埼玉県三芳町の西端部、一部は所沢市に跨がって「三富今昔村」という民間施設がある。昔からこの地になった雑木林の自然を再生、保全し、さまざまな体験のできる施設だ。秋も深まった十一月上旬、三富今昔村を訪ねた。
三富今昔村
三富今昔村は同地に工場を構える石坂産業株式会社の運営する施設だ。工場の周辺に広がっていた樹林地を再生し、その自然環境を活かしてさまざまな体験のできる施設としたものが三富今昔村だ。施設内には自然豊かな雑木林が保全され、「交流プラザ」や「くぬぎの森 環境塾」などの施設を設け、カフェや雑貨ショップも併設する。

施設内はいくつかのエリアに分けられているが、すべてのエリアが基本的に樹林地を活かした造りだ。樹林地は さまざまな草木の育つ雑木林で、四季折々に美しい表情を楽しめる。アスレチック遊具などを設置したエリアもあり、子どもたちの遊び場としても魅力充分で、家族連れにも人気だ。
三富今昔村
三富今昔村を運営する石坂産業は廃棄物の処理、再生事業を行う企業で、「ごみをごみにしない社会を創る」を理念とし、「Zero Waste Design」をVisionとして掲げ、「大量生産・大量消費社会から、循環型社会へ」を目指しているという(石坂産業公式サイトより)。三富今昔村もそうした理念に基づいた運営がなされており、「人と自然と技術の共生」がテーマとなっている。
三富今昔村
三富今昔村が設けられている辺り、かつては不法投棄されたゴミの散乱する林だったという。そのゴミを拾い集めることから始め、少しずつ古来の雑木林の自然を再生していったのだそうだ。そうした経緯や石坂産業の業務内容、その理念などを見れば、三富今昔村が利用者に訴えようとしているものも自ずと見えてくる気がする。

三富今昔村
三富今昔村の「三富」は「さんとめ」と読む。三富は1600年代末期に開拓された「三富新田(上富、中富、下富)」のことで、現在も吉見町上富、所沢市中富、所沢市下富として地名が残っている。一般に「三富地域」と呼ばれる地域はさらに広く、三富新田を中心に吉見町、所沢市、川越市、狭山市、ふじみ野市に跨がって、面積は3200haほどに及ぶ。
三富今昔村
三富新田は当時川越藩主だった柳沢吉保によって開拓が進められた。上富91、中富40、下富49の合計180屋敷で三富新田の新しい村が開かれたのは1696年(元禄9年)のことだ。新田開発に当たっては、土地を間口40間(約73m)、奥行き375間(約682m)の細長い短冊状に区画し、そこに屋敷、畑、平地林の順で配した。この平地林をこの辺りでは“ヤマ”と呼ぶ。そもそもこの辺りは武蔵野台地の平地が広がる土地柄で丘陵地がない。樹林地のことを“ヤマ”と呼んだのである。
三富今昔村
三富地域には今も三富新田開拓当時の区割りを残しているところが少なくない。その貴重さから「三富新田」は埼玉県指定旧跡であり、朝日新聞社と森林文化協会によって選定、2009年(平成21年)に発表さえた「にほんの里100選」のひとつにも名を連ねている。

三富今昔村は、そうした土地の一角に設けられている。
三富今昔村
三富今昔村のいちばんの魅力は、やはり再生された雑木林の豊かな自然だ。三富新田の平地林にはコナラやクヌギ、エゴノキなどが主として植えられたという。落葉樹を植え、落ち葉を堆肥に活用したのだ。三富今昔村の樹林も、そうした歴史を背景に再生、保全が行われているようだ。今では動植物あわせて1300種以上の生き物が生息しているという。三富の“ヤマ”の自然に触れることのできる場所として、その魅力は大きい。
三富今昔村
雑木林は春の芽吹きから夏の新緑、秋の紅葉と、四季折々に美しい表情を見せてくれる。その足下には林の環境を好む草花が育ち、季節毎に美しい花も楽しめる。

「香(カオリ)」と名付けられたエリアでは紫陽花や石楠花、山百合、彼岸花などの花々を楽しむことができるという。花の好きな人なら、その季節毎に訪ねてみたくなるだろう。
三富今昔村
「結(ムスビ)」と名付けられたエリアにはアスレチック遊具などが設置されており、子どもたちのための遊び場として人気だ。足早に林地を通り抜けて「結」エリアを目指す家族連れの姿も少なくない。木々が茂って自然溢れる環境で、思い切り身体を動かして遊ぶのは、子どもたちにとっても楽しい体験であることだろう。
三富今昔村
「結」のエリアの隣、「集(ツドイ)」と名付けられたエリアには「くぬぎの森カフェ」や「薪焼き Organic Pizza」などの店舗があり、軽食やスイーツ、ドリンク類などを販売している。のんびりとランチタイムを過ごすのにぴったりのエリアだ。
三富今昔村
「集」のエリアから「結」のエリアの外周部を辿って「やまゆり鉄道くぬぎ号」と名付けられたミニSL(ミニ新幹線のこともある)が運行している。小さな子どものいる家族連れに人気だ。
三富今昔村
三富今昔村はこの地に残された樹林地の自然が最大の魅力で、四季折々の雑木林の表情を楽しむことのできるところだ。家族連れにとっても自然に親しみながら遊べる場所として魅力的だろう。三富地域の“ヤマ”の自然に触れながら、人の暮らしと自然環境の共生を今一度考えてみるのもいい。民間の有料施設だけあって施設内は随所におしゃれな演出が成されており、ただ散策するだけでも充分に楽しい。素敵な施設である。
三富今昔村
三富今昔村
三富今昔村
三富今昔村
三富今昔村
三富今昔村
参考情報
三富今昔村は“入村料”が必要だ。また初めて訪問した際には「三富今昔村 入村BOOK」を購入しなくてはならない。“入村料”や“休村日”、“開村時間”など、詳細は三富今昔村公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
電車で訪れる場合は、東武東上線ふじみ野駅か、西武線所沢駅を利用するといい。送迎バスが運行している。送迎バスの乗り場や運行時間は三富今昔村公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

三富今昔村には来村者用駐車場が設けられており、車での来村も可能だが、駐車台数はあまり多くはない。余裕を持って予定を立てよう。

遠方から車で訪れる場合は、関越自動車道所沢ICを利用するのが便利だ。所沢ICを「入間・所沢市街」方面へと出て、8kmほどで着く。

飲食
三富今昔村内「くぬぎの森交流プラザ」で食事が可能だ。また「くぬぎの森カフェ」で麺類やビザなどの軽食を販売している。

三富今昔村はコンビニのお弁当やおにぎり、ファストフード等の“ゴミのでるお弁当類”の持ち込みは不可としている。手作りのお弁当なら可とのことだ。また三富今昔村内にはドリンク類の自販機は設置されていない。水筒などを持参しよう。その他、詳細は三富今昔村公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
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