東京都東村山市の北山公園は花菖蒲の名所として知られる。花菖蒲が見頃となる六月中旬には北山公園を会場に「東村山菖蒲まつり」が開催されて賑わう。「東村山菖蒲まつり」を訪ねた。
北山公園/東村山菖蒲まつり
東京都東村山市の北西部、野口町の北端に北山公園という公園がある。北には西武西武園線が通り、その向こうは八国山緑地、南は北川が流れ、その間に挟まれるように横たわっている。特筆するほど規模の大きな公園ではないが、花菖蒲の名所としてよく知られている。
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
公園のある辺りにはかつては水田が広がっていたという。1973年(昭和48年)頃になって不動産業者による水田の買収が進んだが、東村山市はこの地区の自然環境を保存するために水田地帯を公園として整備することを計画、土地を不動産業者から買い戻し、残っていた土地も地主から譲り受けた。1976年(昭和51年)1月には市の都市計画公園として「北山公園」の整備が決定、1976年度(昭和51年度)から公園の造成が始まっている。公園内には花菖蒲園を設けて花菖蒲が植えられた。以降、花菖蒲園は規模を拡大、1981年(昭和56年)には40種、3万本を超えた。翌年には「新東京百景」のひとつに選定され、北山公園の花菖蒲は知名度を高めてゆき、来園者も増えていったという。「第1回北山公園菖蒲まつり」が開催されたのは1989年(平成元年)のことだそうだ。
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
2014年(平成26年)、北山公園の菖蒲まつりは第26回を数える。「東村山市市制施行50周年記念 第26回東村山菖蒲まつり」と謳われている。東村山市は1889年(明治22年)に南秋津村、久米川村、大岱村、廻田村、野口村が合併して東村山村が誕生したのが始まりだ。1942年(昭和17年)に町制が施行されて東村山町となり、1964年(昭和39年)に市制が施行され、東村山市が発足した。2014年(平成26年)は東村山市が発足してちょうど50年の節目に当たる。

北山公園に植えられている花菖蒲は2014年(平成26年)の時点で220種、8千株、10万本を数えるそうだ。なかなか規模の大きな菖蒲園と言っていい。園内に入れば公園を埋め尽くすように咲き誇る花菖蒲が圧巻の景観を見せる。
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
菖蒲田には木道が辿り、花菖蒲に包まれるようにして散策を楽しむことができる。木道は不規則にさまざまな方向へと延び、ところどころで曲がり、木道によって区切られた菖蒲田もランダムな形状になっている。それが奏功して景観に表情が生まれ、木道を辿って行けばさまざまに違った景観を見せてくれて飽きない。菖蒲田の中には池も設けられており、それも景観に表情を与えている。池の岸辺に立てば、対岸に咲く花菖蒲が水面に映り込む。その様子もなかなかいい。池には睡蓮の花が咲いていた。別の池には古代蓮が植えられているそうだが、蓮の花期はまだ少し先だろう。菖蒲園の一角には四阿もあり、その姿も菖蒲園の景観のアクセントになっている。もちろん四阿の中から花菖蒲の景観を楽しむのもお勧めだ。北側には“見晴台”が造られていた。高さは2mほどだろうか。ほんの少し視点が高くなるだけだが、“見晴台”に登れば菖蒲田の全景を俯瞰することができて楽しい。
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園の北側には西武西武園線の線路を挟んで八国山緑地が広がり、南側には北側河岸の木々が連なっている。東側と西側には周辺の建物が見え隠れするが、全体の印象としては自然豊かな緑濃い立地だ。その中にあって菖蒲園は南北の樹林を借景にして風趣に富んだ景観を見せてくれる。花菖蒲そのものも見事なものだが、“花菖蒲の咲く風景”としても素晴らしい。花菖蒲のそれぞれを愛でつつ、ときには視線を上げて菖蒲園と周囲の樹林とが織り成す景観の美しさを愉しむのがお勧めだ。
北山公園/東村山菖蒲まつり
菖蒲園の北側、西武線の線路脇の緑地部分では植栽された紫陽花が花を咲かせている。植えられているのは一般的な西洋アジサイやガクアジサイで、特に珍しい品種などがあるわけではないようだ。花菖蒲に比べれば規模も小さいが、訪れた時には紫陽花の見せてくれる季節の表情も楽しんでおきたい。
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
線路脇の緑地は疎らに木々が植栽され、その下にシートを敷いてくつろぐ人たちの姿も少なくなかった。来園者で賑わう菖蒲園を少し遠くに眺めながら、のんびりとお弁当を広げるのもいい。すぐ脇の線路をときおり電車が行き過ぎるが、それほどうるさく感じることない。行き交う電車の姿も北山公園を彩る興趣のひとつと考えればいい。
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
北山公園/東村山菖蒲まつり
今回訪れたのは6月半ばの土曜日、「第26回東村山菖蒲まつり」の開催期間中で花菖蒲も見頃とあって北山公園は大勢の来園者で賑わっていた。公園の南東側、北川を善行橋で渡ったところの公園入口脇には、数多くの露店が並んで軽食や地元の物産などを販売している。まさに“おまつり”として賑わう様子もなかなか楽しい。
弁天池公園
西武線東村山駅から北山公園へと向かう途中、道脇に弁天池公園という小公園がある。その名が示すように池を抱える公園で、池の中央部には小さな“島”があって祠が建っている。弁財天が祀られているのだろう。
弁天池公園
弁天池公園
鳥居の建つ岸辺から祠までは二つの太鼓橋が繋いでいる。朱色に塗られた鳥居や太鼓橋の欄干が長閑さを残す風景の中によく目立つ。祠のちょうど裏手に当たる岸辺には一本の柳が立っていて、その姿も良い風情だ。池の中には鯉が泳ぎ、太鼓橋脇では睡蓮が花を咲かせていた。
弁天池公園
池は岸辺を辿って周囲を一巡りすることも可能で、祠の裏手には池を跨ぐ橋もある。池と祠、太鼓橋などが織り成す景観が良い風情を漂わせ、岸辺を辿ればさまざまな表情を見せてくれて楽しい。小さな公園だが、不思議な存在感を放って印象深い。立ち寄ってみることをお勧めする。

