神奈川県大磯町、海岸に近い東海道沿いに大磯城山公園という県立公園がある。明治期に三井財閥の別荘が建てられた跡地を公園として整備したものという。自然豊かな公園は山百合の名所としても知られる。山百合が見頃の七月上旬、大磯城山公園を訪ねた。
2013年12月、国道1号南側の旧吉田茂邸跡地が大磯城山公園の一部として開園した。これにより大磯城山公園は国道北側の「旧三井別邸地区」と南側の「旧吉田茂邸地区」との二地区から構成されることになった。本頁の内容は、「旧吉田茂邸地区」が開園する以前の2013年7月、大磯城山公園が旧三井財閥別邸跡地のみから構成されていた当時に来園したときのものである。
大磯城山公園
大磯城山公園
神奈川県大磯町の海岸近くに位置して、大磯城山(おおいそじょうやま)公園という県立公園がある。公園の中心部は小高い丘になっており、かつて室町時代、この丘に小磯城という城が築かれていたそうで、そのことから城山と呼ばれるようになったものという。それよりさらに古い時代にも人々の営みがあった場所であるらしく、公園内の土地からは縄文土器が発掘されており、園内には横穴墓も残されている。明治期には三井財閥の別荘が築かれ、丘は庭園として整備されたという。戦後の財閥解体の後は三井家の手を離れ、長く放置されていたらしい。その跡地を公園として整備したものが大磯城山公園というわけだ。公園が開園したのは1990年(平成2年)のことだそうだ。
大磯城山公園
大磯城山公園
公園は中心部が小高い丘で、その周辺部に広場などを設けた構成になっている。国道1号に近い南端部には第1駐車場と管理棟が設けられ、管理棟脇から中心部への丘へと園路が辿っている。丘上には相模湾を見下ろす展望台が設けられ、その奥には木々に包まれた「ひかりの広場」と名付けられた広場が置かれている。丘の東側裾には「ふれあいの広場」と名付けられた広場があり、その一角には大磯町郷土資料館が建っている。丘の西側は斜面をつづら折りで園路が下り、「もみじの広場」と名付けられた日本庭園が置かれている。公園内には遊具類などはなく、小さな子どもたちの遊び場としての役割は担っていない。
大磯城山公園
公園は木々が茂って緑濃く、起伏に富んで豊かな表情を見せる。鬱蒼とした樹林を縫って辿る園路の様子や興趣に富んだ日本庭園の佇まいなど、園内に魅力は多いが、丘上からの眺望は特筆すべきものかもしれない。特にガゼボの設けられた展望所からの、相模湾を見下ろす景観は爽快な開放感があって素晴らしい眺めだ。
大磯城山公園
公園の丘は、本来は北側の丘陵地から延びる尾根の南端部に当たる地形のようだが、今は東海道線の線路によって北方の丘陵地からは切り離された形だ。公園北端部まで進むと東海道線の線路際で、走る電車の音も聞こえてくるが、気になるほどではなく、公園中心部では東海道線の電車の音も国道1号の車の音もほとんど聞こえてはこない。風に揺れる木立の音と鳥の声が聞こえるばかりの静かな公園だ。
大磯城山公園
三井財閥の別荘跡地を整備したという経緯の公園だから、基本的にその性格は“三井財閥別邸跡地公園”でも呼ぶべきものと言っていい。園内には三井別荘時代の遺構も残され、往時の様子を伝える写真なども掲示されており、明治期の財閥の別荘の様子を窺い知ることができる。当時の姿に思いを馳せつつ、のんびりと園内を巡って散策を楽しむのがお勧めだろう。
大磯城山公園
展望台
公園中央部の丘の南端には展望台が設けられている。展望台にはガゼボ(西洋風四阿)が建てられ、その周囲は木々が取り払われて開放感のある展望台になっている。展望台からは南から西に向けて視界が開け、相模湾を一望し、眼下の海岸には大磯ロングビーチも見える。遠くに目を凝らせば箱根の山々から真鶴半島、伊豆半島の稜線も霞んで見える。素晴らしい眺望と言っていい。天候に恵まれれば富士山の姿も見ることができるようだが、残念ながら今回訪れたとき(2013年7月)には見ることができなかった。展望台にはそこから見える山々の名を記したパネルがあり、その傍らには双眼鏡も設置されている。双眼鏡の中に遠い風景を探してみるのも楽しいひとときだ。
大磯城山公園/展望台
大磯城山公園/展望台
ガゼボのベンチではお弁当を広げる人の姿もある。丘に吹き渡る風を感じながら、眺望を楽しみつつのランチタイムは至福のひとときだ。この展望台でのランチタイムを目的に大磯城山公園に訪れるという楽しみ方もあっていい。

