横浜市神奈川区
大口通
Visited in November 1998

横浜線の大口駅を西口に降りると、左手に商店街がある。大口通商店街という。アーケードになった通り沿いに昔ながらの個人商店が軒を並べる姿に惹かれて、この商店街を訪れてみた。

アーケードとなった両脇の歩道に挟まれた狭い車道は、もっぱら商店の車輌や商品搬入の車輌しか通行せず、通り抜ける車輌はほとんどいないようだ。決して広い通りではなく、歩道も広くはないが、並ぶ商店はその歩道にまで商品を並べている。行き交う人も多く、なかなかの賑わいを見せている。人の流れも車道、歩道の区別がない。ここは単なる道路ではない。通り全体でひとつのマーケットを形成しているのだ。


商店街に二、三軒の店舗を構えるカメラ屋に入り、フィルムを購入したが、こちらがカメラを携えているのを見て取った店の人が「今日はいい天気だね」と声をかけてくる。スーパーやコンビニの無機質な対応に慣れると忘れてしまいがちだが、「モノを買う」とはいったいどういうことなのか、ふとそんな瞬間に思い出す。「モノを買う」という行為に於いて人と人とが対峙する時、本来「売る」側と「買う」側と対等な、人としてのコミュニケーションが介在していたのではなかったか。中には無用な会話を好まない人もいるのかもしれない。それならそれでもいい。しかしせめて笑顔だけは忘れず、「買う」側は決して「お客様」などとおだてられて無礼の輩に成り下がってはなるまい。


京浜急行が間近に走る大口通の人々にとって、もしかしたら横浜線はそれほど便利な路線ではないのかもしれない。かつて百年近く昔、東神奈川駅を起点にして横浜線の前身の鉄道路線が造られた時の、この地に住まう人たちの思いをふと想像してみたりする。
「大口通商店街」は古き佳き商店街の面影を今も残す、数少ない町のひとつと言ってもよいのかもしれない。体温を感じるような町の雑踏が心地よい。年末の慌ただしい雰囲気の商店街の様子も見てみたい気がした。
