横浜線沿線散歩公園探訪
座間市入谷
座間谷戸山公園
Visited in September 2006
座間谷戸山公園
座間市入谷三丁目に「座間谷戸山公園」という神奈川県立の公園がある。その名からもわかるように、昔ながらの谷戸と里山の姿をよくとどめて整備された、自然溢れる公園だ。公園として整備される以前から、周辺が市街化してゆく中でこの付近は昔ながらの里山の風景を残す場所だったようだ。1987年(昭和62年)から整備が始まり、1993年(平成5年)に一部が開園、全面開園となったのは2002年(平成14年)のことであるらしい。

公園の西側には小田急小田原線が間近に通り、南側と東側、北側は道路が抜け、それらによって周辺から切り取られるように公園が横たわっている。特に南側を通る藤沢座間厚木線(県道42号)と東側を通る緑ヶ丘大塚線は交通量も多く、さらに緑ヶ丘大塚線を挟んだ東側には座間市役所がある。周辺はすっかり住宅地で、その中に残る公園の自然はとても貴重なものと言っていいだろう。

座間谷戸山公園
公園の立地は座間丘陵に西側から入り込んだ谷戸部を中心にしており、だから公園はその中央部に谷戸を抱え、その周囲を雑木林の丘が取り囲む。谷戸は湿地で、最も奥まったところに湧き水があり、さらに池や水田などが谷戸に横たわっている。谷戸から周辺の林の中へ散策路が延び、散策路を辿れば園内を一巡りすることができる。「谷戸山憲章」として「園内のものは持ち出さない(生物・土・石)」、「園外のものは持ち込まない(ゴミ・犬のフン・外来生物)」、「多様な自然環境を生かした利用をする」、「市民参加(ボランティア)活動を促進する」といったことが謳われており、この公園の目的と意義を理解することができる。
座間谷戸山公園
公園の北東端に「東入口」が置かれており、この「東入口」がおそらく公園のメインエントランスという位置づけに違いない。入口から園内に入ると「東入口広場」があり、その脇に駐車場とパークセンターがある。パークセンターには公園の管理事務所が置かれ、研修などに使用できるレクチャールームを備えている。館内には公園内で見られる動植物の紹介やボランティアの活動紹介などが展示されており、公園の概要や園内マップなどを記したリーフレットも用意されているから、公園に訪れた際には立ち寄っておきたい。「東入口広場」は円形に造られた広場で、公園内では唯一人工的で現代的な造形を感じるところだ。広場の周囲には百日紅が植えられており、夏から初秋にかけての花期には美しい姿を見せてくれるだろう。「東入口」近くにはテニスコートがある。このテニスコートは座間谷戸山公園の施設ではなく、座間市立の「ひまわり公園テニスコート」であるようだが、それと意識することなく座間谷戸山公園に溶け込んでしまっている。

座間谷戸山公園
「東入口」から園内へと歩を進めると、テニスコートの南側に当たる一角に、昔ながらの「丘」を彷彿とさせる場所がある。見晴らしの良い丘を真っ直ぐに小径が抜け、小径の北側には畑が横たわり、南側には小さいながらも草はらの広場がある。この広場もかつては畑地だったのに違いない。丘の上に木々に囲まれて横たわる畑と広場の佇まいがとてもいい。公園として整備される以前の、ここがまだ里山の丘の上の畑地だった頃の佇まいをよく残している。小径の風情もいい。個人的にこうした「丘の上に広がる畑地」のような風景が好きなこともあって、この一角のことは特筆しておきたい。
座間谷戸山公園
「東入口」から林の中の散策路を西へ辿って行くと「北入口」が置かれており、こちらにも駐車場が用意されている。「北入口」の南側は丘になっており、「伝説の丘」と名付けられている。なぜ「伝説の丘」なのだろうかと思うが、かつてこの丘には観音堂が建っており、観音様と大蛇にまつわる言い伝えが残っているのだという。散策路脇には古い時代のこの辺りの地図を記したパネルが設置されており、現在の様相との違いに興味は尽きない。地図にはさまざまな古来の地名が記されており、地図を眺めながら遠い昔の風景に思いを馳せるのも楽しい。

