神奈川県鎌倉市、江ノ電の鎌倉高校前駅は海岸に設けられた駅だ。ホームからは正面に相模湾を臨み、江の島や三浦半島のシルエットが視界に収まる。四月の終わり、江ノ電鎌倉高校前駅を訪ねた。
江ノ島電鉄鎌倉高校前駅
江ノ島電鉄鎌倉高校前駅
ホームに立てば、目の前には広々と相模湾の風景が広がる。左に視線を向ければ稲村ヶ崎から三浦半島へと海岸線が延び、右には江の島の島影が浮かぶ。江の島の向こうにはうっすらと伊豆半島のシルエットが横たわる。天候に恵まれれば正面には伊豆大島も見えるという。ホームの前に線路と国道134号が隣り合って東西に延び、国道の向こうはもう海岸だ。沖合いには大小のヨットの白い帆が日差しを弾き、その手前を時折、水上オートバイが航跡を描いて通り過ぎてゆく。このまま時を忘れてその風景を眺めていたくなるが、やがて到着する江ノ電の車両によって視界は遮られる。江ノ電に乗らずにやり過ごし、車両が行き過ぎた後に再び海を眺めるのも、また一興かもしれない。
江ノ島電鉄鎌倉高校前駅
江ノ島電鉄鎌倉高校前駅
江ノ電の鎌倉高校前駅は、“ホームから相模湾を一望する”という眺望の良さによって、「関東の駅百選」にも選定されている。またドラマや映画、アニメなどのワンシーンの舞台として幾度となく登場し、駅名を知らないままにその風景を見たことがあるという人も少なくないだろう。その名のように鎌倉高校の最寄り駅であり(鎌倉高校は駅の北東側の丘の上に建っている)、普段は鎌倉高校の生徒たちの通学の駅だが、駅そのものがひとつの観光地としても成立していると言ってもいい。行楽シーズンの休日には駅の周辺には散策を楽しむ人たちが行き交い、鎌倉高校前駅を利用する観光客の姿も少なくない。
江ノ島電鉄鎌倉高校前駅
鎌倉高校前駅が開業したのは1903年(明治36年)のことだ。1902年(明治35年)に藤沢〜片瀬(現在の江ノ島駅)で江之島電気鉄道(現在の江ノ島電鉄)が開業、その翌年に行合駅(現在の七里ヶ浜駅)へと延伸した際に設けられた駅のひとつだ。当初は日坂駅という名で、鎌倉高校前駅と改称されたのは1953年(昭和28年)のことといいう。鎌倉高校が現在地に移転したのが1952年(昭和27年)のことで、それを受けての駅名の変更だったのだろう。
江ノ島電鉄鎌倉高校前駅
休日のお昼どき、鎌倉高校前駅を利用するのはほとんど観光客のようだ。平日の朝、通学の高校生たちが降り立つ鎌倉高校前駅は、休日とはまったく異なる表情を見せるのだろう。その光景を見てみたいと思う。おそらくそれが、鎌倉高校前駅の最も“鎌倉高校前駅らしい”姿だろう。
鎌倉高校前1号踏切
鎌倉高校前1号踏切
鎌倉高校前1号踏切
鎌倉高校前駅を東、すなわち鎌倉側へと出て、100mほど線路脇の道を辿ると交差点がある。北側の丘上から下りてきた道が踏切を越えて国道134号と丁字路の交差点を成している。駅からこの踏切横を経て北へ登る坂道が鎌倉高校の生徒たちの通学路だ。踏切は「鎌倉高校前1号踏切」という名だが、その名を知らなくても坂上から見た風景に見覚えのある人は少なくないだろう。数ある江ノ電の踏切の中で、最もよく知られた踏切と言ってもいいのではないか。この風景もさまざまなドラマや旅番組などのワンシーンとして登場し、広く知られている。この踏切の風景は、鎌倉高校前駅といわば“ワンセット”になって観光名所的に知られていると言っていい。

この踏切は北側の坂上から見下ろすとき、最も風情ある表情を見せてくれる。踏切を渡ってゆく人や車、国道を行き交う人や車、そして通りかかる江ノ電の車両、踏切が開くのを待つ人々、その向こうには海原が広がって陽光に輝き、大小の舟影が浮かぶ。それらのものが刻々と表情を変えながら興趣に富んだ風景を織り成している。この風景は、写真趣味の人にとってはとても魅力的なものだろう。江ノ電の車両が踏切に差し掛かるときが一番のシャッターチャンスだろうと思うが、開いている時の踏切の様子も素敵だ。坂上から距離をとって、望遠レンズで撮影するのをお勧めする。
七里ヶ浜
七里ヶ浜
鎌倉高校前駅の前に広がる浜辺は七里ヶ浜だ。踏切前の交差点の横断歩道を渡れば浜辺に下りる階段が設けられている。浜辺に降りれば視点が変わって見える風景の表情も違う。七里ヶ浜の波打ち際から眺める江の島のシルエットも素敵だ。浜辺には散策を楽しむ人たちが行き交い、シートを敷いてその上でくつろぐ人の姿もある。ひととき浜辺の散策を楽しむのも一興だろう。
参考情報
交通
江ノ島電鉄は藤沢駅と鎌倉駅との間を繋いでいる。藤沢駅でJR東海道線や小田急江ノ島線から、鎌倉駅でJR横須賀線から江ノ電に乗り換えればいい。江ノ電についての詳細は公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

江ノ電鎌倉高校前駅に車で訪れようと思う人は少ないと思うが、念のため記しておくと、駅近くには駐車場はなく、江の島周辺や藤沢駅周辺、鎌倉駅周辺などの駐車場に車を置き、江ノ電に乗り換えた方がいい。

飲食
鎌倉高校前駅近くには飲食店はないが、西の腰越駅周辺から江ノ島駅周辺にかけては数多くの飲食店がある。東の七里ヶ浜駅や稲村ヶ崎駅の周辺にもお洒落なレストランが点在し、さらに鎌倉に近くなるほど、さまざまな飲食店がある。江ノ電に乗って移動しよう。

周辺
鎌倉高校前駅から藤沢方面へ二駅で江ノ島駅、江の島や湘南海岸公園、新江ノ島水族館などが近い。東へ移動すれば長谷駅から終点の鎌倉駅まで、周辺は有名な観光地だ。あまり欲張らず、目的地を絞ってのんびりと散策を楽しむのがお勧めだ。
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