新潟県柏崎市高柳町に家々が環状に並ぶ集落がある。荻ノ島環状集落である。集落には茅葺き屋根の家も残り、風趣に富んだ景観を見せる。夏の暑さの残る九月の初旬、荻ノ島環状集落を訪ねた。
荻ノ島環状集落
荻ノ島環状集落
新潟県柏崎市南部の山間に位置する高柳町は、かつて刈羽郡高柳町だったところだ。2005年(平成17年)、同じく刈羽郡の西山町と共に柏崎市に編入合併した。その高柳町に、荻ノ島という地区がある。荻ノ島には山間の平地に家々が環状に並んだ集落がある。集落には今も茅葺き屋根の家が残り、風趣に富んだ景観を見せてくれる。「荻ノ島環状集落」、あるいは「荻ノ島環状かやぶき集落」と呼ばれるところだ。

海から隔たった山間の集落の名に、なぜ「島」の文字があるのか、興味を覚えるところだ。「ちょこっと荻ノ島」と題された案内板が、現地の駐車場の隅に設置されている。案内板には荻ノ島環状集落についての概略が記されているが、その「地名の由来」の項目には、“古老の伝承によれば”との前置きに続いて“大昔はもうぎの原に沖のような島があり「もうぎケ原沖の島」といわれたのが、いつしか「荻ノ島」の地名になった”とある。これだけではよくわからないが、つまり“島のように見える”地形があったということなのだろう。
荻ノ島環状集落
集落は山々を縫って流れる鯖石川河岸の段丘上にあるが、その辺りでは紀元前8000〜3000年頃に縄文文化が栄えていたらしく、集落内でも当時の生活用具などが発掘されているという。まず湧水に恵まれた辺りに集落が形成され、それが次第に環状に広がっていったものという。家々が環状に並ぶことによって、中央部の水田を外的から守り、各家々に効率良く水を分配することができ、さらに各家々の日照も平等になる利点があったようである。
荻ノ島環状集落
前述の案内板に記されているところによれば、1790年には33戸、1871年(明治4年)には66戸、1938年(昭和13年)には101戸の家があった。その後は減少に転じたようで、1965年(昭和40年)には89戸、1975年(昭和50年)には65戸、2000年(平成12年)には40戸と推移している。これから先、どれくらい集落として維持できるのかわからない。無責任な物言いだが、長く残って欲しいものだと思う。
荻ノ島環状集落
集落を環状に辿る道は一周約800m、景観を楽しみながらゆっくりと歩いても20〜30分ほどか。集落内には茅葺き屋根の風情を活かして宿として活用されている建物もあるようだが、ほとんどは一般の民家だ。高柳町の“観光名所”的にPRは成されているようだが、基本的に“観光地”ではなく、生活集落だ。だからこそ魅力的なのだ。観光地的喧噪感はまったく感じられず、山間にひっそりと残された貴重な歴史遺産のような佇まいだと言っていい。
荻ノ島環状集落
集落は幹線道路からは距離があり、ひっそりとした静けさを保っている。集落内の環状の道をのんびりと歩けば、情趣豊かな景観を存分に堪能することができる。もちろん集落内のすべての建物が茅葺き屋根というわけではないが、長閑で穏やかな山村集落の風情は素晴らしく、すべての景観が魅力的だ。その風景を求めて、スケッチなどを目的に訪れて滞在する人もあるようである。
荻ノ島環状集落
集落の北東側には荻ノ島松尾神社が鎮座している。社殿の前にお座りになっているお地蔵様のお姿も素敵だ。境内には柏崎市の文化財(天然記念物)に指定された「荻ノ島松尾神社の二本杉」がある。なかなか見事な樹木だ。巨樹、巨木に興味のある人はぜひ見てみよう。
荻ノ島環状集落
荻ノ島環状集落は“観光名所”としては決して広く知られたところとは言えない。しかし昔ながらの景観を残す長閑な山村集落の風情を好む人なら、ぜひ一度訪れてみて欲しいところだ。都会の喧噪から遥かに離れた、静かな時間が流れている。
参考情報
交通
荻ノ島環状集落は強いて言えば北越急行ほくほく線まつだい駅や十日町駅(JR飯山線、北越急行ほくほく線)が最寄り駅だが、まつだい駅からは10km以上、十日町駅からは20km以上の距離がある。公共の交通機関で訪れる場合は十日町駅からタクシーを利用するのが賢明だ。

車で訪れる場合は、関越自動車道小千谷ICや六日町IC、北陸自動車道の柏崎ICなどを利用するといい。小千谷ICからは30km弱、六日町ICからは40km弱、柏崎ICからは約23kmの距離がある。

荻ノ島環状集落に来訪者も駐車可能な駐車スペースが用意されている。駐車台数は数台分だ。

飲食
荻ノ島環状集落内には飲食店はない。

荻ノ島環状集落から県道12号を3kmほど北上したところに「高柳じょんのび村」がある。食事も可能なようだ。

周辺にもほとんど飲食店はない。飲食店を探すなら北越急行ほくほく線まつだい駅周辺や十日町市の市街地、柏崎市の市街地まで足を延ばすのが賢明だ。

周辺
荻ノ島環状集落から4kmほど北上した岡野町に「貞観園」という庭園がある。江戸時代中期に造られた庭園だ。

県道12号を北上し、県道78号へと折れて西へ進むと、約8kmで梨ノ木田の棚田がある。日本の棚田百選のひとつだ。

県道12号を約3km南下すると、県道沿いに大開の棚田がある。ここも日本の棚田百選のひとつだ。さらに県道12号から県道275号へ折れて西に進むと約12kmで花坂の棚田、花坂の棚田から1kmほど北上したところには板畑の棚田がある。

南に隣接する十日町市にも美しい棚田が多い。荻ノ島環状集落の周辺では、藤沢の棚田(約14km)や大白倉の棚田(約15km)、菅刈の棚田(約13km)、清水の棚田(約14km)、蒲生の棚田(約11km)、儀明の棚田(約13km)、星峠の棚田(約22km)などが比較的近い。併せて訪ねてみるのもお勧めだ。
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