埼玉県東松山市の南西部に位置する岩殿地区の西部、丘陵地の一角に美しい樹林地が残されている。樹林地は「市民の森」として保全され、市民の憩いの場として活用されている。「市民の森」は面積約32ha、南には鳩山町の「石坂の森」が隣接し、両者を合わせて広大な樹林地を成している。周辺にはゴルフコースも多く、その中に残された貴重な樹林地と言っていい。「市民の森」の中は比較的広い散策路が辿り、四阿なども設けられ、気軽に自然に親しむ場として整備されている。気軽なハイキングなどにも好適な樹林地だ。
「市民の森」は昔ながらの武蔵野の面影を残す雑木林を中心にした樹林地で、その中を縫うように尾根筋や谷戸を辿って散策路が巡っている。樹林は大いに木々が茂っているが、散策路がきれいに整備されているからか、比較的明るい印象だ。樹林地内はもちろん高低差はあるが、急坂などはなく、不安無く散策を楽しむことができる。
樹林地を構成するのはコナラやクヌギといった落葉樹が中心だが、アカマツやテーダマツの林もあり、単調になりがちな雑木林の景観に違った表情を与えている。そのせいか、武蔵野地域の典型的な里山風景とは少し違う印象もあって楽しい。
「市民の森」の西側に「見晴らし台」が設けられている。「見晴らし台」は標高100mほどか。「市民の森」の中で最も高所というわけではないが、北側に視界が開けて爽快な眺望が楽しめる。眼下にはゴルフコースを見下ろし、その向こうに広々とした風景が横たわる。うっすらと見える町並みは東松山市西部から滑川町南部の辺りか。空の広さを実感する眺望である。
「市民の森」の中央部を貫く散策路を北へ降りていった先に「入山沼」という小さな池がある。谷戸の奥まったところに設けられた、水田耕作用の溜池である。景観としてはそれほど美しい池ではないが、樹林に包まれるようにひっそりと横たわる様子が良い風情を漂わせている。「入山沼」の南東側には谷戸が延びて、谷津田の風景を見ることもできる。足を延ばしてみるのも悪くない。
樹林の中を辿る散策路脇にはベンチや四阿も設けられているから、散策途中の一休みにも便利だ。木漏れ日や野鳥の声を楽しみながら、のんびりと静かな時間を過ごすのも楽しい。お弁当持参なら樹林の中でのランチタイムもお勧めだ。気軽にピクニック感覚で訪れても充分に楽しめる「市民の森」である。
「市民の森」の南側には鳩山町の「石坂の森」が隣接している。両者は基本的にひとつの丘で、それを両者で分け合っているような形だ。「石坂の森」は東松山市民の森よりさらに自然のままに保全され、山道のような小径を辿れば野趣溢れる雑木林散歩が楽しめる。双方を合わせて散策を楽しむのがお勧めだ。