横浜線沿線散歩公園探訪
横浜市緑区新治町〜三保町
新治市民の森
June 2000
現況と異なる内容を含んでいます
新治市民の森
横浜市緑区の西部、新治町から三保町にかけて里山と谷戸が複雑に入り組む風景が広がっている。このあたりは昔から「北の森」と呼ばれ、広大な山林地帯であったという。今では各所が造成されて新興の住宅街が広がり、昔ながらの風景を残す区域も少なくなってしまった。新治町から三保町にかけての梅田川の西側に広がる一帯はそうした数少ない場所のひとつだったのだが、それが2000年(平成12年)春、総面積60ヘクタールほどの「新治市民の森」として公開された。

新治市民の森
「新治市民の森」は基本的に私有地の山林の中に散策路を整備したもので、地元の「新治市民の森愛護会」によって管理・育成が行われているという。散策路を辿って山林の中に足を踏み入れると、クヌギやコナラを中心にした雑木林に混じって、見事な竹林やヒノキの林が広がる一角もある。林は一見自然そのままのようにも思えるが、よく見ると人の営みと密接に繋がり合った里山の様相がよくわかる。

市民の森としての整備に当たって散策路の各所には案内板が設けられたが、そこに見られる「旭谷戸」「鎌立」「鎌立の奥」「油窪」「おんばく山」「やまんめ山」といった地名がいい。おそらく昔から地元の人々の間で使われてきた地名なのだろう。
新治市民の森
「新治市民の森」は北東部の角、旭谷戸と向山のあたりがJR横浜線十日市場駅に最も近く、メインの入口と考えてもよいだろう。十日市場駅から南へ15分ほど歩くと旭谷戸の風景が見えてくる。旭谷戸を奥へと向かうと、両脇に雑木林の里山が迫り谷戸は狭まり、風景は次第に昔からの谷戸の農村そのままの風情を見せてくれる。畑に育つなすなどの野菜の姿を見ながら進むと、谷戸はさらに奥まり、行く手は鬱蒼とした雑木林に遮られているように見える。案内板には「へぼそ」という地名がある。この谷戸の最も奥まったあたりが「へぼそ」であるらしい。「へぼそ」へ向かってさらに進むと谷戸沿いの道はそのまま雑木林へ分け入る山道へと姿を変えた。山道を登りきると、急に視界が開けた。尾根の向こうは霧が丘の住宅街が広がっているのだ。霧が丘のあたりも昔は林が広がるばかりの山中であったという話だが、今ではその名残もない。登ってきた山道を振り返ると、傍らに「へぼそ」との案内板があった。
新治市民の森
一方、旭谷戸から向山へと入り込んでゆくルートは新治市民の森のメインの入口に相応しく整備されている。新治小学校の傍らから向山へと向かう小道を辿ると、小道の頭上を倒木が横切り、その倒木に「新治市民の森」の名が記してあった。自然の倒木をそのまま利用したものなのだろうか。そのまま進んで山道を登るとちょっと開けた場所に出た。木立の隙間から眼下に旭谷戸の景色が見え隠れする。傍らには丸木を使って作られたベンチも置かれている。小道はさらに奥へと延びている。油窪を経て鎌立谷戸に至るルートで、小道は途中で分かれて西側の「みはらし広場」方面へも延びている。

新治市民の森
鎌立谷戸から西へ向かって谷戸の奥へと向かうと、「池ぶち」という場所に至る。池ぶちで道は分かれている。道なりに右手へと進むとすぐに「池ぶち広場」に着く。トイレとベンチなどが設置された広場で、「新治市民の森」の中心となる場所と言ってよいだろう。「新治市民の森」でトイレが設置されているのはここだけなので散策の際には注意が必要だ。「池ぶち広場」のあたりの谷戸は「むじな谷戸」という名であるようだ。昔はこの谷戸のあたりにむじなが多くいたのだろうか。そんなことを考えながら歩くのも楽しい。

