横浜線沿線散歩街角散歩
八王子市
中山
May 2002
中山の風景
八王子市の南東部に中山という地区がある。南東には開発の進む多摩ニュータウンが迫り、西の丘の上には北野台の住宅街が広がっている。その間に残されたように、中山地区は多摩丘陵の昔ながらののどかな農村風景を保っている。中山地区の中央には北野駅方面から野猿峠を経て南大沢方面へと繋ぐバス通りが抜けており、通り抜ける車も少なくないが、その車窓から水田や雑木林の丘の風景を見ている人も多いだろう。今もなお中山村の面影を残す風景の中を歩いてみた。
中山会館前
中山地区のほぼ中央、野猿峠から南下してきたバス路線の道路と西の北野台から降りてきた道路が交わる丁字路の交差点の近くに「中山」バス停がある。バス停の傍らには「中山会館」がある。今では整備された道路によって生活圏の在り方が大きく変わったためにわかりにくいが、このあたりがかつての中山村の集落の中心だったのだろうか。

ここから北野台への道を辿れば、道路の北側の丘の上に中山村の鎮守である白山神社がある。白山神社参道の入口あたりは地形としては谷戸の奥まったところになり、昔は周囲を深い林に覆われた丘に囲まれていたはずだが、今では丘の上に見えるのは北野台の住宅街の家並みだ。
川沿いの道
「中山」バス停からバス路線の道路は東へ向かって延びているが、バス停の傍らから南へ入り込んでゆく道がある。車一台分ほどの幅の道だが、道はやがて大栗川の支流の小さな川に沿って東に辿っている。道脇には庚申塚なども建っており、昔からの道であったことをうかがわせる。道の脇には水田があり、五月半ばのこの季節は田植えを待って田起こしが行われたところだ。途中、農作業中の地元の方と話をする機会があった。昔はもっと多くの水田があったということだが、年々少しずつ田圃をやる人も少なくなってきているという。

丘へ向かう道
歩いていると北側のバス道路を通る車の音も間近に聞こえ、さすがに街に近い土地であることを忘れさせてはくれないが、川沿いの道の表情は昔懐かしい農村の風情を漂わせている。川に沿う道の描く微妙な曲線が美しく、「道」というものの息づかいさえ感じられるような気がする。川が道をくぐって北へ離れると、道の南側には丘の畑地への小径がいくつか分岐している。丘へと辿る小径の風情もいい。分かれ道のところに塚があったり、大きく枝を張った木の下を回り込むように丘へ上ったり、少し離れてその風景を見るのもよく、もちろん歩いてみるのもいい。
道脇のアザミ農家の軒下
丘を辿る道
田植えの準備の進む水田を眺めながらしばらく歩いた後、丘の畑地へと辿る小径へと歩を進めた。丘へと上る小径はどれも美しく、すべての道を歩いてみたいという衝動に駆られて、上っては降り、再び別の道から上ってみるなどということを繰り返した。道は丘の上で繋がったり分かれたりして畑地の中を辿っている。あちらこちらと歩いてみると見える風景の表情も変わって楽しい。

畑地のところどころでは農作業中の人の姿がある。場違いな人間の姿に怪訝な表情の人もあるが、こちらの携えたカメラを見て意図を察して下さったようだった。小径脇には「農作物を盗むな」との旨の注意書きがいくつかあった。中にはそうした心ない人もあるのだろう。

丘の畑地の中から南方を眺めると、のどかな風景の向こうには多摩ニュータウンの高層建築群の姿が霞むように見えている。とても象徴的な風景だという気がする。丘の上ではもう下の道路の車の音もあまり聞こえない。初夏の日差しの下、丘を吹き過ぎる風の中にときおり野鳥の声が混じる。
眼下に畑を見る
丘の畑地の中を西へさらに高みへと辿る小径がある。進んでゆくとやがて左手には南側の雑木林が迫り、右手に畑を見下ろす尾根道となって道幅は狭くなった。右手の畑の向こうに白山神社付近の丘が見え始め、やがて林の中の小さな畑越しに中山小学校が見えた。そこから道は林の中を辿る小径に姿を変え、野鳥の声を聞きながら木立の中を進むと、中山小学校に隣接する中山中学校の裏手へと抜け出た。学校の横を通り抜けると北野台から中山へと降りる道路へと出る。坂を下りると白山神社の参道入口が近い。
この日はそのまま白山神社に立ち寄った後に帰路を辿ったが、さらに足を延ばして野猿峠方面やあるいは大栗川河畔への散策を楽しむのもいい。バスは八王子駅南口と南大沢駅、あるいは由木折返場とを結ぶ路線が抜けている。中山地区は春の桜の季節の景観も美しく、次の機会にはその時期を選んで歩いてみたい。
中山の風景