横浜線沿線散歩街角散歩
横浜市中区
海岸通り
Visited in May 1999
(本頁の内容には現況と異なる部分があります)
海岸通り
JR根岸線の「桜木町」駅から弁天橋を渡って本町通りを進み、あるいは「関内」駅から馬車道を通り抜け、万国橋通りを海へ向かって進むと、左に横浜第2合同庁舎の建物を過ぎるあたりに「海岸通り四丁目」の交差点がある。「開港広場」前からこの交差点に至る道路が「海岸通り」で、この道路と海とに挟まれた町もまた「海岸通」という名だ。いかにも港町らしい名のこの通りを歩いてみた。
「海岸通り四丁目」交差点では海岸通りの反対側に建つ横浜第2合同庁舎の建物が目を引くが、これは平成二年に取り壊された旧生糸検査所の建物を復元したものであるという。横浜市の歴史的建造物として認定されているとのことだ。

横浜郵船ビル
第2合同庁舎を背にして海岸通りに歩を進め、しばらく歩くと左手に神殿を思わせるような、コリント式の円柱の並ぶ建物が見えてくる。これが横浜郵船ビルとして知られる日本郵船横浜支店の建物で、昭和11年竣工のものだという。

横浜郵船ビルを過ぎると県警本部の近代的な意匠のビルがある。その県警ビルの手前を海岸へ向かって折れると、日本郵船歴史資料館がある。これは日本郵船の歴史を通して船の歴史や日本海運業の歴史に関する資料を展示したものだ。

県警本部ビル前付近からクイーンを臨む
県警本部ビルの前の広場のようになった部分に差し掛かると、左手前方には有名な横浜税関の塔が見えてくる。1934年(昭和9年)建築の建物で、特徴的なイスラム風の塔は「クイーン」の愛称で親しまれているものだ。「横浜税関前」の交差点あたりに差し掛かると、右手前方には神奈川県庁本庁の建物が見える。この重厚な印象の建物は1928年(昭和3年)の建築で、「日本風」であることを意識して公募案を基に造られたのだという。五重塔をイメージしたと言われる塔は「キング」の愛称を持つものだ。「横浜税関前」の交差点を右手に折れて本町通りとみなと大通りの交差点まで足を延ばせば、その角に見えるのが横浜開港記念会館で、その塔は「ジャック」だ。

海岸通り
さらに海岸通りを進み、神奈川県庁を過ぎると、右手には横浜開港資料館があり、その横が開港広場だ。この辺りにはこうした歴史的建造物や資料館、さまざまな碑などが点在しており、見所は多い。興味のある人はそれらを巡ってゆっくりと散策するとよいだろう。

この辺りは基本的にオフィス街で、平日のお昼時にはオフィス勤めの人々が昼食を取りに外出する姿が多いが、開港広場付近まで来ると山下公園が近いこともあってか、観光地的色彩を帯びてくる。修学旅行のシーズンなどにはガイドブックを手に名所を廻る高校生のグループの姿なども多いところだ。
海岸通り海岸通り
海岸通り一丁目からみなとみらいを臨む
レストランなどが軒を並べる「開港広場前」交差点を、大桟橋方面へと折れてみる。そのまま大桟橋へと足を進めてもよいが、左手の海岸へと進んでみると面白い。海岸通一丁目のこのあたりは横浜港開港当初の波止場があったところだが、今ははしけ溜まりになっていて、並ぶはしけの向こうに見える横浜税関の建物やみなとみらい地区の近代的なビル群の景観がコントラストを描いて印象的だ。

「象の鼻」
右手に大桟橋の根本から湾に向かって微妙な曲線を描いて伸びる突堤が見えるが、これが有名な「象の鼻」だ。横浜港開港に際して幕府が築いた二本の石組み突堤の内、当時イギリス波止場と呼ばれた外国貿易用の東側突堤が現在の大桟橋の根本部分に当たるのだが、1866年(慶応2年)の大火の後、東側突堤に湾曲する形で拡張された部分が、現在も「象の鼻」として残るこの部分なのだそうだ。「象の鼻」は関東大震災からの復興の際にも手が入れられたようだが、大桟橋や新港埠頭が完成した後もそのまま残り、現在もその位置は昔のままなのだという。

「象の鼻」を含めて大桟橋地区は再整備の計画もあるようだが、おそらく「象の鼻」はこのまま保存されることになるのだろう。あまりに近代的な光景に姿を変えるより、昔ながらの風景を残して欲しい気もする。「波止場」という言い方の似合う港の風情に奇妙な愛着を感じるのは、来訪者の身勝手なノスタルジーだろうか。そんなことを思いながら、「海岸通」を後にしたのだった。
海岸通り海岸通り
海岸通りの散策を終えた後は大桟橋の国際客船ターミナルに立ち寄ってもよいし、開港資料館などをゆっくり見学するのもいい。昼食は通り沿いのレストランを利用してもいいし、中華街へ足を延ばすのもいいだろう。お弁当を用意しておいて山下公園の芝生で食べるのもお勧めだ。周辺には歴史的建造物や記念碑、各種の資料館が多く、とても一日では見て回れない。充分に下調べをして、目当てのものを絞り込んで訪れるのがいいかもしれない。もちろん目的を決めずにぶらりと訪れて、気の向くままに散策を楽しむのもとてもよいものだ。
【追記】
海岸通地区に残っていた旧臨港鉄道高架を利用して「山下臨港線プロムナード」という散策路が整備され、それに伴って臨港部を辿る「開港の道」という散策ルートが2002年春に設定された。「山下臨港線プロムナード」を歩くと「象の鼻」地区を間近に横浜港の眺望が楽しめる。また1999年当時改修中だった大桟橋も改修を終えて2002年秋にグランドオープンを迎えている。2004年(平成16年)2月には東急東横線との相互乗り入れとなる「みなとみらい線」が開業、同路線の馬車道駅や日本大通り駅から海岸通りへ至近になった。

【追記】
「象の鼻」地区は2006年(平成18年)に再整備の基本計画が策定され、2009年(平成21年)6月2日、横浜開港150周年の開港記念日に「象の鼻パーク」として開園した。1999年当時に船溜まりになっていた港湾部を囲む形で公園が整備され、すでに当時の面影は残っていないが、特徴的な「象の鼻」の防波堤は公園内の施設として残されている。海岸通りと日本大通りとの「開港資料館前」交差点が市街地側からの「象の鼻パーク」へのメインエントランスとなり、周辺の景観も大きく変わっている。
波止場にて