ真鶴」西側に少し離れた駐車場に出る。「ケープ真鶴」に戻って一休みだ。

展望広場からの雄大な眺めを堪能し、その後は磯辺へ降りて海岸の風情を楽しみつつのんびりと歩く。磯辺の景観も美しく、海辺散策の醍醐味を充分に味わうことのできる真鶴岬である。
お林展望公園
お林展望公園
真鶴岬の展望広場からやや西側に戻った辺りに「お林展望公園」という公園がある。かつての「真鶴サボテンランド」の跡地を公園として整備したものだそうだ。「真鶴サボテンランド」は小田急資本のテーマパークで、1963年(昭和38年)に開園した。その名のようにさまざまなサボテンを展示し、大勢の来園者で賑わったという。しかし1990年代頃から来園者は減少、2004年(平成16年)に閉園している。その跡地に広場や展望所などを整備、公園として一般開放しているのが現在の「お林展望公園」だ。「真鶴サボテンランド」時代の施設は撤去され、展示されていたサボテンも売却されるなどして処分、わずかに園内に残る椰子や蘇鉄、竜舌蘭などが往時の面影を残している。
お林展望公園
お林展望公園
公園は基本的に丘の上の広場という形だ。「真鶴サボテンランド」時代の置き土産と思えるワシントン椰子や蘇鉄などの姿が南国的な雰囲気を漂わせている。2012年(平成24年)にオープンしたというパークゴルフ場を抜けて突端部の展望所まで進むと、眼前には相模灘の雄大な景観が広がる。正面に見える島影は初島だろうか。左に視線を向ければ三ツ石の姿も見え隠れする。その展望が、「お林展望公園」の最大の魅力だろう。真鶴へ観光に訪れた際、ぜひ訪れるべき場所とは言い難いが、余裕があれば立ち寄ってみるのも悪くない。「真鶴サボテンランド」を知る人なら、往時の姿を思い出しながら時代の変遷に思いを馳せるのも一興かもしれない。
参考情報
交通
真鶴岬へはJR東海道本線真鶴駅から「ケープ真鶴」行きの路線バスを利用するといい。バスは1時間に2本ほどの頻度で運行している。

東京方面から車で訪れる場合は小田原から国道135号を南下すればいい。沼津市方面から車で訪れる場合は、国道1号の箱根峠から県道20号、湯河原パークウェイ、県道75号と辿って湯河原を経由、国道135号を北上するのがわかりやすいだろうか。三島市から函南町を経由して県道11号で熱海で抜け、国道135号を北上するルートもよいかもしれない。

真鶴駅前で東(海側)へ折れて県道739号を辿り、「岬先端」、あるいは「三ッ石」方面へと向かえば迷うことはない。「ケープ真鶴」周辺に駐車場が用意されている。お林展望公園にも駐車場が用意されている。

飲食
「ケープ真鶴」に軽食コーナーが設けられているが、食事のメニューは限られる。食事は真鶴漁港周辺へ移動して楽しむのが良さそうだ。

気候の良い季節ならお弁当を持参し、磯辺で海を眺めながらのランチもお勧めだ。

周辺
「ケープ真鶴」周辺には林の中を辿る散策路もある。林から海辺へと散策を楽しむのもお勧めだ。岬から少し戻って真鶴漁港周辺を散策したり、岩海岸を訪ねてみるのも楽しい。

真鶴から国道135号を南へ辿ればすぐに湯河原だ。日帰り温泉を楽しんだり、もちろん宿泊するのもいい。温泉街の散策も楽しい。
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