このガゼボは八角形の屋根とその上に載った鶴のオブジェが特徴的だが、これは三井財閥別荘の「城山荘本館」の意匠をモチーフにしたもののようだ。「城山荘本館」は久米権九郎設計による木造建築で、1934年(昭和9年)に完成したものという。中央には「養老閣」という四層構造の塔屋があり、最上階には展望室を設け、屋根の上には鶴の飾りがついていたそうだ。簡単な解説を添えた「城山荘本館」の写真が設置されているから、訪れたときには見ておきたい。
大磯城山公園/展望台
大磯城山公園/展望台
北蔵ギャラリー
展望台の少し北側には木立に包まれるようにして石造りの蔵が建っている。旧三井財閥別荘時代の1941年(昭和16年)頃に建てられたもので、当時の建物としては唯一現存するものという。木々の緑の中に建つ蔵の姿は独特の存在感を放っている。その重厚な外観だけでも見学しておきたい。

現在はギャラリーとして一般に解放され、絵画や陶芸、写真などの展示ギャラリーとして使用されている。興味のある内容の展示が行われていれば覗いてみるのも悪くない。
大磯城山公園/北蔵ギャラリー
大磯城山公園/北蔵ギャラリー
ひかりの広場
北蔵ギャラリー横からさらに北へと園路を辿ると、奥まったところに「ひかりの広場」と名付けられた一角が設けられている。中央部は木々に囲まれた広場で、ひっそりと穏やかな佇まいだ。広場の東南側からは木々の向こうに相模湾を望むこともでき、南側の展望台からの眺望とはまた違った眺めを楽しめる。三浦半島や江ノ島も見えるそうだが、訪れた時(2013年7月)は天候のせいか、その姿を見つけることはできなかった。
大磯城山公園/ひかりの広場
旧三井別荘時代には「法雲堂」や「大圓亭」、「大雄殿」、「六窓堂」といった建物が周辺に点在していたそうだ。現在はその台座部分などの遺構を残すのみだが、往時の建物を模した意匠の四阿が建てられるなどして三井別荘時代の面影の再現が試みられている。かつて三井家の人々が客と共にここを歩いたりしたのだろうか。その様子を想像しながらの散策も楽しい。
大磯城山公園/ひかりの広場
広場とその周辺には四阿の他にも随所にベンチが設けられている。海を見下ろす丘の風情を楽しみながら、ぼんやりと相模湾を眺めて時を過ごすのも一興だろう。ここもまた、風に吹かれながらのランチタイムに絶好の場所だと言っていい。
大磯城山公園/ひかりの広場
ふれあいの広場
公園北東側の丘裾には「ふれあいの広場」が設けられている。「ふれあいの広場」脇には公園の北東側のエントランスがあり、第2駐車場も設置されている。また広場の南側には大磯町郷土資料館も建っている。