公園の隅、道路に面したところにはトイレが設置されている。北山公園への行き帰りの途中、あるいは周辺の散策の途中での一休みにも便利だ。
参考情報
北山公園の「東村山菖蒲まつり」は入場料は必要ない。自由に入園することができる。

交通
北山公園は西武線の東村山駅が最寄り駅だ。西武新宿線か西武国分寺線を利用して東村山駅で下車、西口から公園まで徒歩十数分といったところだ。

車で訪れる場合は新青梅街道や府中街道を利用すればわかりやすい。新青梅街道を利用した場合は「野口橋」交差点で北へ折れ、府中街道を北上すれば東村山駅まで1km足らずだ。

北山公園には来園者用の駐車場はなく、民間駐車場も公園周辺にはない。車で来訪する場合は東村山駅周辺の民間駐車場に車を駐め、公園へは徒歩で向かわなくてはならない。駅周辺には大小の民間駐車場が点在しており、駐める場所に困ることはなさそうだ。

飲食
東村山菖蒲まつり開催中は公園入口付近に露店が並び、焼きそばやたこやきなどの軽食も販売しているが、本格的な食事のできる店はなく、公園周辺にも飲食店はない。東村山駅周辺、特に東口側に飲食店が数多くあるので、食事は駅周辺で楽しむのが賢明だろう。

北山公園の菖蒲田北側、線路脇の広場にシートを敷いてお弁当を広げることもできる。菖蒲田を眺めながらのランチタイムが楽しめる。お弁当持参で訪れるのもお勧めだ。

周辺
東村山市野口町は基本的には住宅地だが、畑地も多く残っており、長閑な風景を見せる。東村山駅から北山公園への行き帰り、少し回り道をして散策を楽しむのもお勧めだ。猿田彦神社や正福寺といった社寺にも立ち寄ってみるといい。

北山公園の線路を挟んだ北側には八国山緑地が横たわっている。西へ辿れば西武園ゆうえんち、さらに多摩湖を臨む都立狭山公園へも遠くない。散策の足を延ばしてみるのもいい。
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