東京都千代田区の北東端に近い辺り、外神田の町に神田明神が建っている。神田明神は730年に創建された古社で、江戸の総鎮守として人々の信仰を集めてきた。新緑の美しい五月の下旬、神田明神へ参拝した。
神田明神
神田明神
JR中央線御茶ノ水駅を降り、聖橋を渡って北へ進むと、ちょうど湯島聖堂の北側に神田明神が鎮座している。この辺りは文京区と千代田区の区境が入り組んだところで、JR中央線御茶ノ水駅は千代田区神田駿河台にあるが、湯島聖堂の建つのは文京区湯島、その北側の神田明神は千代田区外神田にある。地図をよく見てみると区境が複雑に入り組んでいる。なぜこのような区境になったのか、少し興味を覚えるところだ。

神田明神は、正式には神田神社という。もともとは「神田明神」と呼ばれており、明治時代になって「神田神社」と改称されたもののようで、「神田明神」は通称として使われ続けているということのようだが、やはり「神田明神」という名の方がしっくりする気がする。
神田明神
神田明神
神田明神は730年(天平2年)の創建という古社で、大己貴命(おおなむちのみこと、大黒様)、少彦名命(すくなひこなのみこと、恵比寿様)、平将門命(たいらのまさかどのみこと)の神々を祀っている。元々は現在の千代田区大手町付近に建てられたものらしいが、江戸時代になって江戸城から見て表鬼門に当たる現在地に遷座されたものという。徳川家康が関ヶ原の戦いに臨んで戦勝を祈願、見事勝利したというので、以来徳川幕府の庇護を受けた。江戸時代には「江戸総鎮守」として、明治期には「東京府社」に定められ、現在でも神田、日本橋、秋葉原など、東京中心部108町会の総氏神様として人々の崇敬を集めている。関東大震災や東京大空襲の際には大きな被害を受けたが、その都度再建がなされ、近年になっても境内の整備が続けられている。隨神門は1976年(昭和51年)の再建、鳳凰殿や祖霊社は2005年(平成17年)に建立されたものという。
神田明神
神田明神
神田明神
神田明神へ参拝に訪れたときには、やはりまず本殿や隨神門の壮麗な佇まいを見ておきたい。本殿は1934年(昭和9年)に竣工したもので国の登録有形文化財、隨神門は1975年(昭和50年)に昭和天皇即位50年の記念に建立されたものだそうだ。本殿右側の獅子山も見ておきたい。獅子山に据えられた石獅子は千代田区の有形民俗文化財に指定されているもので、幕末頃に製作されたものという。また本殿の左横手から裏手にかけて、さまざまな小社や顕彰碑などが建ち並んでいる。末広稲荷神社、三宿稲荷神社、金刀比羅神社、浦安稲荷神社、大伝馬町八雲神社、小舟町八雲神社、魚河岸水神社など、それぞれの事情によって神田明神境内に遷座されたものらしい。それらの社に混じって大伝馬町八雲神社の鉄製天水桶、角田竹冷の句碑、力石といったものが点在している。千代田区の有形民俗文化財に指定されているものもあり、興味のある人ならひとつひとつを丹念に見て回りたいところだろう。
神田明神
神田明神の建つのは東京の“ど真ん中”と言っていい。周辺にはビルが建ち並び、神田明神の境内も決して“広大”とは言い難いが、そうした環境にあっても神域らしい佇まいを感じさせる。“神域”とは言っても近寄りがたいような厳粛さは薄い印象で、古い時代から庶民の信仰を集めてきた神社らしい、“親しみやすさ”のようなものも強く感じられる。参拝した後は境内をゆっくりと巡ってみるのがお薦めだ。設置された解説板にじっくりと目を通しながら見学してゆくと時間の経つのを忘れる。“観光”として参拝に訪れる人も多いようで、東京の観光名所のひとつと言っていいのだろう。
参考情報
本欄の内容は神田明神関連ページ共通です
交通
神田明神へ訪ねるならJR中央線御茶ノ水駅や東京都メトロ丸ノ内線御茶ノ水駅、東京メトロ銀座線末広町駅などが近い。東京メトロ千代田線新御茶ノ水駅やJR線(山手線や総武線など)の秋葉原駅からでも充分に歩ける距離だ。

駐車場は御茶ノ水駅周辺から東方の秋葉原駅周辺にかけて民間のものが点在しているが、小規模のものがほとんどのようだ。車での来訪はあまりお薦めしない。

飲食
神田明神の近くには飲食店があまり多くないようだが、御茶ノ水駅周辺から東方の秋葉原駅周辺にかけて数多く点在している。御茶ノ水駅南側辺りで好みの店を探してみるのがお薦めかもしれない。

周辺
神田明神の西側に隣接する宮本公園内には「神田の家(遠藤家旧店舗・住宅主屋)」が建っている。江戸時代から材木商を営んできた遠藤家が、昭和初期に建てた店舗兼住宅で、なかなか見事な建物だ。神田明神の境内からそのまま入って行ける。ぜひ立ち寄っておきたい。神田明神のすぐ南側には湯島聖堂が建っている。湯島聖堂から聖橋を渡ってさらに少し南へ向かえばニコライ堂がある。併せて訪ねてみるのがお薦めだ。

神田明神から北へ数百メートル辿れば湯島天神、さらにその北側には春日通りを挟んで旧岩崎邸庭園、その北東側には上野恩賜公園が広がっている。神田明神から西へ向かえばやはり数百メートルで東京都水道歴史館と本郷給水所公苑がある。本郷給水所公苑は初夏のバラが美しい。そこからさらに本郷の町へ足を延ばしてみるのも楽しい。東へ数百メートル歩けば秋葉原の繁華街が近い。神田明神への参拝を済ませた後は周辺の散策を楽しみたい。
社寺散歩
東京23区散歩