横浜線沿線散歩公園探訪
八王子市長沼町
長沼公園
Visited in April 2021
長沼公園
京王線の「長沼駅」を出て南に向かい、五分ほど歩くと長沼公園に辿り着く。ひとつの山の北側斜面をそのまま公園としたと言っても良いような都立の公園で、谷戸と尾根とが入り組んだ園内は鬱蒼とした雑木林に覆われている。ほぼその全貌が実は京王線の車窓から見えるのだが、そこが公園だと気付く人はあまりいないかもしれない。両脇には造成された住宅地が迫るが、自然のままに残された多摩丘陵の姿は魅力的で、手軽な山歩きを楽しむ場所として多くの人々に親しまれている。
「長沼口」付近にて
京王線の「長沼駅」のすぐ東側の道路を南に向かい、北野街道を横切り、小さな川に沿った細道を歩いて行くと都立長沼公園の入口に辿り着く。公園入口は他にも数ヶ所あるが、ここはそのうちの「長沼口」と呼ばれるところだ。周囲には水田も残り、庚申塚などの姿もあって、かつてののどかな田園風景を偲ぶことができる

「六社宮」という名の社を右手に見ながら公園内に入って行くと石畳の散策路だ。これは「霧降の道」と名付けられており、長沼公園のメインの散策路のひとつとなるものだ。初めて訪れる人はまずこの「霧降の道」を登ってゆくのが良いだろう。

「霧降の道」
高低差が100メートルあるという公園だけあって、散策路はなかなかの坂道だが、道幅は比較的広く、石畳なので歩きやすい。「霧降の道」下方では沢に添い、登るに連れて緑溢れる林を眼下に見ながら丘を上ってゆく。

途中にはベンチなどを設置した休憩所もあるので、無理せずのんびりと林の中の散策を楽しむといい。ときおり足を止めて、揺れる木漏れ日の中に野鳥の声を聴きながら、ゆったりとした気分で楽しみたい。
「展望園地」
「霧降の道」を登り切ると丁字路に突き当たるが、その小道は長沼公園を含む丘陵の尾根を東西に辿る「野猿峠ハイキングコース」という散策路になっている。

このコースをまず左(東)に折れてみよう。しばらく歩くと「展望園地」と名付けられた広場に着く。ここは標高190メートルあるそうで、長沼公園で最も高所に当たる場所だ。ここからの北側への眺望は実に見事なもので、眼下の町並みから遠くの山並みまで素晴らしい景観が広がっている。京王線や、中央線の姿も遠くに小さく見え、その姿はここから見るとなかなか可愛らしい。「展望園地」には桜やモミジの木もあり、その季節には美しい姿を見せてくれる。

「栃本尾根」
「展望園地」を後にしてさらに東に進むと、「野猿峠ハイキングコース」は「平山口」の階段に辿り着く。右方(南)には南陽台の住宅街が見える。「野猿峠ハイキングコース」は本来ならそのままさらに東へと続くのだが道路に分断された形になってしまっている。

そこから左手(北)へと分け入って行く小道があるが、これは「栃本尾根」を辿る尾根道で、進んで行くと「長沼口」より東の「中谷戸」の付近に降りることができる。「栃本尾根」の尾根道には眺望の開けた場所もあって楽しいが、かなりの細道で急坂もあるので歩くときには充分な注意が必要だ。
「頂上園地」
一方、「霧降の道」を登りきったところから「野猿峠ハイキングコース」を西へ辿れば、すぐに「頂上園地」という広場がある。ほぼ全域が斜面で構成された長沼公園にあって、数少ない平坦な広場だ。丘の上という立地が開放感に富んでいる。屋根付きのベンチなどが設置され、一休みするには良い場所だ。お弁当を広げるにも好適の場所と言えるだろう。

