八王子市別所二丁目の町のほぼ中央部、やや北寄りに九兵衛坂公園という公園がある。丘陵地の端部となった地形を利用して設けられた公園で、丘上に位置する広場はなかなかの開放感だ。供用開始となったのは1995年（平成7年）、1.7haほどの面積を有する「近隣公園」だ。

九兵衛坂公園は八王子市から多摩市に跨がって広がるゴルフコースの西側、丘陵地の端部となったところに位置している。北西側は真理学園幼稚園、南は八王子市立別所中学校で、その間に突き出た丘陵部に公園中心部が設けられている。

公園の西側には「堀之内駅南」交差点から「別所小入口」交差点まで別所二丁目の住宅街を抜ける道路が南北に通っており、この道路沿いにメインのエントランスがある。この道路に「九兵衛坂公園北」という交差点もあるから、その名を印象深く覚えている人も少なくないだろう。エントランス部は急な石段で、登り切ったところが公園の中心部だ。

「九兵衛坂公園」というその名に、まず興味を覚える。公園の近くに「九兵衛坂」という坂があったのだろうということは容易に推測できるが、そもそも「九兵衛坂」とはどういう坂なのか。坂近くに「○○九兵衛」という人物が住まっていたとか、あるいは○○九兵衛氏が坂を拓いたとか、さまざまに想像が膨らむが、どうやらそうではないらしい。

この辺りには昔から多摩市側に抜ける急坂の道が抜けており、「急な坂」が転じて「九兵衛坂」と呼ばれるようになったものだという。“転じて”というより、半ば洒落のようなもので「九兵衛坂」という“通り名”が生まれたのではないか。土地の名が生まれる経緯というものは、得てしてそういうものだ。

メインのエントランスから石段を登った先の公園中心部は丘の上だ。草はらの広場が設けられている。北側と東側は木々が茂って眺望が遮られているが、西側から南側にかけては視界が開けて丘の上であることを実感する。別所中学校を見下ろしたり、木々の向こうに住宅の建物が見えたりするのも楽しい。

広場の西の端には方位の示すモニュメントが置かれている。モニュメントには「竣工　平成3年3月」と刻まれている。八王子市による公園データの提供開始年月日と少しばかり差があるが、「竣工」と公的な「提供開始」との差異なのだろう。

広場の東端部には金属製のパーゴラが設けられ、その東側には一段低くなってもう一つ広場がある。東側下段の広場は遊具を設けた広場だ。

西側上段の広場のパーゴラの部分から広場の段差を利用して幅の広い滑り台が造られている。下りた先は砂場で、さらに下段の広場には金属製の遊具が設置されている。遊具は一種の変形型ジャングルジムとでも言えばいいだろうか、波形やトンネル状に造られた特徴的なものだ。公園内には他に遊具は無く、一般的なブランコなどは設置されていない。

遊具類は充実しているとは言い難いが、パーゴラから滑り台、遊具などをそれぞれ“オブジェ”として見立てれば、その景観そのものもなかなか美しい。シンメトリックに配置されたパーゴラと滑り台、その対称性を壊して敢えてアンシメトリックに設けられた下段広場の遊具との取り合わせが面白い。そうした意図を持って設計されたものに違いない。

下段広場の南側外縁部、ベンチと一体化した造形も楽しい。派手では無いが、気の利いた設計である。

下段広場の東側には送電鉄塔が建っている。もちろん送電鉄塔の敷地は公園の区域外だが、まるでひとつのオブジェであるかのようにそそり立つ姿が印象的だ。

送電鉄塔は「由木線24-1」、「由木線」は橋本変電所（神奈川県相模原市緑区橋本）と南多摩変電所（東京都八王子市石川町）とを繋ぐ送電線であるらしい。「由木線」はこの鉄塔で進路を90度変える。鉄塔の姿をほぼ真下から見上げることができて、送電マニアも注目の九兵衛坂公園である。

上段側の広場から木立の中を抜けて北側に石段が下りている。下りたところは谷戸の奥となった地形で、小さな広場が設けられている。ちょうど幼稚園の裏手、雑木林の丘に囲まれた広場は住宅地の中であることを忘れるような様相だ。遊具類は設置されていないから子どもたちの遊び場としては不向きかもしれない。

樹林地は広場からさらに北側に延びており、その樹林地も公園の区域内であるようだ。公園の東側にはゴルフコースが隣接しており、その敷地内と樹林地と公園の樹林地の間を小径が抜けている。小径を辿ってみるのも楽しい。

九兵衛坂公園は種別としては近隣公園だが、1.7haほどの面積のうち、樹林地が占める割合も少なくなく、体感的にはもっと狭く感じるのも事実だ。特筆するような特徴のある公園ではないが、丘の上の広場の開放感はなかなか楽しい。

公園西側を通る道路はユリノキの並木だ。春の新緑、初夏の花、秋の紅葉などが美しい。周辺には別所公園や蓮生寺公園といった魅力的な公園も点在している。別所の街の散策の際に立ち寄ってみるのがお勧めだろう。