西に丘を背負った広場には随所に木立があり、緑濃く穏やかな空気感を漂わせている。随所に置かれた庭石の風情もよく、しっとりと落ち着いた佇まいの広場だ。
大磯城山公園/ふれあいの広場
この広場の一角には、旧三井別荘時代、国宝の茶室「如庵」が建てられていたという。「如庵」は織田有楽斎によって1618年(元和4年)、京都に建てられた。織田有楽斎は織田信長の実弟で、千利休に茶道を学び、後に茶道有楽流を興した人物だ。「如庵」は1908年(明治41年)、東京の三井本邸へ移築され、1938年(昭和13年)に大磯の三井別邸城山荘、すなわち現在の大磯城山公園に再移築されている。東京から大磯へ位置されたのは戦火を逃れるためだったという。「如庵」は1936年(昭和11年)に国宝の指定を受け、戦後の1951年(昭和26年)、改めて国宝指定されている。その後、「如庵」は1972年(昭和47年)に名古屋鉄道によって犬山市の名鉄犬山ホテル敷地内に設けられた「有楽苑」に移築、現在も保存展示がなされている。
大磯城山公園/ふれあいの広場
大磯城山公園/ふれあいの広場
横穴墓群
公園東端部、管理事務所裏手の丘の斜面には古墳時代後期の横穴古墳群が残されている。フェンス越しに見学ができるだけだが、古代の人々の営みがあったことの痕跡として、ぜひ見ておきたい。園内に建つ大磯町郷土資料館で詳しい資料や解説が見られるそうだ。興味のある人は資料館に立ち寄っておこう。
大磯城山公園/横穴墓群
もみじの広場
丘を西へ降りた公園西端部には不動池を中心に日本庭園が整備されている。不動池には鯉が泳ぎ、八ッ橋や飛び石も設けられ、岸辺には四阿も建てられて風雅な佇まいの庭園美を見せてくれる。不動池の南側の岸辺に立って眺めれば、四阿が公園内の丘を背負い、緑濃い景観が美しい。それほど規模の大きな庭園ではないが、しっとりと落ち着いた印象の魅力的な空間を成している。池の周囲をのんびりと巡って庭園の景観を楽しみ、その後は四阿でのんびりと時を過ごすのがお勧めだろう。
大磯城山公園/もみじの広場
この一角は「もみじの広場」と名付けられており、その名のようにカエデも多く植栽され、新緑や紅葉の時期の景観は殊更に美しいそうだ。また不動池の西側の岸辺には紫陽花も植えられており、六月の花期には美しい景観を見せてくれるようだ。今回訪れたのは七月初旬、紫陽花はすでに盛りを過ぎていたが、園路脇に続く紫陽花の景観を楽しむことができた。
大磯城山公園/もみじの広場
日本庭園の背後の斜面には丘の上から降りてくる園路が辿っているが、その途中に「小淘綾ノ滝(こゆるぎのたき)」という小さな滝がある。丘上から不動池へと導かれる水の流れの途中に設けられたものだ。もちろん人工的に設けられた滝だと思うが、やはり滝というものは興趣のある風景だ。この「小淘綾ノ滝」も含めての日本庭園と言っていいのだろう。
大磯城山公園/もみじの広場
大磯城山公園/小淘綾ノ滝
茶室「城山庵」
日本庭園の東側には庭園の延長のように「城山庵」という茶室が設けられている。旧三井別荘時代に置かれていた国宝の茶室「如庵」を模して造られたものという。「城山庵」は茶道教室が開催されるなどの他、一般にも解放され、茶会などに利用できるらしい。

「城山庵」には呈茶席も併設されており、季節毎の和菓子が付いた抹茶をはじめ、コーヒーや紅茶などを楽しむことができる。園内散策の後、ゆったりとした気分で抹茶を味わうのも贅沢なひとときに違いない。

