神奈川県秦野市の西部を四十八瀬川という川が流れている。河畔には長閑な里山風景が広がり、散策の楽しいところだ。初秋には彼岸花が鮮やかに咲く。彼岸花が見頃の九月下旬、四十八瀬川を訪ねた。
初秋の四十八瀬川
四十八瀬川は丹沢山系の鍋割山に源を発し、秦野盆地の西部を北から南へ流れ、秦野市の南西端で中津川と合流、川音川と名を変えて松田町南部を抜けて南西へ向かい、酒匂川に注ぐ、酒匂川水系の河川である。四十八もの瀬があるというのでこの名があるが、要するに数多くの瀬があるということだ。そのことからも平地を蕩々と流れる河川ではなく、山間の谷をいくつもの瀬を成して流れ落ちてゆく川であることがわかる。
初秋の四十八瀬川
四十八瀬川の河畔には長閑な里山風景が広がり、特に国道246号が四十八瀬川を跨ぐ辺りから上流部は河岸に小径が沿っており、川の流れと河畔の風景を楽しみながら散策することができる。四十八瀬川河岸は彼岸花の名所としても知られ、初秋には河畔の風景を鮮やかに彼岸花が彩る。初秋の散策コースとしてお勧めのところだと言っていい。
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
小田急小田原線渋沢駅北口から国道246号へ出て、西へ1kmと少し、「沼代」交差点を過ぎた辺りで右手(北)へ逸れて坂道を降りてゆけば四十八瀬川の河岸に出ることができる。四十八瀬川を跨いで道路を渡すのは「甘柿橋」、この甘柿橋から北へ、四十八瀬川の河岸を初秋には彼岸花が彩る。秦野市の花の名所のひとつに数えられるところだ。河畔には長閑な里山風景が広がり、視線を上げて北を見れば丹沢の山々の稜線が空に浮かぶ。
初秋の四十八瀬川
甘柿橋の袂から四十八瀬川の左岸(東側)を上流へ向けて辿ってゆく。河岸にはわずかな平地を利用して小さな水田が並んでいる。その畦道などに彼岸花が咲いている。“圧倒的な景観”というほどではないが、鮮やかな紅い色が風景にアクセントを添え、黄金に実った稲穂とのコントラストが初秋の興趣を漂わせる。
初秋の四十八瀬川
左手には四十八瀬川の流れが見え隠れする。河床には随所に段差が設けられており、小さな滝を成している。その様子が涼やかだ。四十八瀬川は、その名の通り、ほぼすべてが“瀬”で、“淵”を成しているところは見当たらない。河岸の堤防道はときおり視界が開けたり、川の近くまで張り出した斜面の横を抜けたりしながら続いてゆく。堤防道でスケッチを楽しむ人の姿もある。
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
さらに上流側へと辿ってゆくと、少し視界が開け、比較的広い水田が横たわるところもある。緑の木々に囲まれて横たわる水田と、畦道に紅い帯を引く彼岸花、遠く見える丹沢の山々が美しい風景を織り成している。

やがて「戈戸(さいど)橋」、甘柿橋から堤防道を約1.5km、その間、四十八瀬川に橋は無い。戈戸橋から上流側へも左岸の堤防道は続く。少し辿ってみよう。上流側にも河岸には水田が並び、穏やかな田園風景が広がっている。途中、四十八瀬川の河原に降りて行けるところがある。ここでも河床に設けられた段差によって小さな滝が生じ、初秋の青空の下に涼やかな水景を見せている。戈戸橋から1kmほど上流側に辿ったところで、河岸の水田風景も終わりだ。戈戸橋へと戻ることにしよう。
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
戈戸橋からの帰路は四十八瀬川の河岸を離れ、左岸の段丘上の道を辿ることにしよう。戈戸橋から東へ、段丘崖を斜めに道が上ってゆく。途中で振り返ると、四十八瀬川河畔の風景の向こうに丹沢の山々が重畳する。美しい風景だ。戈戸橋から400mほどで十字路に差し掛かる。この十字路を右に折れれば、その先、道はほぼ真っ直ぐに南に降りて国道246号の「沼代」交差点に至っている。この道を辿ってゆく。
初秋の四十八瀬川
道脇には小さな社が祀られていたり、お地蔵様が祀られていたり、あるいは昔からここにあったらしい農家の塀が続いていたり、この道が昔からの街道筋であったことを窺い知ることができる。新しい住宅なども建っているが、畑地なども残り、長閑な風景だ。自治会の掲示板とゴミ集積所が並ぶ光景さえも何だか風趣に富んでいる。
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
途中、桂林寺という寺がある。この桂林寺の森は秦野市随一の椎の森だそうで、「天然記念物 桂林寺の椎群」として秦野市指定重要文化財となっている。四十八瀬川両岸の寺社、民家には数多くの椎の巨木があるそうだが、桂林寺ほどの多くの巨木が見られるところは少ないとのことだ。樹木に興味のある人なら見学していくといい。

