八王子市南大沢
新緑の南大沢三丁目
Visited in April 2014
新緑の瑞々しい四月の下旬、南大沢の町を歩いた。南大沢は多摩ニュータウンに位置する住宅街で、緑に溢れて街並みも美しい。南大沢駅の南側、南大沢三丁目の辺りを中心に、点在する公園の木々や街路樹の新緑を愉しみつつ、歩いてみたい。
今回の散策の出発点は京王相模原線南大沢駅だ。駅の周辺には商業施設が建ち並んでおり、日曜休日には買い物客で大いに賑わう。この日は「フラワーフェスティバル由木」の開催日の週末だったのだが、まだお昼前ということもあってか、駅周辺はそれほどの人出ではないようだ。メイン会場の中郷公園はすでに賑わっているのかもしれない。フラワーフェスティバルの一環なのか、駅前にも花々が飾られている。澄んだ青空の下、花々の色彩が春を感じさせてくれる。
駅の南側はバスロータリーだ。そのロータリーの北側を東に進み、道路を渡ると木々に包まれた舗道が延びている。辿ってゆくと小さな社があり、そこから南へスロープとなった舗道を下りると、歩道橋が都道503号線を跨いで東側の住宅街へと繋いでいる。
10年ほど前、この歩道橋を渡って松木の方まで足を延ばしたことがあった。今回は歩道橋を渡らず、歩道橋の袂から引き返すように階段を上がって西側の住宅街へと戻ろう。
この辺りは南大沢駅も含めて南大沢二丁目の町だ。丘陵地に造られた住宅街で、その東端部に当たる。都道503号線は丘下を辿っており、住宅街との間には斜面林が伸びている。右に住宅街を、左に斜面林の木々を見ながら南へ辿る。住宅街の家の庭のツツジがそろそろ咲き始めている。歩いて行くと、住宅街の一角に南大沢西谷戸公園という小公園があった。家一軒分ほどの面積の小さな公園だが、園内では藤や花水木が咲き、大きなケヤキの新緑が美しい。
南大沢西谷戸公園のすぐ南側に、東側の斜面林の中を下りてゆくスロープの舗道があった。これを下りてゆこう。舗道の両脇は新緑の木々だ。その中にまだ八重桜の花が少し残っていた。ほとんど白に近い淡いピンクの花はイチヨウだろうか。若葉の緑とのコントラストが美しい。スロープの舗道を下りきると都道503号線沿いの住宅街だ。
住宅街横の道を辿って都道503号線に出た。都道503号線は相模原市上溝から立川市錦町まで繋いでいるが、八王子市南大沢を抜ける区間、南大沢二丁目交差点から南大沢南交差点までの間、オオシマザクラの並木になっている。ソメイヨシノとほぼ同じ時期、白い花を咲かせて沿道を彩ってくれる。もちろんすでに花は終わり、並木は新緑が茂っている。
都道503号線を100mほど南へ辿ると「南大沢」交差点だ。西側から下りてくる道路は
カツラの並木で、新緑や紅葉が美しいのだが、訪れたとき、すいぶんと大胆に剪定されており、その景観を楽しむことはできなかった。
「南大沢」交差点から南へ、「南大沢南」交差点まで、都道503号線西側の斜面林は「
清水入緑地」として整備されている。多摩丘陵の林相が残された緑地には鬱蒼と木々が茂り、その中を縫って、あるいは東側の斜面の裾に沿って、散策路が整備されている。丘裾の散策路の入口脇にはシャガが咲いていた。その横に、雑木林の斜面へと分け入ってゆく小径が登っている。その小径へ歩を進めて緑地内を一巡りしてゆこう。
清水入緑地のほとんどは雑木林に覆われているが、南東側の一角は端正に整備されており、一般的な公園のような佇まいだ。藤棚を兼ねたパーゴラも設けられており、藤の花が咲き始めている。その近くではまだ八重桜が咲いている。淡いピンクの花はフゲンゾウか。散策路脇にはここでもシャガを見ることができた。隣接する南大沢長谷戸公園ではハナミズキが咲いている。さまざまな春の花を楽しむことができた。
清水入緑地を南端まで進むと南大沢南交差点だ。交差点の向こうに見える木々の茂った丘は
長池公園だ。交差点から北東の方角へ延びる道路は
ヨウコウという品種の桜の並木で、濃いピンクの花で春の景観を彩る。
南大沢南交差点から清水入緑地内を抜けて西側の住宅街へ歩を進める。南大沢三丁目の町、「グリーンメゾン南大沢」という住宅街の中を舗道が辿っている。舗道にも花水木が咲き、新緑が陽光に映えて美しい。
舗道を通り抜けると大窪歩道橋でバス通りを跨ぎ、大平公園の南側へ着く。
大平公園に立ち寄ってゆこう。大平公園は木々の茂った緑濃い公園で、池も設けられている。土曜日のお昼過ぎだったが、公園内にあまり人の姿はなく、ひっそりとしていた。
大平公園を一巡りして通り抜け、公園の北西側の角、「ひねもす亭」の下から南大沢中学校南側の舗道へ出た。舗道を西へ辿ろう。100mほど進むと
