横浜市神奈川区三ツ沢西町
豊顕寺市民の森
Visited in April 2004
(本頁の内容には現況と異なる部分があります)
横浜市神奈川区の西端にあたる三ツ沢西町の北部に豊顕寺という寺がある。本堂の南側には斜面になった寺林があり、この林は「豊顕寺市民の森」として一般に開放され、市民の憩いの場として親しまれている。
豊顕寺という寺は、門脇に設置された案内板によれば、三河国多米村(現在の愛知県豊橋市多米町)の郷士多米元興が先祖菩提のために1515年(永正12年)に建立した本顕寺に端を発するという。後に元興は三ツ沢に隠棲し、本顕寺を移し、豊顕寺と改称したものらしい。元興の死後、堂宇が造営されて巨刹となり、1700年代以降には多くの学徒を抱える檀林(僧徒のための学問所)として大いに栄えたのだという。それらの堂宇は残念ながら明治期の火災や関東大震災によって失われ、檀林も絶えてしまった。今は木立に包まれてひっそりと本堂が建っているが、かつて多くの学徒を抱えた檀林として栄華を極めた時代もあったのかと、古い時代に思いを馳せるのも楽しい。
本堂を右手に見ながら進むと、斜面となった林へと小径が延びている。入口脇には「豊顕寺市民の森」の名と「神奈川区ビューポイント36景」のひとつであることを示す案内板が設けられている。林の中に足を踏み入れると、右手に広場のような場所があり、木製のテーブルとベンチがいくつか置かれている。「桜広場」との名があるが、その名の通り、周囲の木立は桜で、地元では
お花見の場所として親しまれているという。桜は約200本あるらしい。訪れたのは四月の下旬ですでに花の時期を過ぎ、新緑の中に木洩れ日が揺れて美しかった。
林はさらに南へ向かって緩やかな勾配で上り、やがて南端部で丘の上へと至る。一角には「藤棚広場」と名付けられた広場があり、その名が示すように大きな藤棚が設けられている。「藤棚広場」の周囲には八重桜が咲き、残念ながら花の盛りの時期は過ぎてしまっていたが、なかなか美しい姿を見せてくれていた。ところどころにはツツジも咲き、瑞々しい新緑とのコントラストが鮮やかだ。「藤棚広場」の横手には「八幡広場」という広場があり、四阿が設けられている。この「八幡広場」のあたりが「豊顕寺市民の森」の南端部と言ってよく、抜け出ると南には
三ツ沢公園が隣接している。「藤棚広場」から「八幡広場」にかけてのあたりは高所にあたるためか、南西側の道路を走る車の音がけっこう響いている。これが少しばかり難点であるかもしれない。
「豊顕寺市民の森」は面積2.3ヘクタールほどで、広さの点で言えば少々こぢんまりとした印象もあるが、市街地の中にあってひっそりと緑豊かな空間を保っており、散策は楽しい。「豊顕寺市民の森愛護会」によって整備が行われているようで、荒れた様子はまったくなく、端正に整えられている印象があった。桜の名所として知られている他に、秋の紅葉や
初夏の紫陽花なども見事であるらしい。基本的には地元に暮らす人たちのための場所だと思うが、四季折々に見せてくれる美しい表情を目当てに訪ねてみても後悔しないだろう。
「豊顕寺市民の森」の南側には
三ツ沢公園が隣接する。三ツ沢公園内の戦没者慰霊塔と、この「豊顕寺市民の森」とがちょうど背中合わせになっている形と言えばいいだろうか。三ツ沢公園は各種競技場の置かれた大きな公園だが、歩いてみると意外な発見もあって楽しい。併せて散策を楽しむのもいい。また「豊顕寺市民の森」のすぐ東側に隣接して、斜面を利用した公園が設けられている。長いローラースライダーなどを設けてあり、子どもたちの遊び場としてなかなか魅力的だが、この一角も三ツ沢公園の一部であるようだ。
「豊顕寺市民の森」へは横浜市営地下鉄の「三ツ沢上町」駅が近い。駅から国道1号に出て少し東へ歩いて南へ入り込むとすぐに「豊顕寺市民の森」だ。またこのあたりから「
三ツ沢せせらぎ緑道」が国道1号の南側に沿うように西へ延びている。これも併せて、周辺の散策を楽しむのもいいかもしれない。
【追記】
平成2年(1990年)に選定された「神奈川区ビューポイント36景」は、平成18年(2006年)4月、「わが町かながわ50選」にリニューアル、さらに平成21年(2009年)、横浜開港150周年に合わせて「わが町 かながわ とっておき」にリニューアルされている。