座間谷戸山公園
丘はなかなかの高みで、特に「北入口」から丘の頂上へと向かう小径の途中からは北方に視界が開けて爽快な眺望を楽しむことができる。お地蔵様なども残されており、公園として整備される以前ののどかな農村の風景を彷彿とさせて散策も楽しい。丘の頂上付近は端正に整備され、四阿も置かれている。公園のリーフレットによれば公園本来の植生を見ることができるということだが、丘の頂上付近にはなかなか美しい姿の樹木が多く立ち並び、爽やかな印象の景観を見せている。丘から南を見下ろせば公園中央部の谷戸で、水田と「里山体験館」が、まるで山間の農村のような佇まいでひっそりと横たわっている。
座間谷戸山公園
公園中央部を占める谷戸が、おそらく座間谷戸山公園のもっとも大きな魅力であるに違いない。東西に延びる谷戸は湿地になっており、奥まったところには池が横たわり、さらにその奧には湧き水がある。湿地の脇に散策路が整備されており、谷戸の見せるさまざまな表情を存分に楽しむことができる。

座間谷戸山公園
谷戸の最も西側部分が公園の「西入口」を兼ねており、長屋門が訪れる人を出迎えてくれる。小田急小田原線の座間駅から公園に訪れる人にとっては、この「西入口」がメインエントランスとしての役割を果たしてくれるだろう。長屋門をくぐって園内に入ると眼前に美しい谷戸の風景が広がる。緑濃い尾根に抱かれるように谷戸田が横たわっている。おそらく公園として整備される以前からこうして谷戸田があったのだろう。訪れた九月末、蒼く澄んだ空の下、黄金に染まり始めた稲穂が初秋の日に輝き、美しい景観を見せていた。田圃の端には案山子の姿があったが、これは本来の目的より来園者向けの演出としての意味が大きいのだろう。

田圃の右手(南側)には一段高くなって「里山体験館」が建っている。昔の農家をモチーフにして建てられたものという。建物の周囲はいかにも農家の庭先という雰囲気が出ているのがいい。「里山体験館」は休憩などに利用することができる。「里山体験館」の縁側に腰掛け、眼前に横たわる水田と、その向こうの緑濃い丘を眺めながらの一休みは心安らぐひとときだ。

座間谷戸山公園
田圃の奧(東側)は「湿性生態園」という位置付けで、湿地に木道が辿り、水辺の動植物を間近に見ることができる。初夏にはキショウブが美しいという。四阿も置かれており、緑濃い風景に包まれてのんびりとした時間を過ごせるところだ。

湿地を渡る木道ではザリガニ釣りをして遊ぶ子どもたちの姿を見ることがある。公園によれば、釣ったザリガニは持ち帰って欲しいとのことだ。湿地に棲息するザリガニはアメリカザリガニという外来種であり、あまりに数が増えれば日本古来の生態系に悪影響を及ぼしかねない。本来は公園内の動植物を採取してはいけないのだが、ザリガニはそうした理由から例外として採取、持ち帰りを勧めているというわけだ。子どもたちも心おきなくザリガニ釣りが楽しめるだろう。

座間谷戸山公園
「湿性生態園」のさらに奧には池が横たわっている。池は公園が整備された際に造られたもののようだ。緑の尾根に抱かれるようにしてひっそりと横たわる池の佇まいが良い風情で、時を忘れて眺めていたくなる。池は「水鳥の池」と名付けられており、カモやカワセミといった野鳥の姿を見ることができるという。池と「湿性植物園」との間に木製の大きな観察デッキが設置されており、デッキに建てば眼前に池を一望できる。観察デッキから南側へと散策路を辿ると池の岸辺に野鳥観察小屋も設けられているから、野鳥観察の趣味に人にとっては見逃せないところだ。公園のリーフレットによれば「里山体験館」で双眼鏡の貸し出しも行っているとのことだから利用してもよいだろう。

