静岡県河津町の「かわづ花菖蒲園」は温暖な気候と温泉によって日本一早く開花する花菖蒲園だそうだ。130種、25000株の花菖蒲が植えられ、早咲きから遅咲きまで順に花を咲かせる。開園期間も終わりに近づいた六月初旬、「かわづ花菖蒲園」を訪ねた。
「かわづ花菖蒲園」は1998年(平成10年)に河津町が開設、町の観光名所のひとつとして親しまれ、2003年(平成15年)には6万9千人の来園客があったという。しかし以後は来園客は減少、さらに連作による生育不良や施設の老朽化も重なり、今後対策を施しても来園客が増える確証はないとして、2015年(平成27年)5月1日〜6月15日の開園期間を最後に、町は閉園を決定した。それを惜しんだ観光協会が全面的に運営を継承、土地の改良や施設の修復を施し、2016年(平成28年)にリニューアルオープンされている。しかし、残念ながらリニューアル後も客足は戻らず、結果的に2017年(平成29年)の営業を最後に閉鎖されている。本頁の内容は町営時代の2009年(平成21年)に来園したときのものである。花菖蒲の名所として観光客で賑わっていた頃の記録として、このまま公開しておきたい。
通常、関東での花菖蒲の花期は六月だ。早くても咲き始めるのは五月の末になってからだ。この花菖蒲を五月の節句に咲かせたいと、房州(今の千葉県)の阿部市右衛門という人物が河津の峰温泉で温泉熱を利用して栽培、伊豆の温暖な気候も手伝って五月の初めに開花させることに成功した。昭和初期のことという。以来、河津では町中で花菖蒲の栽培が盛んになり、現在ではその出荷数は関東一となり、全国でも有数の生産地として知られる。1975年(昭和50年)には花菖蒲は河津町の「町の花」に制定されている。
「かわづ花菖蒲園」は、その河津の花菖蒲を象徴する施設だ。花期は5月初旬から6月半ばまでで、この期間に「かわづ花菖蒲園」は観光客を迎えるために開園する。河津町では「日本一早く開花する花菖蒲園」と謳っている。菖蒲園は5haほどの面積で、その中に約130種、25000株の花菖蒲が植えられているという。もちろん品種によって早咲き、遅咲きがあるから、25000株の花菖蒲のすべてが咲き揃うということはないが、開園期間中は常に花菖蒲が咲き、見事な景観を楽しむことができる。
「かわづ花菖蒲園」は伊豆急河津駅からやや山側に入ったところに設けられており、周辺には緑濃い風景が広がっている。菖蒲田の中には木道が設けられ、その木道を辿って咲き誇る花菖蒲をさまざまな角度から観賞することができる。広々とした風景の中だから実感しにくいが、5haほどの菖蒲園はなかなか広く、規模の大きな菖蒲園だと言っていい。菖蒲園内には休憩所や四阿も設けられており、ベンチに腰を降ろし、花菖蒲を眺めながらのんびりとしたひとときを過ごすこともできる。
河津町に於ける花菖蒲の栽培は基本的に出荷することが目的であるためか、「かわづ花菖蒲園」も“庭園”としての美しさという点にはあまり重きが置かれていないようにも思える。周囲の景観には少しばかり雑然とした印象もあって興をそぐが、菖蒲園を囲む生け垣の外側に農家のビニルハウスが見えたりするのもひとつの興趣かもしれない。都会の喧噪から離れて、緑の山々を背景に花菖蒲を楽しむのは、やはり素敵なひとときだ。
今回訪れたのは6月初旬、開園期間も終わりに近い時期だったからか、花もそろそろ終わりという印象もあった。やはり開園期間の中盤、5月半ばから5月末にかけての頃が最も見応えのあるものなのだろう。それでも園内に咲き誇る花菖蒲の数々は充分に見応えのあるものだった。訪れた日はあいにくの天気で、曇り空の下、ときおり雨粒も落ちてくる空模様だったが、しっとりと雨に濡れた花菖蒲は良い風情があり、とても美しいものだった。
かわづ花菖蒲園は2017年(平成29年)の営業を最後に閉鎖されている。本頁の内容は2009年(平成21年)に来園したときのものである。
河津町観光協会