道は緩やかに下ってゆく。道を辿りながら振り返れば、緑濃い風景の向こうに丹沢の峰々がくっきりと稜線を描いている。景勝地でも観光地でもないが、素晴らしい風景である。
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
四十八瀬川は初秋の彼岸花が美しく、秦野市の花の名所として数えられているが、彼岸花を目当てに訪れると少しもの足りなさを感じるかもしれない。初秋の四十八瀬川の魅力は長閑で美しい里山の風景と清流と言っていい四十八瀬川の流れ、そこに彩りを加える彼岸花とが織り成す景観の興趣にあるのであって、彼岸花の群生だけが特筆されるようなものではない。しかしだからと言って決して魅力に劣るわけではない。里山散歩の好きな人なら期待以上に満足できるところだ。

今回(2017年9月)は、渋沢駅から四十八瀬川の河岸へ降りて河岸を上流側へと辿り、戈戸橋から段丘上の道を帰路に選んだが、河岸の道を往復してもいいし、往路に段丘上、帰路に河岸を選んでもいい。彼岸花の咲く風景は充分に美しいが、河畔に広がる田園風景そのものが美しい。道脇に残る古い時代の名残を探しながらの散策も楽しい。春の新緑の頃や秋の紅葉の頃も美しい風景が楽しめるだろう。お勧めの散策路である。
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
初秋の四十八瀬川
四十八瀬川の散策に訪れる時の最寄り駅は小田急小田原線渋沢駅だ。それほど大きな駅ではないが、駅前にはペデストリアンデッキが設けられ、そこからは丹沢の山々が見渡せる。その眺望も楽しんでおくといい。

ところで、この渋沢駅、かつてZARDの坂井泉水が利用していた駅だという。坂井泉水は本名を蒲池幸子といい、平塚市に生まれ、小学4年の頃から秦野市に暮らした。高校、大学の通学時、さらにZARDのヴォーカルとしてデビュー後もしばらくの間は渋沢駅から六本木のスタジオに通っていたのだという。この縁で、ZARDの楽曲の列車接近メロディ、いわゆる「駅メロ」使用が、2014年(平成26年)に実現した。上りホームでは「負けないで」が、下りホームでは「揺れる想い」が、駅メロとして採用されている。駅メロの放送開始は2014年(平成26年)12月23日のことで、同日、渋沢駅構内と駅周辺に於いて記念式典とイベントが開催されたようだ。

坂井泉水は2007年(平成19年)に亡くなったが、彼女の歌声を愛するファンは今も少なくない。駅メロとなった「負けないで」を聞いていると、在りし日の坂井泉水の歌声が思い出される。ZARDファンなら絶対に訪れたい駅である。
参考情報
交通
四十八瀬川は小田急小田原線渋沢駅が最寄りだ。駅北口から西へ国道246号を経由、約1.5kmほどで河岸に着く。徒歩で25分ほどだ。

車で訪れる場合は渋沢駅周辺に点在する時間貸し駐車場を利用すればいい。国道246号の「渋沢駅入口」を目指せば迷うことはない。遠方から訪れる際には東名高速道を利用、秦野中井ICや大井松田ICから国道246号を経由して渋沢駅を目指すのがわかりやすい。

飲食
数は多くはないが、渋沢駅周辺にファーストフード店や飲食店がある。

お弁当持参の場合、河岸にお弁当を広げられる場所を見つけることも不可能ではない。その際はレジャーシートも忘れずに持って行こう。

周辺
四十八瀬川の河岸からさらに北に足を延ばせば県立秦野戸川公園がある。50ha超の面積を有する広大な公園だ。余裕があればぜひ訪ねたみたい。

秦野市は“湧水の里”としても知られ、市内各所に湧水がある。近くの湧水に足を延ばしてみるのもお勧めだ。
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