神奈川県横須賀市の横須賀しょうぶ園は全国でも屈指の規模を誇る花菖蒲園だ。長閑な里山風景に包まれた菖蒲田に14万株の花菖蒲が咲き誇り、圧巻の景観を見せてくれる。花菖蒲が盛りを迎えた六月中旬、横須賀しょうぶ園を訪ねた。
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園
横須賀市の中央部に近く、三浦丘陵に包まれるような立地に「横須賀しょうぶ園」がある。7,000uの菖蒲田に400種超、14万株の花菖蒲が育てられ、全国でも屈指の規模だという。花菖蒲の栽培は江戸時代に隆盛を見せ、江戸系、肥後系、伊勢系の三系統の品種群が成立しているが、横須賀しょうぶ園ではそのすべてが育てられ、毎年多くの観賞客を迎えている。

横須賀しょうぶ園は“しょうぶ園”として整備される以前には水田だったのだろうか。小さな尾根に挟まれた、いわゆる「谷戸」の地形を活かした菖蒲田の様相は、かつては“谷戸田”であったことを窺わせるものだ。横須賀しょうぶ園は、二筋の谷戸と、その間に横たわる小さな尾根とで構成された形だ。エントランスに面した北東側には住宅地が広がっているものの、北側から東側にかけてしょうぶ園の周囲は緑濃い丘陵に囲まれ、園内に入ればひととき町の喧噪を忘れて花菖蒲観賞を楽しむことができる。
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園は住宅地に面した北東側にエントランスが設けられ、その横手には管理棟が建っている。管理棟の中には展示室や休憩室、レストラン、売店などもあり、来園者の休憩所の役割も担っている。管理棟の前には小さな尾根筋が迫り、菖蒲田はその尾根筋の北側と南側とに分かれて配置されている。

北側の谷戸を利用した菖蒲田は南側に比べれば少し小さいが、水車小屋や八ッ橋などをうまく配して風情のある造りになっている。水車小屋と花菖蒲との取り合わせはたいへんに風情のある風景だ。南側の谷戸を利用した菖蒲田は広々としており、その広さをうまく活かした造りだ。菖蒲田の周囲には散策路が巡り、菖蒲田を横切って木道が渡され、菖蒲田のさまざまな表情を楽しむことができる。菖蒲田を囲む丘裾の風景も美しい。谷戸は奥になるほど少し高みとなっており、奥まったところから眺めれば菖蒲田を見下ろすような景観が楽しめるのもいい。園内随所に植えられた柳の樹形も菖蒲田の風景をより風情あるものにしてくれる。園内中央部の尾根にも散策路が辿っており、そこを歩けば木々の間から眼下に菖蒲田が見え隠れする。その眺めも興趣のあるものだ。菖蒲田の中では菅笠に紺絣を纏った係の女性が花殻摘みの作業を行っており、その姿もたいへんにフォトジェニックだ。園内を巡っていると、さまざまに美しい風景に出会い、飽きることがない。
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園はその規模の大きさも魅力だが、緑濃い里山風景に囲まれた立地が何しろ素晴らしい。長閑な風景の中に咲き誇る花菖蒲の姿は良い風情に富み、格別の味わいがある。花菖蒲の花そのものももちろん美しいものだが、横須賀しょうぶ園の景観は“花菖蒲の咲く風景”としても充分に観賞に値する。園内の散策を楽しむときには品種毎の花菖蒲のそれぞれを観賞しつつ、ときには視線を上げて田園風景を彷彿とさせるような風景も堪能しておきたい。園内には随所にベンチや四阿が設けられている。足早に園内を巡るのではなく、ひとときベンチに腰を降ろしてのんびりとしょうぶ園の風景を眺めて過ごすのもいい。ゆったりとした気分で園内散策を楽しむのがお勧めだ。
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園
花菖蒲が見頃を迎える六月、園内では紫陽花も開花期を迎える。紫陽花はそれほど数が多いわけではないが、菖蒲田の周囲を巡る散策路脇や尾根筋を辿る散策路脇など、園内随所に植えられており、美しい姿を見せてくれる。水車小屋の背後も紫陽花が植え込まれ、水車小屋と紫陽花との組み合わせが良い風情を醸している。今回訪れたときは紫陽花はまだ満開という状態ではなかったが、うまく時期が合えば花菖蒲と紫陽花と双方が咲き揃う風景を楽しむことができるだろう。

