横浜線沿線散歩公園探訪
相模原市上溝〜陽光台
道保川公園
Visited in May 2001
道保川公園
相模川の支流のひとつに道保川という川がある。相模原市上溝から下溝にかけて河岸段丘の斜面の下に沿って流れる小さな川だが、その源流部に自然溢れる公園が整備されている。道保川公園という。そのせせらぎと野鳥のさえずりが環境庁が1996年(平成8年)から公募して定めた「残したい“日本の音風景100選”」のひとつに選定されてもいる。湧水の湿地と河岸段丘の斜面林を生かした園内には遊歩道が設けられており、木々の緑に包まれての散策が楽しい。
メインの入口にあたる南側の入口から園内に入ると左手の池の様子に心惹かれる。池の周囲は植栽が整備され、池の中ほどには木製のデッキが延びており、庭園風の佇まいが落ち着いた印象を与えてくれる。傍らに管理事務所が置かれ、園内の案内図も置かれているので初めての人はこれを貰っておくとよいだろう。池は「水鳥の池」と名付けられている。亀や鯉などの姿もあるが、冬には鴨などの愛らしい姿が見られるのだろう。池の辺にカメラの三脚を据えて、水面に突き出た木枝にレンズを向けている人の姿があった。カワセミなども飛来するのかもしれない。

道保川公園
「水鳥の池」から北に向かって湿地が続き、その両脇に散策路が延びている。ところどころに湿地を跨ぐ橋が設けられ、また湿地に茂る葦の間を縫って辿る木道なども整備されている。湿地の周囲は木々の緑が濃く、特に東側の一帯を占める雑木の斜面林は山深い谷戸に入り込んだような錯覚さえ覚えるほどだ。それらの木々と湿地の織りなす風景は穏やかに美しく、小径を辿っての散策が楽しい。せせらぎの水は充分に澄んで、さまざまな水辺の植物の姿を見ることができる。

湿地は公園の西側の端を南北に延びているが、そこから東の斜面林の中へと大小いくつかの沢が延びている。「さえずりの沢」や「こもれびの沢」などといった名の付いたそれらの沢からさらに雑木林の中を辿る小径へと歩を進めることもできて、明るい水辺から少々薄暗い林の中へと辿る散策はそれなりの変化を伴っていて飽きない。道保川の源流とは言っても滾々と水が湧き出るというふうではない。園内の池の保持には地下水なども使われているのだろうか。

道保川公園
公園のほぼ中央部、林の中に木々に抱かれるようにして「双子沢」という場所がある。このあたりは林の直中にぽっかりと開いたような空間だ。天蓋のように木々が頭上を覆い、木漏れ日が揺れる沢の風情は少しばかり密やかな印象もあって楽しい。沢の中ほどを延びる木道を歩くと、沢の縁に石垣が組まれているのに気付く。実はここはかつてわさび田であったのだという。わさび田というと山深い清流という印象があったが、こんな身近にもあったのかと少々嬉しい驚きを感じる。わさび田がその役目を終えてからどのくらい経つのかは知らない。今では残された湿地にセリやクレソンなどが育っている。初夏には今でも蛍の姿を見ることができるというが、その蛍も水質悪化のために激減した時期があったらしい。現在では水質は多少改善されたとは言え、湧水は決して多くはなく、今後が心配されるところかもしれない。
道保川公園 上段部分
「こもれびの沢」と「双子沢」の間を東の高所へ小径が登っている。小径を辿るとやがて林を抜け出て住宅街の端へ出る。陽光台五丁目の西端の辺りだ。木立の間に遊具やベンチの置かれた一角があり、その横にはちょっとした広場もある。この場所も道保川公園の一部であるようで、公園はこの「上段」部分と斜面林や湿地から成る「下段」とによって構成されているようなのだ。「上段」部分と「下段」部分は基本的にフェンスによって隔てられている。先ほど登ってきた小径の様子が少々新しいところを見ると、この陽光台側の「下段入口」は最近になって設けられたものなのかもしれない。この上段部分は傍らの住宅街に暮らす人々にとってのちょっとした憩いの場であるのだろう。道保川公園の下段部分とは印象が異なり、その一部というより隣接する別の公園のようでもある。
道保川公園
深い雑木林と水辺から構成される道保川公園はさまざまな生き物たちの住みかでもある。野鳥のさえずりが絶えず響いているところなどは「日本の音風景100選」の名に恥じない。園内を散策している間中、どこかで遠く近くコジュケイの声が聞こえていたのが印象的だった。沢のあたりにはトンボの姿もあった。案内図に書かれた説明によれば、他にもドジョウやサワガニ、ザリガニなども観察できるという。

園内は西側の水辺に沿った「水生動植物観察ゾーン」、「さえずりの沢」の辺りの「野鳥観察ゾーン」、「こもれびの沢」の「山野草観察ゾーン」、双子沢の「森林生態観察ゾーン」に指定されていて、それぞれに特徴的な自然の有り様を観察できるようだが、散策の際にはそういった「ゾーン」をそれほど意識する必要もないだろう。気の向くままに散策を楽しみ、水辺や雑木林の魅力を肌で感じればよいようにも思える。
緑溢れる穏やかな公園ではあるが、少々残念なのは公園西側を道路が南北に抜けており、そこを走る車の音がけっこう届いてしまうことだ。この道路沿いに公園駐車場もあり、車で訪れる人も多いと思うが、自らの用いた交通手段が公園の風情を殺いでしまうというのも皮肉なことではある。それでも林の木立の中に分け入ってゆけば車の音もそれほど気にならないし、日常を忘れた穏やかさの中に身を置くことはできるだろう。
道保川公園

園内は常に美しく整備されて荒れた印象などはない。開園時間などは比較的厳しく、時間外は閉門されて利用することはできない。冬は午後4時、夏は午後7時など、暗くなる時刻には閉門だが、6月上旬から下旬にかけての蛍の時期には例外的に午後9時近くまで開園を延長する期間があるようだ。またペットを連れての入園も禁止で、さらに虫取り網や虫かごなどは入園の際に管理事務所に預けることとなっており、なかなか徹底している。園内の動植物を採取してはいけないのはこの公園に限らず当然のことだが、訪れた日に北側の水辺で何かを摘み取る女性二人連れの姿があったのは少々残念なところだ。
道保川公園

芝生の広場などや子どもたちのための遊具などは「上段」部分にわずかにあるだけだし、「ザリガニ釣り」や「虫取り」などもできないとあっては、基本的に子どもたちの遊び場としてはあまり適していないかもしれない。しかし水辺の生き物の姿などを間近に見ることができるというだけでも子どもたちには魅力的なことだろう。トイレは南側入口の管理事務所脇にあるだけだが、それほど広い公園ではないので充分だろう。駐車場は公園西側の道路脇に用意されているが、スペースは17台分と少なめだ。
道保川公園

園内には散策を楽しむ人の姿が少なくない。野鳥を狙ってか、カメラと三脚を携えている人も多いし、ベビーカーを押して散歩に来たらしい若いお母さんは近所の人なのだろう。夫婦らしい初老のカップルの姿もある。水辺の涼やかな風情はやはり初夏から夏にかけてが楽しいと思えるが、秋の紅葉や冬の野鳥観察なども良いものだろう。四季折々に訪ねて、その表情を楽しみたくなる、自然溢れるお薦めの公園だ。
道保川公園
道保川公園