八王子市高月町〜丹木町
−滝山公園−
晩秋の滝山公園
Visited in November 2019
八王子市の最北部、高月町の
滝山公園は中世城郭の傑作と言われる滝山城の遺構を公園として整備したものだ。園内には土塁や空堀など、かつての丘山城の面影が残るが、そのほとんどはさまざまな樹木の茂る雑木林である。滝山公園は桜の名所として知られ、また新緑の頃も素晴らしいが、秋の紅葉の頃も散策には良い季節だ。秋の色に染まった木々の中、のんびりと園内を散策するのは心落ち着くひとときである。
滝山城は1521年(永生18年、大永元年)頃に大石氏によって築城されたとされるが、他説には1560年代に北条氏照によって築城されたともいう。北条氏照はこの滝山城を拠点に甲斐の武田信玄の侵攻に備えたのである。
かくして1569年(永禄12年)、小田原攻略へ向かう甲斐の武田信玄が滝山城を攻め、世に言う「滝山合戦」が起こる。合戦は辛くも北条側の勝利で終わるが、苦戦を強いられた北条氏照は滝山城を廃して八王子城を築き、本拠を移すことになるである。
現在、滝山城の遺構のほとんどが東京都立の
滝山公園として整備され、都民、市民の憩いの場として親しまれている。公園内はほぼ全てがさまざまな樹木の茂る雑木林の丘で、その中を縫うように園路が巡る。園内には桜も多く、八王子市内の桜の名所のひとつにも数えられている。桜が終わって新緑の季節を迎えれば、瑞々しい魅力を湛え、気軽なハイキングに訪れる人も少なくない。秋になれば木々が紅葉し、美しい晩秋の景色を見せてくれる。紅葉の季節の滝山公園もなかなかお勧めである。
滝山公園の紅葉の魅力は、さまざまな広葉樹の見せる素朴な秋の色である。クヌギやコナラ、サクラなどの広葉樹が見せる紅葉は派手さはないがしっとりと味わい深く、日射しの向きによっては驚くほど美しい色彩を見せてくれる。その景観を楽しみながらの散策は心落ち着くひとときと言っていい。
丘陵の頂上部分には滝山城の二の丸跡が広場として整備されている。一角にはかつて国民宿舎「滝山荘」として使われていた建物、通称「旧滝山荘」が残っている。その建物の背後に印象的に一本のトウカエデが立っている。トウカエデは街路樹などでも多く見かける樹木だが、条件が恵まれれば美しい紅葉に染まる樹木である。「旧滝山荘」横のトウカエデもなかなか美しい紅葉を見せてくれている。イロハモミジやヤマモミジなどに比べれば艶やかさに劣るが、晩秋の青空を背景に見上げるときの美しさは素晴らしいものだ。
この二の丸広場の北端部はパーゴラが設けられており、北に視界が開けて多摩川の河畔から多摩川と秋川の合流点付近、さらにその周辺に広がる町並みを見下ろすことができる。爽快な眺望である。晩秋になれば展望所付近の木々も葉を落とし、他の季節よりさらに視界が広がるのが嬉しい。秋の澄んだ空気の向こうに広がる景色を楽しんでおきたい。
二の丸跡の広場から引橋を渡った先は本丸跡だ。本丸跡は木々に包まれた広場だ。モミジの木も少なくなく、晩秋の日射しを浴びて美しい色に染まっている。日射しの向きを考えて、うまく透過光に輝くモミジの景観を楽しむのがお勧めだ。
本丸跡の北側には一段高くなったところに霞神社が鎮座している。霞神社は日露戦争の戦没者を祀るために建立されたもので、その後の戦争で戦死した英霊も祀っている。要するに戦没者慰霊のための社である。
この霞神社の脇や背後に見事なモミジが数本立っている。広場側から見れば順光を浴びて秋色の景観が輝く。社の裏側に回ると、社脇のモミジが逆光に浮かぶ。この景観が見事なものだ。木の下に立って見上げれば秋空を背景に紅く染まったモミジが透過光に輝き、ためいきが出るほどの美しさだ。
立ち位置を変えればモミジの見せる景観はさまざまに表情を変え、飽きることがない。紅いモミジと共に常緑樹の緑が視界に収まるのも美しいコントラストだ。モミジの背後に社を入れて写真を撮るのも楽しい。社のシルエットがうまくアクセントになって、素敵な写真を撮ることができるだろう。あれこれと構図を考えてカメラを構えるのは楽しいひとときだ。
滝山公園にはあまりモミジの木が多くないために見落としがちだが、紅葉の季節に滝山公園を訪れたなら、本丸跡、特に霞神社脇のモミジを見逃してはいけない。素晴らしい紅葉が楽しめる。
滝山公園は滝山城跡という点でマニアの注目を集める公園だが、城マニアでなくても気軽なハイキングを楽しむために訪れるのもお勧めだ。木々が紅葉に染まる季節は桜の頃や新緑の頃とはまた違った表情を見せてくれて楽しい。紅葉狩りという視点で訪れるには少し物足りないが、本丸跡のモミジをメインの目的にした秋のハイキングとしてなら充分に楽しめる。