また横須賀しょうぶ園内には「ふじ苑」や「しゃくなげ苑」、「バラ苑」も設けられている。また丘の斜面には1500本のクリスマスローズが植えられ、さらに初秋には1500株の彼岸花が花を咲かせるという。それらの花々の見頃の時期にもぜひ訪れてみたいものだ。
横須賀しょうぶ園
横須賀しょうぶ園
花菖蒲は五月の下旬から開花が始まるが、やはり見頃は六月で、横須賀しょうぶ園でも六月の1日から30日まで「花しょうぶまつり」が開催されて大いに賑わう。管理棟の売店では横須賀の物産を販売している他、ソフトクリームも販売しており、これがなかなかの人気を集めていた。管理棟前では各種の花の苗を販売するコーナーが設けられ、足を止めて見入る人も少なくなかった。

今回は時間を設けて平日に訪れたのだが、それでも来園者は多かった。観光バスで訪れる団体もあるようで、“花菖蒲の名所”としての横須賀しょうぶ園の知名度の高さが窺える。園内は広いから来園者でごったがえすという印象ではなかったが、駐車場は入場待ちを強いられ、レストランも混み合っており、お昼時を過ぎても何組もの人たちが席が空くのを待っている状態だった。土曜日、日曜日になればさらに来園者が多く、園内も混み合うことだろう。余裕を持っての来園をお勧めする。
参考情報
横須賀しょうぶ園は入園料が必要だ。ペット連れの入園はできない。自転車などの持ち込みも禁止だ。管理棟の休憩室と展示室は通常は使用料が必要だが、4月から6月にかけては無料で開放されるとのことだ。入園料、開園日、開園時間、管理棟の使用方法、その他入園に関しての注意事項は横須賀しょうぶ園公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
横須賀しょうぶ園へは京浜急行汐入駅から「池上経由衣笠駅行き」バスを利用し、「池上中学校」バス停で下車、徒歩で15分ほど、またはJR横須賀線衣笠駅から「しょうぶ園行き」バスを利用し、「しょうぶ園」バス停で下車するといい。また花菖蒲の花期である6月には京浜急行汐入駅から直行バスが運行されるようだ。バス便についての詳細は京急バスのサイトなどを参照されたい。

車で来訪する場合は横浜横須賀道路を利用し、横須賀ICで降りるのがわかりやすい。ICを降りた後、一般道を南下、2kmほど行くと「しょうぶ園前」交差点があり、そこを西側に右折すれば横須賀しょうぶ園だ。一般道を利用して横須賀市街や葉山方面から来ることももちろん可能だが、ある程度の土地勘がないとルートがわかりにくいかもしれない。予め地図をよく確認しておいたり、ナビを利用することをお勧めする。また花菖蒲の花期には来園者が多く、「しょうぶ園前」交差点では南側から左折で入ろうとする車が並んでいることが少なくないようなので注意が必要だ。

横須賀しょうぶ園には来訪者用の駐車場が用意されており、90台分ほどの駐車スペースがあるということだが、決して充分とは言えず、当然のことながら花菖蒲の花期には平日でも満車状態が続き、入場待ちを強いられる。また4月から6月は有料期間とのことで、駐車料金が必要となる。駐車料金についても横須賀しょうぶ園公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

飲食
園内の管理棟にレストランがあり、食事は可能だが、花菖蒲の花期には来園者が多く、お昼時には満席状態が続く。

横須賀しょうぶ園は一般の公園とは違い、芝生の広場などはないので、お弁当を広げる場合には園内随所に設けられたベンチや四阿などを利用しなくてはならない。特にシートを敷くことが禁止されているわけではないようなので、シートを持参すれば脇の方に場所を見つけてお弁当を広げることもできるだろう。お弁当持参での来園もお勧めだ。

横須賀しょうぶ園の周辺には住宅地があるだけで、飲食店などはないようだ。衣笠駅周辺を中心に県道27号沿いには飲食店が点在しているから、車で来訪した際には移動するといい。もちろん横須賀市街地へ行けば、さまざまな飲食店がある。

周辺
横須賀しょうぶ園の近くにはこれといって“観光名所”のようなものはない。横須賀しょうぶ園でのひとときを楽しんだ後は横須賀市街地へ移動し、ヴェルニー公園や三笠公園などを巡って港の風情を味わったり、町歩きを楽しんだりするといい。車で訪れたなら葉山方面から三浦方面など、ドライヴを楽しむのもいい。
花菖蒲散歩
神奈川散歩