「池ぶち広場」からさらに奥へと登ってゆくと鎌立谷戸から林の中を延びてきた小道と合流して「みはらし広場」へと至る。その名に反して実は木立に遮られてあまり見晴らしは良くないのだが、木立の間には東方眼下に谷戸の様子が見える。「みはらし広場」の横に駐車場が設けられている。駐車場の入口は霧が丘から横浜創英短大や東洋英和女学院の傍らを経て梅田の谷戸のあたりへ抜けて行く道路沿いにあって、初めて「新治市民の森」を訪れる人には少々わかりにくいかもしれない。旭谷戸や鎌立谷戸の道路沿いに駐車場への案内を示す標識が立っているのだが、そのあたりからでは市民の森のちょうど反対側へ回らなくてはならないことになって、かなりわかりづらいのではないかと思われた。
駐車場の傍らから南へと林の中に延びて行く小道がある。「新治市民の森」の南の端を辿る尾根道だ。尾根道は竹林やヒノキ林などの中を辿って登り下りを繰り返して林の中を延びている。途中、木立の間からは南側の梅田の谷戸のあたりの風景が見え隠れする。下の道路を走る車の音も聞こえてきたりするが、散策路はまるで別世界のような木立の中を辿っている。整備されているとは言っても、尾根道は本来の姿のままの山道と言ってよく、急坂などもあって注意して歩かなくてはならない。

新治市民の森
尾根道を辿って行くと「鎌立の奥」という名の場所に着く。その名の通り、「鎌立」の谷戸を入り込んだ「池ぶち」のあたりからさらに南へ奥まったあたりに位置する。水田として耕作されている様子も無く、ほぼ自然のままの姿の谷戸の風景がそこには広がっている。

「鎌立の奥」のあたりから尾根道が分かれて菖蒲谷戸という名の梅田川にほど近い場所へと抜けている。「鎌立の奥」から「池ぶち」方面へと出て行くと、途中に分かれ道があり、「常見谷戸」へと小道が延びている。「常見谷戸」も自然のままの風景を残す谷戸で、奥まったところから道は尾根へと繋がっている。
新治市民の森
新治市民の森はなかなか広く、谷戸と尾根とを辿る散策路のすべてを一日で回りきるのは少々無理があるかもしれない。初めての人は旭谷戸から油窪を経て鎌立谷戸へと歩を進め、さらに「池ぶち」へと進んで「鎌立の奥」の辺りから尾根道を歩いてみるなどして全体の様子をつかむとよいかもしれない。旭谷戸から「へぼそ」へと至る谷戸の道も風情があってよく、向山から油窪を経て「みはらし広場」近くの検見坂へと至る小道も雑木林の中を辿る散策路として良いコースだろう。「鎌立の奥」のあたりから尾根道にかけての様子も野趣溢れる景観が魅力的でお勧めだ。

昔ながらの里山と谷戸の自然は四季折々に美しい姿を見せてくれそうだが、山林を含めて散策路の脇はほぼすべて私有の営農地であり、散策の際には充分に気を付ける必要がある。お弁当持参でのんびりと一日かけて散策を楽しみたいと思えるが、広場のようなものは「池ぶち広場」と「みはらし広場」しかない。林の中を辿る小道の脇に設置された丸木のベンチなどでお弁当を広げるのも、それなりに興趣のあるものかもしれない。

時間と体力が許せば新治市民の森から梅田川河畔へ足を伸ばしたり、梅田川を上流に辿って三保市民の森まで行ってみるのもいい。最寄り駅はJR横浜線の十日市場駅だが、帰路は北西側の霧が丘へと抜け出てその中を通るバス路線を使う方法もある。駐車場は前述したように市民の森の西側、横浜創英短大の傍らを通る道路沿いにあり、20台分ほどのスペースが用意されている。
追記 駐車場は、市民の森オープン当初は平日も利用できたのだが、後に日曜・祝日のみの開放に改められている。駐車スペースにも余裕があるわけではないので、来訪の際には公共の交通機関を利用されたい。
新治市民の森