神奈川県小田原市の小田原城址公園は花菖蒲の名所として知られ、六月には「小田原城花菖蒲まつり」で賑わう。紫陽花も見事で、花菖蒲と紫陽花の織りなす美しい景観を楽しめる。花菖蒲が見頃を迎えた六月初旬、小田原城址公園を訪ねた。
小田原城址公園の花菖蒲園は本丸の東側、かつての「東堀」の跡を利用して設けられている。そしてその内側の本丸側斜面には紫陽花が咲き誇る。花菖蒲は約8000株、紫陽花は約1400株という。規模としては特筆するほど大きなものではないが、何しろ小田原城趾という立地が良い風情を醸し出し、たいへんに美しい景観を楽しむことができる。
この時期の小田原城址公園で最も美しい景観は、やはり常磐木橋を背景に見る花菖蒲園だろうか。常磐木橋はかつて東堀を跨いで本丸と二の丸を繋いでいた橋だが、現在では小田原城趾の修景に於いて重要な役割を果たしているように思える。北側から菖蒲田越しに常磐木橋の方向を眺めれば、石垣を繋いで架けられた常磐木橋の背景に緑の木々が茂り、手前には白や紫の花菖蒲が咲き誇る。緑濃い景観の中に常磐木橋の紅い欄干がアクセントになって映える。視線を少し右に向ければ本丸側の斜面を埋め尽くして紫陽花の花が咲いている。たいへんに美しく、フォトジェニックな景観だ。
常磐木橋を渡って本丸側へと進むと常磐木門という門がある(常磐木門へ至る橋だから橋の名も常磐木橋なのだろう)。現在の常磐木門は1971年(昭和46年)に復元されたものだが、往時の姿を偲ぶには充分な佇まいだ。なかなか大きな門で、二の丸側から、すなわち花菖蒲園の東側から見ると斜面の上の木々の向こうに門の上部が見える。手前には花菖蒲、その向こうには斜面に咲く紫陽花、そしてその上に常磐木門という組み合わせで、これもまたフォトジェニックな美しさだ。
菖蒲田と本丸側斜面との間には散策路が設けられており、そこを辿ると斜面に咲き誇る紫陽花を間近に見ることができ、見上げれば斜面上部まで続く紫陽花がたいへんに見事だ。常磐木橋に近い辺りで見上げれば、紫陽花の向こうには常磐木門の姿が木々の隙間に見え隠れする。これもなかなか良い風情だ。
花菖蒲園は常磐木橋の南側まで続き、こちらは常磐木橋北側とは少し違った表情を見せて、これも美しい。紫陽花は本丸の斜面だけでなく、郷土文化館付近の散策路脇にも咲いており、こちらもぜひ見ておきたい。常磐木橋から北側を見下ろせば、眼下に花菖蒲園と斜面の紫陽花を一望でき、また違った味わいがある。見る角度が変われば花菖蒲と紫陽花の織りなす景観の味わいも変わり、なかなか飽きない。公園内をのんびりと散策しながら、小田原城趾の六月の景観をゆったりと楽しむのがお薦めだ。
花菖蒲が見頃を迎える六月上旬から下旬にかけて「小田原城花菖蒲まつり」が開催される。二の丸の広場の一角には休憩所が設けられ、その脇には露店が設営されて軽食や飲み物を販売しているようだ。利用している観光客の姿も少なくない。夜にはライトアップされ、幻想的な景観を楽しむことができるという。「小田原城花菖蒲まつり」開催中は平日でも観光客の姿が多いが、週末には野外コンサートなども催されてさらに賑わうらしい。そうした賑やかさの中で花菖蒲と紫陽花を愛でるのもいいものかもしれない。
小田原城址公園は小田原駅から近く、駅東口から南へ数百メートル歩けば着く。小田原駅にはJR東海道線、JR東海道新幹線、小田急小田原線、伊豆箱根登山鉄道大雄山線、箱根登山鉄道が乗り入れている。
車で来訪する場合は東名高速道路から小田原厚木道路を使い、荻窪ICで降りるのが近い。荻窪ICから小田原城址公園へはルートがわかりにくいが案内標識に従えば迷うことはない。あるいは西湘バイパスを小田原ICで降り、国道1号を辿ってもいい。
駐車場は周辺に点在する民間のものを利用すればいい。観光シーズンの休日には混雑しそうだ。
公園内にも飲食店があり、また周辺にも数多くの飲食店が点在しているので、食事には困らない。のんびりと散策しながら好みのお店を探すといい。
園内には広場もあるが、観光地としての性格の濃い公園なので常に観光客が多く、のんびりとお弁当を広げるには不向きかもしれない。
小田原城址公園から南へ数百メートル歩けば海岸に出る。「御幸の浜」と呼ばれる海岸だ。ひととき海を眺めながらの散策を楽しむのもいい。海岸近くには「小田原文学館」が建っている。建物は元宮内大臣の田中光顕伯爵が別邸だったものという。小田原は歴史の古い町だから寺社も多い。七福神巡りなどを楽しむのも悪くない。他にも市街地から周辺部にかけて多数の旧跡などが点在している。
小田原城(公式)