「城山庵」の東側には公園の南西側のエントランスが設けられている。「城山庵」や日本庭園に直行する場合には、このエントランスを利用するのが近い。
大磯城山公園/茶室「城山庵」
大磯城山公園/茶室「城山庵」
大磯城山公園
大磯城山公園は山百合の花が見られる公園としても知られている。山百合は日本原産のユリで、特に東海、関東、東北の太平洋岸を中心に広く分布する。直径20cm以上にもなる大きな白い花を咲かせ、強い芳香を放つ。その華麗さから「百合の女王」などとも呼ばれる。東日本の夏を象徴する花のひとつだ。神奈川県では山百合を「県の花」としている。
大磯城山公園
山百合は林地の縁の草地などを好み、丘陵地の疎林の中などにぽつりぽつりと咲く姿が印象的だが、大磯城山公園では展望台南側の園路脇で数多くの山百合を見ることができる。これほどの数の山百合が集まって咲く様子はなかなか他では見ることが少ないのではないか。山百合は栽培が難しいそうだが、大磯城山公園の山百合はおそらく育成されたものだろう。郷土資料館脇の花壇にも山百合の姿があり、園内の他の場所でも見つけることができるが、やはり展望台下の園路脇はその数の多さによって圧巻の景観を見せる。
大磯城山公園
夏空の下、木漏れ日を浴びて咲き誇る山百合の姿は華麗でありつつ清楚な印象も漂わせ、まさに「百合の女王」の風格と言っていい。一輪一輪の花も美しいが、複数の花が視界に収まる景観も見事だ。数多くが並ぶ山百合のそれぞれを見てゆけば、それぞれに表情が違ってそれぞれに美しく、つい何度も何度もカメラのレンズを向けてしまう。立ったまま見下ろすより、腰を落とし、下から見上げるように観賞するのがお勧めだろう。夏の青空や木々の緑を背景に見る山百合の花が、やはり最も美しい気がする。
大磯城山公園
山百合は一般的には七月から八月にかけて花期を迎えるが、地域によって差がある。大磯城山公園は神奈川県の海岸部、六月末から七月半ばにかけて花期を迎え、七月上旬が見頃となるようだ。数多くの山百合が夏の訪れを告げる大磯城山公園、山百合の名所と言っていい。
大磯城山公園
参考情報
交通
大磯城山公園はJR東海道線近くの立地だが、駅からは距離があり、大磯駅から歩けば30分以上かかりそうだ。大磯駅から国府津行きや二宮駅北口行きのバスを利用し、「城山公園前」バス停で下車すると近い。

公園には旧三井別邸地区に二ヶ所、旧吉田茂邸地区に一ヶ所の駐車場が用意されており、車での来園も可能だ。旧三井別邸地区の第一駐車場は38台、第二駐車場は19台、旧吉田茂邸地区駐車場は26台が駐車可能だ。旧三井別邸地区第一駐車場と旧吉田茂邸地区駐車場は駐車料金が必要だが、場所がわかりやすく利用しやすい。旧三井別邸地区第二駐車場は無料で利用できるが場所がわかりにくく、国道1号からは狭い道を通って行かなくてはならないので、大きな車や運転技術に自信の無い人には利用しづらいだろう。初めて訪れる人は旧三井別邸地区第一駐車場や旧吉田茂邸地区駐車場の利用をお勧めする。各駐車場の入口位置などは公園の公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

公園は国道1号沿いの立地で、訪れるには国道1号を利用するのがわかりやすい。遠方から来園する人は小田原厚木道路を利用し、大磯ICから南下し、国道1号を東進するといい。

飲食
大磯城山公園内にはレストランや売店などはなく、周辺にも飲食店はない。国道1号に出れば道沿いに点在しているが、数は少ない。

自然豊かで眺望の良い公園なのでお弁当持参でのピクニック気分での来園がお勧めだ。園内にはお弁当を広げるのに適した場所がいくつもあるが、旧三井別邸地区の展望台に設けられた四阿での、相模湾を眺めながらのランチはお勧めだ。

周辺
大磯城山公園の南西側、海岸部には有名な大磯ロングビーチが近い。国道1号をさらに西へ辿れば二宮町、JR二宮駅の北西側には吾妻山公園がある。
夏散歩
公園散歩
神奈川散歩