八王子市西浅川町から裏高尾町にかけての旧甲州街道沿い、小仏川沿いは「高尾梅郷」として知られる梅の名所だ。点在する梅林や沿道の家々の庭先などに咲く梅など、梅の総数は1万本を数えるという。観梅の名所として広く知られ、見頃を迎える三月中旬には「うめまつり」も開催され、大勢の観梅客が訪れて賑わう。「高尾梅郷」に点在する梅林の中でも、最も見応えのある梅林として有名なのが、「木下沢(こげさわ)梅林」だ。木下沢梅林の梅が見頃を迎えた三月中旬、裏高尾町に出かけた。
「木下沢梅林」は山歩き趣味の人にはよく知られた「小下沢林道」への入口付近に設けられた梅林だ。「小下沢林道」は旧甲州街道から5.5kmほどを辿って関場峠へ至る。そこから陣馬山へと向かうコースが人気があるようだ。木下沢梅林は、その小下沢林道が旧甲州街道から分かれて中央自動車道の下をくぐったところに位置している。熊笹山南西側の山裾に当たるところで、すぐ南側を中央自動車道が東西に抜ける。
木下沢梅林には約1400本の梅が植えられているという。ほとんどは白梅だが、紅梅も混じっており、そのお陰で表情豊かな梅林の景観を楽しむことができる。園内は「上段の梅」、「中段の梅」、「下段の梅」の三区域に分かれているが、要するに丘上の平坦地と丘の斜面、丘裾の部分だということで、明確に区域分けされているわけではない。その園内を“トレッキングコース”が巡り、木下沢梅林の美しさを存分に楽しむことができるように整備されている。
“上段”に当たる丘の上は平坦地になっており、一角には広場も設けられている。梅林の中を園路が辿り、観梅散歩を楽しむ人たちに混じってシートを敷いてお弁当を広げるグループの姿もある。管理用道路の脇には移動販売車での露店が出て、軽食などを販売、おまつりムードを盛り上げている。“上段”部分から西へ斜面が降り、その斜面にも覆い尽くすほどに梅が咲いている。その斜面の中ほどから裾部分にかけてが“中段”から“下段”というわけだ。そこにも園路が巡ってさまざまな梅林の表情を楽しむことができる。
早春の青空の下、日差しを浴びて咲き誇る梅の花はたいへんに美しく、“上段”から“中段”、“下段”へと、梅林の景観は場所によって印象を変え、飽きることがない。同じ園路を何度も行き来してその景観を楽しみたくなる。素晴らしい梅林である。
梅林の中の“トレッキングコース”を辿って観梅を楽しむのはもちろんだが、梅林の外、小下沢林道から見上げる景観も素晴らしい。また小下沢林道を挟んだ西側の、少し高みとなった場所から梅林を眺める景観もお勧めだ。白梅に覆われて輝く梅林の随所に紅梅がアクセントを添えて、その景観は少しばかり幻想的な味わいもある。訪れたときには、梅林の中だけでなく、ぜひ外側から眺める景観も楽しんでおきたい。
木下沢梅林のすぐ南側には中央自動車道が通っている。場所によっては咲き誇る梅の花の向こうに中央自動車道が見える。梅の花と自動車道との共演を興趣のある景観と見るか、無粋なものと見るかは人それぞれかもしれない。
木下沢梅林の敷地はフェンスで囲まれており、高尾梅郷の「うめまつり」開催期間に併せて特別開放される。それ以外の期間は基本的に立ち入りはできない。入園は無料だが、入口に維持管理のための協力金を募る募金箱が置かれている。ぜひ募金していこう。
「木下沢梅林」は国道20号(甲州街道)から都道516号(旧甲州街道)が分岐する「西浅川」交差点から西へ3.5kmほど入り込んだところに位置している。高尾駅からは4kmを超える。駒木野の辺りから観梅を楽しみながらのんびりと歩いてくるのも悪くはないが、木下沢梅林の梅が見頃を迎える頃には駒木野の辺りは見頃を過ぎていることが少なくない。初めから木下沢梅林を目指すのであれば、バスを利用するのが賢明かもしれない。小仏行きバスで「大下」バス停下車、バス停から梅林まで600mほどだ。帰路でバスを利用する場合は「大下」バス停より近い「梅の里入口」バス停が便利だ。「梅の里入口」バス停は小仏行きのバスは停車しないので注意されたい。
梅林の一般開放期間中は臨時駐車場が利用できる。30〜40台ほどが駐車可能だが、旧甲州街道は道幅が狭く、そこをバスも通行するため、運転には注意が必要だ。カーヴが多く狭い道の運転に不慣れな人や土地勘の無い人は車での来園は避けた方がいいだろう。
木下沢梅林の中は火気厳禁、すなわちバーベキューなどはできない。またお弁当を広げるのは構わないが、宴会や飲酒は禁止である。当然のことながらゴミは持ち帰ろう。梅林内の“トレッキングコース”は未舗装で、足場の悪いところもある。歩きやすく履き慣れた靴で来園することをお勧めする。
言うまでもなく、木下沢梅林は「高尾梅郷」を構成する梅林のひとつだ。木下沢梅林から2kmほど高尾駅側に戻れば「天神梅林」や「新井梅林」などがある。タイミングがうまく合えば木下沢梅林と共にそれらの梅林の梅を楽しむことができるだろう。