日南海岸風景
夏井
夏井
串間市街を抜け、今町橋を渡ると、国道220号は日南線の線路と寄り添うように西へ向かう。高松の地区を抜けて小さなトンネルを過ぎると県境を越えて鹿児島県志布志市だ。「志布志(しぶし)」はかつては鹿児島県曽於(そお)郡志布志町だったのだが、2006年(平成18年)1月1日に曽於郡志布志町、曽於郡松山町、曽於郡有明町の三町が合併して志布志市が誕生した。その志布志市の東端、宮崎県に接するこの地域を「夏井」という。志布志湾の海岸を南に見ながらさらに西へ進めば、「ダグリ岬」への入口を過ぎ、日南線大隅夏井駅前だ。この大隅夏井駅の南側に、小さな漁港を抱えて夏井の集落がある。
夏井
日南線大隅夏井駅のある辺りは海岸部からやや高所となった台地を成している。駅前に海岸部へ降りる坂道があり、そちらへ下ってゆくと家々が集まって集落があり、その中の細道をさらに下ってゆくと夏井漁港だ。だから台地から海岸部へと降りる斜面に漁港を抱えるように家々が集まって集落を成している形だ。

坂道の上に立つと眼下に漁港を見下ろし、その向こうに志布志湾が横たわり、さらにその向こうに大隅半島のシルエットが浮かぶ。その景色がなかなか美しい。集落の中には家々の間を縫うように辿る細道もあり、そうした小径を歩けば家々の屋根の向こうに志布志湾と大隅半島が見える。その景色もいい。集落の中には小さな川が流れており、河岸にも細道が沿う。その小径の風情も素敵だ。夏の盛り、強い陽射しを避けてか、集落の中はあまり出歩く人もいないようだ。蝉の声だけが響き、ひっそりとした集落の佇まいが郷愁を誘うような風情を漂わせている。
夏井
夏井
夏井
集落の西側の小さな岬から岸壁を伸ばし、入江の中央部からは防波堤が伸び、さらに沖合いにも防波堤を築いて夏井漁港を成している。岸壁の西側は波が高いが港湾内は波もなく、静かな海面に漁船が浮かんでいる。集落側の海岸から沖へと目をやると、漁船と防波堤の見せる漁港の風景の向こうに小さな島影が見える。枇榔島という。枇榔島は志布志湾岸のほぼどこからでも見え、志布志湾の象徴のような島だと言っていい。その向こうに見える小高い山の稜線はすでに大隅半島、肝付町の山々だ。漁港の東側にはダグリ岬が志布志湾に突き出ている。ダグリ岬は景勝地として知られ、遊園地や国民宿舎などがある。夏井漁港の岸壁からも国民宿舎の建物や遊園地の観覧車などが間近に見える。

漁港から西へ細道が延びている。坂道になっており、その途中に「夏井番所跡」がある。江戸時代の夏井は薩摩藩の所領で、東側に隣接する現在の串間市は秋月藩に属していた。夏井は国境に当たり、関所が置かれていたというわけだ。特にこれといった遺構などは残されていないが、道脇の電柱に「夏井番所跡」の表示板が設置されている。夏井散策の際には見ておきたい。
夏井
夏井
夏井
夏井
夏井
「夏井」という地名は字名なども含めると福島県や岩手県など全国にあるが、九州では長崎県や大分県などに「夏井」を含んだ地名があり、福岡県には「夏井ヶ浜」というところがある。「夏井」とはなかなか風雅な地名で、その由来に興味が及ぶところだが、それぞれの「夏井」にさまざまな由来があるのだろう。志布志の「夏井」にも夏だけ水の湧く泉があったとか、夏の間だけ農作業に来るところ(だとすれば「夏居」だったものか)だとか、その由来には諸説あってはっきりしないようだ。

夏井の集落は特に観光地というわけではない。小さな漁港を抱えた鄙びた集落に過ぎない。しかしだからこそ、その佇まいは郷愁を誘って味わい深いものがある。漁港越しに見る志布志湾の風景もたいへんに美しい。そのような風情を味わうために夏井の集落に立ち寄り、ひととき散策を楽しむのもいいものだ。JR日南線大隅夏井駅の駅舎脇に、「夏井集落案内板」が設けられ、主要な施設やバス停、「番所跡」や「田の神像」などの位置が記されている。散策の際には参考にするといい。
夏井
夏井
夏井
INFORMATION
夏井
【所】鹿児島県志布志市志布志町夏井
【問】志布志市
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ページ内の写真は2007年夏に撮影したものです。本文は2009年10月に改稿しました。