横浜線沿線散歩公園探訪
横浜市中区山手町
−港の見える丘公園−
山手111番館
Visited in May 2003
山手111番館
港の見える丘公園の南端あたり、ワシン坂に面して山手111番館が建っている。山手111番館は1999年(平成11年)に公園が再整備された際、「ローズガーデン」の開園と同時に開館し、以来港の見える丘公園の新しい魅力のひとつとして観光客を集めている。
山手111番館の建物は横浜山手聖公会やベーリックホール根岸競馬場観覧席などで知られるアメリカ人建築家J.H.モ−ガンの設計によるもので、1926年(大正15年)に当時横浜で両替商を営んでいたラフィンの居宅として現在地に建築されたものだという。

J.H.モーガンは、1873年、米国ニューヨーク州の生まれで、1920年(大正9年)に日本フラー建築会社の設計技師長として来日している。来日後、フラー社を退社、自身の事務所を開設、各地に作品を残した。東京や仙台、神戸などにも彼による建物が現存するが、半数以上は横浜に建てられ、ユニオンビルディングや山手聖公会など、著名な建物は数多い。1928年(昭和3年)に自身の設計によるユニオンビルディング内に事務所を構えたモーガンは、生涯をそこで建築の仕事に携わった。1937年(昭和12年)、63歳で亡くなっている。現在、モーガンは山手の外国人墓地に眠っている。
山手111番館
建物はスパニッシュ風の外観で、その美しさは山手に残る洋館群の中でも特筆に値するのではないか。パーゴラとなった玄関ポーチ、そこに見られる三つのアーチ、ワシン坂から芝生の庭の中をまっすぐに延びるアプローチの佇まいなど、とても魅力的な風情を漂わせている。白い外壁が日の光に照らされる様子などは、南欧のリゾート地を思わせてくれる。同じモーガンによる「ベーリックホール」も同様にスパニッシュ風の意匠でリゾート地的な風情が漂うが、私邸を建築する際のモーガンの「設計思想」のようなものがあったのだろうか。

館内は往時の暮らしぶりを彷彿とさせるように復元がなされ、モーガンに関する資料の展示も行っている。玄関から入ると真っ先に目を引くのが中央部分の吹き抜けだろう。一階部分から二階部分へと吹き抜けのホールがあり、二階部分にはそれを巡る回廊が設けられている。かつてラフィンがこの館に暮らした頃には、このホールでホームパーティーなどが催されていたりしたのだろうか。その様子を思い浮かべながら館内を見てゆくのも楽しい。
山手111番館山手111番館
ワシン坂の方から見ると二階建ての建物のように見えるが、実は地階も設けられており、斜面を利用した造りの地階は裏手に回るとテラスが設けられ、正面に「ローズガーデン」を見る。地階は山手本通り沿いに店舗を構える「えの木てい」が喫茶室を設けており、のんびりとお茶を楽しみながら「ローズガーデン」を眺めて過ごすのもいい。やはりバラの咲き誇る初夏に訪れるのが良いかもしれない。
山手111番館はどちらかと言えばこぢんまりとした建物だが、その美しい外観を眺め、室内の様子に往時を偲ぶのは楽しい。室内から窓外に見える「ローズガーデン」の景色もいい。老朽化のために一般の見学者は二階への立ち入りができなかったのが少々残念だが、山手観光の「洋館巡り」の際には欠かすことのできない場所のひとつと言って差し支えないだろう。
山手111番館
山手111番館