横浜線沿線散歩街角散歩
横浜市緑区
十日市場からいぶき野へ
October 1999
北門踏切近く
JR横浜線の十日市場駅と長津田駅との間、国道246号線と東名高速とに挟まる形でいぶき野の街がある。横浜線の線路の両脇に広がる静かな住宅街だが、北側の恩田川河畔には水田も広がっている。JR横浜線を十日市場駅で降り、十日市場町からいぶき野にかけての恩田川の南側を歩いてみた。
十日市場町
十日市場駅の位置するあたりは恩田川流域の平地からは一段高い台地となっている。十日市場駅を北口に降りて少しばかり歩くと北に視界が開けて、眼下に恩田川流域の水田地帯が一望できる。特に東方の小山町のあたりはのどかな田園の風景が残っていて景観としても美しいものだ。この恩田川流域の水田地帯は十日市場町の北方を経てさらに上流まで繋がっているのだが、現在は東名高速と環状4号という二本の広い道路によって無粋に分断されている。

十日市場駅の周辺、特に駅の南側の一体は現在は整然と整備され、高層の住宅や大型店舗なども建ってしまったが、北へと向かって東名高速の北側へと回り込むと、印象はがらりと変わってのどかな風景が残っている。恩田川の対岸はしらとり台で、青葉台あたりから連なる住宅街の風景が迫っているが、恩田川流域だけは今でも水田を中心とした農耕地帯としての風情を残しているのだ。

北門踏切
特に東名高速と横浜線とに囲まれたように残った一角は昔ながらの谷戸の雰囲気さえ今に保っている。この一角は南を東名高速と横浜線とに閉ざされているように見えるのだが、実は西に奥まったところで小さな踏切が横浜線を越えている。「北門踏切」という。「北門」は「ぼっかど」と読む。雑木林の丘を横浜線が抜けて行くあたり、線路に沿って林に中に分け入ってゆく小径があるが、この先がこの踏切で、踏切を越えると小径は引き返すように線路の向こう側を東に降りて行く。もちろん車輌の通行のできない狭い道と踏切だが、利用する人は意外に少なくないようで、自転車を押しながらここを通り抜ける人の姿を幾度となく見る。

北門付近
「北門」は古くからのこの谷戸あたりの地名であったという。東名高速の北側の谷戸、横浜線の南側の低地部分がその中心であったようで、古くから「北門村」として栄えていた地域であったらしい。現在は十日市場町の中に組み込まれてしまっているが、かつては十日市場とは異なる独立した地域として「北門」は存在しており、現在でも「十日市場」と「北門」とを呼び分ける人もいるのだという。「北門」という地名はまさに何かの由来がありそうだが、榎下城の北門があったというのが通説となっているものの、諸説あって定かではないらしい。「北門」からいぶき野へと通じる道路の途中、「泣き坂」と呼ばれる坂がある。これもさまざまに由来が伝えられているようだが、その名の印象が示すようになかなかに悲しい歴史がその背景にあるのだろう。
国道246号
いぶき野は北門の谷戸から再び登って台地となり、北側では恩田川とその流域の水田地帯を見下ろしている。恩田川を見下ろす視線を西に向けると、恩田川の支流の岩川が南西の方角へ延びており、その向こうに国道246号線が走っている。国道246号線は青葉台方面の丘陵から降りてきて、恩田川を越え、水田地帯を横切り、再び長津田方面の丘陵へと登ってゆく。別名を厚木街道といい、「にいよんろく」と通称している。この片側二車線の国道は交通量も多く、その存在は恩田川流域の水田地帯を完全に分断している。

国道246号線は長津田といぶき野の境に当たり、道路の向こう側は「長津田一丁目」などといった住所が振り当てられている。そもそもいぶき野はかつては長津田の一部だったのだが、昭和40年代の土地区画整理事業に伴って長津田から分離独立して「いぶき野」となったものだ。いぶき野を歩いてみると植木業を営む業者が多いことに気付くが、植木の「息吹き」が町名の由来のひとつになったのだという。

いぶき野は台地を造成して造られた住宅街といった風情で、その住宅街の真ん中を横浜線の線路が抜けている。それと平行して長津田方面と十日市場方面を繋ぐ道路も抜けていて、この道路沿いには商店なども並ぶ。十日市場駅からも長津田駅からも距離はそれほど変わらないように思えるが、十日市場駅とは東名高速道路によって、長津田駅とは国道246号線によって隔てられ、両者の生活圏からもなんとなく隔てられているような気がするのだが、実際にこの町に暮らしている人々の思いはどうなのだろうか。
いぶき野にて
いぶき野は、その地形から言って、「北門」の谷戸と岩川沿いの谷戸とに挟まれて、南部に広がる丘陵が恩田川流域に張り出した北端だったのだろう。かつては肥沃な恩田川流域の水田地帯を控えて、谷戸と里山とが織りなすのどかな風景が広がっていたのだろうが、今は岩川沿いにわずかに残る雑木の木立などにその名残を見ることができるだけだ。
いぶき野にて