ここもまた桜の木が多く、桜の季節に合わせて訪れるのもお勧めだ。また園内でトイレが設置してあるのも「頂上園地」と「中谷戸」の駐車場脇だけなので注意が必要だ。

「西尾根」
「頂上園地」の少しばかり西側、林の中に分け入ってゆく小道がある。「西尾根」と呼ばれる尾根を通るルートで、「長沼口」から「頂上園地」まで「霧降の道」とは別ルートで繋いでいる。

「西尾根」の尾根道はまさに山道と呼ぶべきもので、よじ登るような坂道もあり、わずか数十センチほどの幅で両脇は崖となっているような部分もある手応えのある尾根道だ。それでもここを通る人は少なくないらしく、尾根道はしっかりと人の足によって踏み固められている。山歩きに慣れた人ならぜひ通ってみて欲しい。

「西尾根」からの眺望
「西尾根」の尾根道に、西へ眺望が開けた場所がある。木々の間から公園内の林を見渡すことができ、その向こうには少しだけ八王子市の市街地が見え、さらにその向こうに遠い山々の稜線が横たわっている。なかなか素晴らしい眺望である。

新緑の頃には園内の林はさまざまな色調のグリーンのグラデーションに染まり、陽光を浴びて輝く様子がたいへんに美しい。風に吹かれながら眺めていると時の経つのを忘れる。「西尾根」を歩くときにはこの眺望を楽しんでおこう。
「野猿峠口」からの眺望
「頂上園地」から「野猿峠ハイキングコース」を西にしばらく進むとやがて視界が開けて住宅地の脇に出る。絹ヶ丘の住宅街だ。このあたりが「野猿峠口」で、ここから北側の公園部分は林ではなく草原の斜面になっていて眺望も開けて気分が良い。斜面を見下ろす丘上にはベンチも置かれているから、腰を落としてのんびりと眺めを楽しむのがお勧めだ。

「野猿峠口」周辺のこの辺りは桜やモミジの木が多いところで、それらの季節には美しい景色を見せてくれる。桜の季節や紅葉の頃に訪ねてみるのもお勧めだ。

「殿ヶ谷の道」
草原の斜面の東側(絹ヶ丘の住宅街側)を散策路が降りている。「殿ヶ谷の道」と名付けられた散策路で、降りた先の谷戸が「殿ヶ谷戸」である。「殿が谷の道」の周辺は長沼公園内で最も“公園”らしく整備されたところで、気軽に楽しむことができる。辿ってゆくに連れて周囲の景観の表情が変わっていき、存分に公園散歩の醍醐味を味わうことができる。

「殿ヶ谷の道」を下まで降りきると木道を経て、「殿ヶ谷戸」の沢伝いに「長沼口」に至る。沢沿いの景観にも風情があって楽しい。
長沼公園
園内は沢の流れる谷戸部と尾根とがいくつも入り組み、それぞれが季節毎の表情を見せてくれて飽きない。緑溢れる中での野鳥の声もまたすがすがしい気分を誘ってくれるものだ。二度、三度と訪れる人はまだ歩いていない尾根道に分け入ってゆくなどして楽しむといい。お弁当持参でピクニック感覚で訪れるのもお勧めだ。園内には桜やモミジも多いので、桜の季節や紅葉に染まる季節などにも訪ねてみたい。四季折々に楽しめる公園だ。

長沼公園に初めて訪れるという人なら、京王線の長沼駅から歩いて「長沼口」から公園に入り、「霧降の道」を登り、「野猿峠ハイキングコース」に出たら「展望園地」や「頂上園地」に寄り道をしつつ「野猿峠口」へ向かい、「殿ヶ谷の道」を歩いてまた「長沼口」へ戻るというコースがお勧めだ。このコースなら園内の主要部分をほぼ一周する形になり、コース上の園路も歩きやすく、本格的なトレッキングシューズでなくても楽しめる。

公園には駐車場が設けられているが、駐車場の場所がわかりにくく、駐車場へ至る道がたいへんに狭い。車で来園する場合は長沼駅近くのコインパーキングなどを利用するのが賢明かもしれない。
長沼公園