座間谷戸山公園
「水鳥の池」の北側の奧には「わきみずの谷」がある。「水鳥の池」の観察デッキのある一角からは岸辺に沿ってゆくことはできず、いったん林の中の散策路を経由して谷へ降りてゆかなくてはならない。「わきみずの谷」は谷戸の北側の最奧部で、その名からもわかるように湧き水があり、その湧き水を受けて谷戸全体が湿地になっている。ここにも大型の木製デッキが設置され、湿地の上を木道が辿っている。まさに谷戸の最も奥まったところという佇まいで、辺りはひっそりと静まり、周囲の木々も間近に迫り、谷には何やら秘やかな雰囲気が漂っている。デッキの隅に設けられたベンチに腰を下ろし、鳥の声と風にそよぐ木々の音に耳を傾けながらのんびりと時を過ごせば日常の喧噪をすっかり忘れてしまう。
座間谷戸山公園
「里山体験館」脇から南へと林の中の散策路を上ってゆくと、ぽっかりと広場がある。「野鳥の原っぱ」と名付けられた一角だ。木々に囲まれているから開放感はあまりなく、それほど大きな広場でもないが、シートを広げてのんびりとくつろぐには良い場所かもしれない。

座間谷戸山公園
「野鳥の原っぱ」からさらに南へ上ってゆくと「南入口」だ。入口付近は端正に整備されており、ベンチも置かれている。入口脇には草はらの広場があり、隅には四阿が置かれている。開放感のある広場だが、県道42号線(藤沢座間厚木線)がすぐ横を通っており、少々落ち着かないのが難点かもしれない。

「南入口」から林の中をくねくねと辿りながら散策路が東に延びている。「南入口」の東側にはボランティア活動などの際に使用できるというログハウスや、「昆虫の森」と名付けられた一角がある。林の中の散策路は公園の南東側の端近くへ延び、さらに北へ曲がってやがて「北入口」近くへと達し、結果的に園内を一周する。途中、公園の南東側の角へと抜け出ると、「多目的広場」と駐車場の置かれた一角がある。「多目的広場」という名だが、小さな草はらの広場だ。

園内の林の中には、北側には「クヌギ・コナラ観察林」、南西側には「シラカシ観察林」、南東側に「スギ・ヒノキ観察林」と名付けられた区域がある。散策路を巡ってそれぞれに異なる林の表情を見てみるのも楽しい。
座間谷戸山公園
公園のリーフレットには、「心温まるなつかしい風景と出会う」と謳われ、「里」と「山」と「水辺」の三つの風景から公園が成り立っている旨が記されている。田圃や「里山体験館」のある一角は昔ながらの農村の「里」の風景を彷彿とさせ、谷戸奧部の「湿性生態園」や「水鳥の池」、「わきみずの谷」ではさまざまな表情の水辺の風景が楽しめる。それを取り囲む雑木林の丘の鬱蒼とした様子も魅力的だ。確かにその三つが座間谷戸山公園を構成する最も大きな要素であり、谷戸の見せる郷愁を誘うような風景はこの公園の象徴だと言っていい。昔懐かしい風景の中で散策を楽しみたい人、野鳥観察の趣味の人、雑木林散策の好きな人など、それぞれの人にとって魅力溢れる公園であることだろう。四季折々に訪ねて、季節毎の表情を見てみたい公園だ。

里山の自然を保全する目的の公園らしく、人工的な造形を感じる施設や広場などは周辺部などの一部に最小限にとどめられている。広々とした草はらの広場や遊具類もないから、子どもたちのための遊び場としては少し物足りなさもあるかもしれないが、しかし考えてみれば昔はこうした風景の中で子どもたちは遊んだものだったのだ。鬱蒼とした林の中の小径を抜け、谷間に沈む池を眺め、田圃の見せるのどかな風景の中を歩くのは子どもたちにとっても楽しいことに違いない。
座間谷戸山公園座間谷戸山公園
座間谷戸山公園座間谷戸山公園
公園には「東入口」と「北入口」、さらに南東側の角の三箇所に駐車場が用意され、合計で140台分を超える駐車スペースがあるということだが、公園の規模を考えれば充分とは言えないかもしれない。電車でのアクセスであれば、小田急小田原線座間駅から「西入口」を目指すのが至近だが、小田急小田原線相武台前駅から「東入口」を目指しても歩けない距離ではない。JR相模線相武台下駅からはさすがに少しばかり距離があるが、周辺の散策も兼ねて訪ねてみるのも悪くない。園内には飲食のできる施設などはなく、お昼時に訪ねるのであればお弁当持参がお薦めだ。トイレは「東入口」、「北入口」、「里山体験館」横、「南入口」、「「多目的広場」横にそれぞれ設置されており、困ることはない。その他、パークセンターの電話番号や各施設の利用案内などは、座間谷戸山公園の公式サイトなど(頁末「関連する他のWebサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
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