よく晴れた十月半ば、浅川の河岸を歩いた。今回はJR中央線を豊田駅で降り、南口へと出て、そのまま南へ辿り、平山橋辺りで浅川の河岸へと出て、そこから上流側へと辿ることにしよう。
JR中央線の豊田駅は北口と南口でずいぶんご高低差がある。ちょうど台地端部の崖横を線路が辿っており、北口へ出ると台地上で、南口へ出ると台地の下に当たるのだ。
北口にはロータリーがあり、商店街などもあって繁華な佇まいだが、南口はそれに比べると商店なども少なく、地方の駅のような表情を見せる。
駅から南へ向かおう。駅を少し離れると周辺は住宅地だ。建ち並ぶ住宅の間を抜けてゆくと、やがて市立中央図書館の横へ出た。図書館前の道路を南へ辿ってゆけば平山橋へ出る。
道は、ここも台地の端部に当たり、崖下の南側には浅川河畔の低地が広がる。河岸段丘なのだろう。周辺は基本的に住宅地だが、住宅の間に畑地も残り、長閑な印象の風景だ。道路を辿ってゆくと目の前に送電線の鉄塔が近づいてくる。やがて道は少しずつ下り坂だ。下りきると視界が開けて浅川の河岸に出た。ちょうど平山橋の袂だ。すぐ横に送電線の鉄塔が聳えている。ここから南東の方角へ視線を向けると浅川や丘陵地を跨いで延びてゆく送電線と、それを支える鉄塔の姿を一望できる。“鉄塔のある風景”の好きな人にはお勧めの場所である。
平山橋はもちろん浅川に架かる橋なのだが、浅川の北側には小さな用水路が流れている。この用水路は上流の滝合橋付近で浅川の本川から分岐させて取水しているもので、平山橋の脇には水門が設けられている。この用水路が豊田から川辺堀之内辺りの河岸の水田地帯へ導かれ、農業用水として使われているわけだ。日野市は市役所などのある中央部は台地になっているが、北部は多摩川右岸、南部は浅川河岸に位置し、こうして農業用の水路が多く引き込まれている。“水郷”としての顔も持っているのだ。道路脇を流れてゆく用水路を眺めていると、そのまま用水路に沿って東へ辿ってみたい気になるが、それはまた次の機会にしよう。
平山橋から上流側へは浅川の河岸を歩ける堤防道はないようだ。橋の袂の交差点から東へ、再び台地上へと上がり、東平山一丁目の町へと歩を進めよう。住宅地の中の細道を抜けていくと、やがて南へ下りる道があった。降りてゆくと団地があった。平山住宅という名であるようだ。河岸の平地を利用して造られた団地なのだろう。団地のすぐ横はもう浅川だ。白い直方体形の建物が整然と並ぶ光景が、いかにも“団地”というイメージだ。団地の中には桜の木が多いようで、春には素敵な風景を見せてくれることだろう。
平山住宅の南側で浅川に架かるのが滝合橋だ。この辺りの対岸を、
以前(2006年11月)、歩いたことがあった。浅川の流れの向こうに見覚えのある風景が見える。滝合橋から上流側は河岸の堤防道がサイクリングロードとして整備されている。この道を辿ってゆこう。散策の人や自転車で行き過ぎる人の姿も少なくない。この辺り、対岸部は京王線の線路が川のすぐ横を通っており、行き交う電車の姿がよく見える。滝合橋の辺りでは対岸部も日野市だったが、少し行くと市境を越え、対岸部は八王子市長沼町になる。
やがて滝合小学校の横を過ぎる。この辺りで、浅川は緩やかに曲がっている。ここから上流部では北西の方角から南東の方角へ向けて流れていたのだが、この辺りでほぼ90度向きを変え、南西の方角から北東の方角へ向かって流れるようになる。堤防道も緩やかな曲線を描く。この曲線が風景に柔らかさを与えている。「浅川左岸 多摩川から7K」と記した距離標を過ぎる頃、目の前には浅川と湯殿川との合流点が見える。その上に架かるのが長沼橋だ。浅川と湯殿川の合流点を跨いで日野市と八王子市を繋いでいる。
長沼橋から上流部へも浅川左岸の堤防道は続いているが、橋の袂に「この先、行き止まり」の表示があった。さらに堤防道を辿るのは諦め、西平山の住宅地へと降りよう。住宅が建ち並ぶ中に農地もかなり残っており、ここにも用水路も流れている。
住宅の間を抜けるように道を辿ると緩やかに上って台地の上に出た。台地の上には畑地が広がっている。東京方面へ向かう中央線の電車に乗っていると、八王子駅を出て浅川を越えた後、向かって右側の車窓には長閑な畑地の風景が広がる。それがちょうどこの辺りだ。電車の車窓から眺める度に、いずれ訪れてみたいと思っていたところだった。畑地の中の小径を辿ると、西には八王子駅南口のサザンスカイタワーの姿が見え隠れする。
畑地の中の小径を抜けて舗道路へと出た。東平山の住宅地と西平山の住宅地とを繋ぐ道だが、おそらく昔からの道なのだろう。道脇には小さな緑地があり、緑地には雑木林が残されている。その脇にはお地蔵様が佇んでおられる。舗装路を西へ向かうとすぐに踏切があった。中央線の踏切だ。「平山大踏切」の名がある。踏切を渡り、このまま西平山の住宅街を抜けて浅川右岸をさらに上流側へと辿りたいところだが、それはまた次の機会にして、今回は線路脇の道を東に辿ってそろそろ豊田駅へと向かうことにしよう。
道は中央線の線路のすぐ脇を通っている。線路脇、南側には雑木林の小高い丘が迫っている。さきほど見た雑木林の緑地だ。中央線の車窓から見える雑木林はこれだったのかと、今さらながらに思う。線路脇の道をさらに東へ辿ると旭が丘の町だ。線路脇に住宅が並ぶ中を抜けてゆく。途中、北側に
旭ヶ丘南公園という小公園があった。少し立ち寄った後、また線路脇の道を東へ向かう。線路の向こうはJR東日本豊田車両センターの広大な敷地が広がっている。
車両センターの横を通り過ぎた辺りで、線路を歩道橋が跨いでいた。歩道橋に上がり、そこからの景観を楽しんでみよう。西側にはJR東日本豊田車両センターの敷地が広がっている。南側には多摩丘陵の両線が緩やかなに連なっているのが見える。歩道橋に立つと、頭上をちょうど送電線が南北に渡っているのに気付く。平山橋の袂で見た送電線の鉄塔も南側に見える。その向こう、多摩丘陵を越えて送電線が渡ってゆく様子が見える。あれは多摩動物公園の西側辺りだろう。当然のことながら送電線は北側にも延び、旭が丘の住宅地を越えてゆく。長閑な風景の中に立つ送電線の鉄塔、その光景を無粋なものと思う人も少なくないと思うが、そこに特別な興趣を感じる人もいる。そのような人にはなかなかお勧めの場所と言えるかもしれない。
歩道橋を降り、また線路脇の道を東へ向かう。都道155号線の陸橋で線路の南側へと移り、300メートルほど進むと豊田駅だ。今回の散策はそろそろ終わりにして、豊田駅から帰路を辿ることにしよう。
今回は特に目的を決めず、“とりあえずこの辺りを歩いてみよう”という気持ちで足を運んだ。それが本来の“散策”の姿だろう。浅川河岸の風景から団地の風景、中央線の線路の風景など、なかなか楽しめた散策だった。中央線の車窓から見える西平山の畑地を歩くことができたのも楽しかった。次の機会には今回歩いたエリアの東側の地区や北側の地区を歩いてみよう。