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町田市小野路町
秋の万松寺谷戸
Visited in November 2021
秋の万松寺谷戸
秋も深まった十一月初旬、小野路に出かけた。小野路にはすでに何度も訪れたことがあるが、この数年は訪れる機会に恵まれなかった。久しぶりに小野路の里山風景の中を歩きたいと思って出かけたのだった。爽やかに晴れた秋空の下、万松寺谷戸をのんびりと歩いてみたい。
秋の万松寺谷戸
まず2013年(平成25年)に開館した「小野路宿里山交流館」に立ち寄っていこう。「小野路宿里山交流館」が開館したのは知っていたし、交流館の前を車で通り抜けることもあったのだが、ついつい訪れる機会を逸していた。

「小野路宿里山交流館」は町田市による施設で、小野路の観光交流の拠点として設けられたものだ。かつて小野路宿にあった旅籠「角屋(かどや)」を改修、整備して活用したものという。館内では地元物産の販売や軽食の提供などが行われている。この日は土曜日ということもあってか、交流館を訪れる人も少なくなかった。
秋の万松寺谷戸
「小野路宿里山交流館」の隣には小野神社が建っている。小野神社にも立ち寄り、今日の散策の無事を祈願していこう。

小野神社は小野篁(おののたかむら)を祀った神社だ。天禄年間(972年頃)に武蔵の国司として赴任した小野孝泰が建立したものという。

小野篁は平安時代初期の公卿(国政を担う役人のこと)だが、書や詩歌に優れ、歌人としてもよく知られている。少しばかり謎めいたところもあって、昼は朝廷に仕え、夜は冥府で閻魔大王の補佐をしていたいう伝説が残っている。冥府との往還には井戸を使っていたそうである。どうしたことから篁の冥界往還伝説が生まれたのか、興味を覚えるところだ。
秋の万松寺谷戸
小野神社への参拝を済ませたら万松寺谷戸へと歩を進めよう。小野神社の脇から三本の道が谷戸の奥へと延びている。どの道を選んでも万松寺谷戸へと続いているが、今回はいちばん右手、丘の斜面を辿る道を進んで行こう。

道は舗装路だが、車一台がようやく通れるほどの幅しかない。150mほど進むと左手に逸れる細道がある。左に逸れる道へ進んでいこう。道はさらに細道で、丘の斜面を辿っている。右手には鬱蒼と木々が茂り、左手には木々の隅間から丘裾に並ぶ家々が見えている。

秋の万松寺谷戸
少し進むと道の右手に六地蔵が祀られている(実際には七体のお地蔵様が佇んでいらっしゃる)。この道が昔から人々の往来のあった道だということだろう。お地蔵様の横にはいくつもの石碑が並んでいる。刻まれた文字が判読できないが、庚申塔や馬頭観音だろうか。おそらく近隣に散在していたものをここに集約して祀ったものだろう。

六地蔵を過ぎて坂となった道を降りてゆくと、また左手に逸れて下りる道がある。真っ直ぐに進めば万松寺だ。左へ逸れて下りていこう。丘裾の道へ下りて万松寺の横を過ぎると視界が開けて、眼前に美しい里山風景が広がる。万松寺谷戸である。
秋の万松寺谷戸
万松寺谷戸はすでに「図師小野路歴史環境保全地域」の地域内である。「図師小野路歴史環境保全地域」は「東京のおける自然の保護と回復に関する条例」によって指定されているもので、万松寺谷戸から小野路城跡、さらに図師町の神明谷戸や五反田谷戸、白山谷戸の辺りにかけてが地域内になっている。歴史的遺産と良好な自然が残されていることから指定されたもので、指定面積は約37haに及ぶ(そのうち公有地は約24ha)。

秋の万松寺谷戸
この「図師小野路歴史環境保全地域」とその周辺地域は「にほんの里100選」のひとつである。「にほんの里100選」は朝日新聞社と公益財団法人森林文化協会の主催によって2008年(平成20年)に選定、2009年(平成21年)初頭に発表されたもので、“人の営みが育んだすこやかで美しい里”を全国から100ヶ所選定したものだ。東京都で選定されているのは、唯一「小野路」だけである。

秋の万松寺谷戸
万松寺谷戸も秋の表情である。ススキが風に揺れ、丘の木々には早い紅葉が混じり、谷戸の一角では柿が実っている。車の音もここまでは届かず、ときおり鳥の声が聞こえるばかりで辺りは穏やかな静かさに満ちている。

秋の風情を楽しみながら谷戸を巡る。里山と谷戸の織り成す風景は場所によってさまざまに表情を変え、どれほど眺めても飽きることがない。じっくりと時間をかけて谷戸の風景を堪能していこう。

万松寺谷戸散策を楽しんだ後は再び「小野路宿里山交流館」に戻り、遅い昼食を済ませ、地場産の野菜などを購入して帰路を辿ることにしたい。
秋の万松寺谷戸
万松寺谷戸を訪れたのは久しぶりだった。以前の風景が変わらず残っていることが嬉しい。この地域は昔ながらの自然を残し、貴重な動植物の姿も見られるようだが、そうした希少生物の写真をSNSに載せると盗掘や土地が荒らされたりする懸念もあり、「SNSに載せないで!」と協力をお願いする掲示が設けられていた。また自然保護の観点から「図師小野路歴史環境保全地域」へのマウンテンバイクの乗り入れも禁止である。そしてまた、言うまでもないことだが、私有地(営農地)への立ち入りや地元の方々のご迷惑になるような行為は厳に慎みたい。訪れる際には充分にマナーを守って、この美しい風景を残していきたいものである。
秋の万松寺谷戸
秋の万松寺谷戸
秋の万松寺谷戸