南大沢中郷公園から真っ直ぐに南へ延びてきた舗道と交わり、三叉路をなしている。三叉路の中央には野外彫刻が展示されている。工藤健という彫刻家の「風に立つ」という作品で、1978年(昭和53年)の作らしい。工藤健は秋田生まれの彫刻家で、東京芸術大学で彫刻を学び、1970年代から2008年(平成20年)まで多摩美術大学で教職にあった。2006年(平成18年)から2009年(平成21年)までは二科会の理事も務めている。「風に立つ」の近くには同じく工藤健の作品「集いの詩」も展示されているから興味のある人は見学していくといい。
「風に立つ」の像に見送られるようにして、舗道を南へ辿ろう。この舗道が南大沢三丁目と四丁目の境になっている。小さな商店街の横を抜け、大松山歩道橋で一般道を渡ると南大沢四丁目の町、さらに進んでゆくと、舗道の西側に
九反甫(くたんぼ)公園という小公園がある。昔はこの辺りに小さな水田がたくさんあったそうで、全部合わせて九反(9000平方メートルほど)くらいだったことから「九反甫」と呼ばれるようになったともいう。公園は舗道から低くなったところに広場を設け、遊具類を置いたシンプルなものだが、外縁部の木々が新緑を迎え、咲き始めた植え込みのツツジが美しい。
九反甫公園の南側はバス通りだ。この通りを九反甫歩道橋で越え、南側の住宅街へ進もう。住宅街の中の道では花水木が咲いていて美しい景観を見せている。住宅街の中を少し西へ辿ると
小山内裏公園の東端部だ。広場の脇には丘の斜面を利用して設けられた滑り台がある。一人用の幅の滑り台が二基、その脇に少し広い幅のものが一基、三基の滑り台が並んでいる。それぞれの滑り台で子どもたちの遊ぶ姿があった。
滑り台の設けられた広場脇から関東山歩道橋がバス通りを跨いでいる。関東山歩道橋を渡ってバス通り北側の住宅街へと戻ろう。歩道橋から延びる舗道は南大沢小学校の東側に沿っている。舗道の入口にはゲートの思わせる形状のモニュメントが設置され、舗道途中にもオブジェのようなベンチが設置されている。この辺りは
ソメイヨシノが満開の時期に少し歩いたことがあった。あの時は小学校校庭の桜が美しかった。小学校の端まで来ると舗道が三叉路を成している。ソメイヨシノの時期に歩いたときはここから北西側へと進んで南大沢駅を目指した。今回は東へ折れて南大沢中学校脇へと戻ることにしよう。
南谷戸歩道橋を渡ると、舗道が真っ直ぐに延びている。舗道は新緑が美しい。舗道脇のところどころにはベンチも置かれている。そのベンチに腰を降ろし、一休みしてゆこう。春の日の昼下がり、舗道を行き交う人はあまりいない。木漏れ日が揺れ、ときどき野鳥の声が聞こえる。舗道のベンチでひとときを過ごし、また散策へ戻ろう。舗道を西へ辿れば南大沢中郷公園から南へ延びてきた舗道へ丁字路で交わる。そこから南へ進めば九反甫歩道橋、北へ進めば「風に立つ」の像の建つ舗道の交差点だ。
南大沢駅を目指して舗道を北へ辿ろう。「風に立つ」の脇を通り過ぎ、南大沢中学校の西側に沿って進む。舗道はたいへんに美しい景観だ。溜池歩道橋を渡ると舗道の東側に
溜池公園という公園がある。その名から推測できるように、造成されて団地に姿を変える以前、この辺りの山裾に清水の湧く溜池があったそうだ。当時、そこにあったというグミの木が今も舗道脇に残されている。溜池公園脇を過ぎてさらに北へ辿れば中郷歩道橋、歩道橋を渡れば南大沢中郷公園だ。
南大沢中郷公園は「フラワーフェスティバル由木」で賑わっている。園内には露店が並び、花の販売所も設けられている。公園南側の広場では輪投げコーナーが設けられ、子どもたちの人気を集めている。駅に近い広場にはステージが設営され、市民団体による演奏が踊りなどが披露されている。「フラワーフェスティバル由木」は今年(2014年)で第16回、今年は4月26日土曜日と27日日曜日の開催だ。「フラワーフェスティバル由木」も地元のイベントとしてすっかり定着したようだ。すこしステージを見せてもらって、それから南大沢駅へと向かい、帰路を辿ることにしよう。
南大沢駅の南側、すなわち南大沢三丁目から四丁目にかけての町をゆっくりと巡ってみたいと思っていたから、今回はよい機会だった。この辺りは「多摩ニュータウン」として造成された住宅地の一部だが、車道から分離された舗道が住宅街の中を巡り、それが点在する公園を繋いで町全体が大きな公園の中にあるような印象もある。そのところどころに造成前の風景の名残を見つけることができるのも楽しい。四月も下旬、八重桜はほぼ花の時期を終えていたが、ところどころで残っている花を見ることができたのも嬉しかった。