八王子市別所の南西部に「ヨウコウ(陽光)」という品種の桜が植えられた道路がある。春になれば鮮やかなピンクの花を咲かせ、街を彩る。陽光桜が満開となった三月下旬、別所の桜並木を歩いた。
この桜並木は八王子市別所の南西部、「長池見附橋」交差点から南西の方角へ「南大沢南」交差点まで延びる。ちょうど
長池公園の西側の外縁部に沿っている。距離は1kmほど、ゆっくりと歩いても片道30分かからないだろう。それほど歴史の古いものではなく、木も全体に若木と言っていいが、近年ようやく大きく育ってきて見応えのある姿を見せてくれるようになった。
「ヨウコウ(陽光)」という品種の桜はアマギヨシノ(天城吉野)とカンヒザクラ(寒緋桜)との交配によって作出されたものだそうだ。一重咲きで、花弁は淡いピンクだが中心部に濃い紅があり、咲いている姿を遠目に見ると、光の具合によってか、薄紅色に見えたり、艶やかな紅色に見えたりする。いずれにしても桜の代名詞的なソメイヨシノと比べればかなり鮮やかな印象の桜と言っていい。一般的に開花期はソメイヨシノより若干早いようだ。「ヨウコウ」は“陽光桜”と通称されることも多い。「ヨウコウ」と表記すると少し風情に欠けるので、本頁では「陽光桜」と表記することにしよう。
並木道の北東側の端は「長池見附橋」交差点だ。交差点の名のように、東側にはかつての四谷見附橋を移設復元したという「
長池見附橋」が「姿池」を跨いでいる。この交差点の北側、すなわち並木道の反対側から眺めれば、鮮やかな陽光桜に縁取られて南西の方角へと延びる並木道がたいへんに美しい景観を見せてくれる。まずこの景観を楽しんでおきたい。
「長池見附橋」交差点から南西へ、陽光桜の並木道を辿ろう。
長池公園と
松木公園との間を通り、緩やかに曲がりながら、緩やかな起伏を伴いながら並木道は続いてゆく。松木公園の南端部分では長池公園とを繋いで「長池橋」という人道橋が架かっており、この橋に立てば陽光桜並木を上から見下ろすことができる。その景観もなかなか美しい。
長池公園の駐車場脇を過ぎてさらに辿ると、並木道は緩やかな坂道となって「南大沢南」交差点へと下りてゆく。坂道は緩やかなカーヴを描いており、並木もそれに沿って優美な曲線を描き、そこへ坂道の勾配が加わり、それらの生み出す景観の表情がたいへんに美しい。歩いて行けば視点が変わり、桜並木の見せてくれる表情も変わって飽きない。
道の西側は住宅街で、集合住宅も建ち並んでいるが、それらの建物の意匠も美しく、街並みそのものが美しいために、その風景と桜並木との取り合わせがまた別の興趣を生み出していると言っていい。
「南大沢南」交差点に近くなるにつれ、並木の“密度が薄くなる”ような印象もあるが、芽吹きの季節を迎えた長池公園の木々を背景に見る景観も良い風情がある。
「南大沢南」交差点から南大沢駅方面へと散策の足を延ばしてみるのも悪くはないが、今回はまた「長池見附橋」交差点を目指して並木道を引き返し、陽光桜並木の景観をもう一度楽しむことにしよう。
この並木道はもちろん車両の通行のある一般道だが、幹線路としての役割を持っていないために通り抜ける車は少なく、歩道を歩いていても騒音や喧噪感に興をそがれることもない。陽光桜の景観を楽しみながらのんびりと散策することができる。
長池公園に訪れた際に足を延ばして歩いてみるのもいいし、南大沢駅から堀之内駅まで
清水入緑地や
せせらぎ緑道を辿って散策を楽しむ際にルートに加えてみるのも楽しい。また「南大沢南」交差点で交わる都道503号線はオオシマザクラの並木になっている。うまくオオシマザクラの開花期と重なれば趣の異なる二種の桜並木を楽しむことができるだろう。