埼玉県伊奈町の北部に町制施行記念公園が設けられている。野球場なども置かれた広い公園だが、園内には埼玉県内最大というバラ園がある。バラの花が見頃の六月初め、伊奈町制施行記念公園を訪ねた。
埼玉県伊奈町は北足立郡に属する自治体だ。1875年(明治8年)に小室宿村、別所村、本村、丸山村、小貝戸村、柄山村、中荻村、柴村が合併して発足した小室村と、1889年(明治22年)に大針村、羽貫村、小針新宿村、小針内宿村が合併して発足した小針村とが、1943年(昭和18年)に合併して伊奈村が発足、1970年(昭和45年)に町制が施行され、伊奈町が誕生した。
伊奈町制施行記念公園は、その名が示すように伊奈町の町制施行を記念して造られた公園であるらしい。開園したのは1973年(昭和48年)のことという。公園は10haほどの面積を有し、その中に二面の野球場やテニスコート、広場、バラ園、アジサイ園、遊具を設けた広場、キャンプ場、林地などを設けている。
公園は道路によって南北に分断されており(ちなみに公園を分断する道路は現在は車両の通り抜けはできず、公園駐車場へのアプローチとして機能しているだけのようだ)、北側には二面の野球場とテニスコート、多目的広場、バラ園の一部などが設けられ、南側にはバラ園、アジサイ園、遊具を設けた広場、キャンプ場、林地などが置かれているという構成だ。北側にはスポーツの場として、南側は憩いの場として、その役割が与えられているのだろう。
北側の区域は少しばかり整備が行き届いていない印象を受けるのが残念だが、南側の区域は端正に整えられ、のんびりと散策するのも楽しい。“公園”としては特筆するような設備を有しているわけではないが、バラ園は見事で、その規模は埼玉県内最大という。バラは伊奈町の“町の花”である。
伊奈町制施行記念公園のバラ園は規模が大きく、「バラの名所」として広く知られている。バラ園は公園の南西側、公園を分断する道路を跨いで三つの区画から構成されている。全区画を合わせたバラ園全体の面積は1.2haほど、その中に約300種、4500株を超えるバラが植栽されている(2013年現在)。その規模は埼玉県内最大という。バラが“伊奈町の花”であることもあってか、町でもこのバラ園の整備改修には注力しているようで、2008年秋から2009年春にかけて大改修が行われて現在の姿になったものという。
伊奈町制施行記念公園のバラ園は継続的に規模が拡大されているようで、2019年5月現在、400種、5000株である。
バラ園は特に“庭園美”にこだわって造られているわけではないようだが、基本的に幾何学的デザインの西洋庭園風に整備されており、端正で美しい景観を見せている。バラは花壇を設けて植栽され、ところどころにバラのアーチが設けられて景観にアクセントを添える。花壇の間を辿る園路を巡れば、バラの花を間近に存分に観賞することができ、場所によって表情を変えるバラ園の景観に飽きることがない。園内には随所にベンチや四阿が設けられており、腰を降ろしてひとときゆったりとバラの咲く景観を楽しむのもお勧めだ。
バラ園を構成する三つの区画は、特に区画毎に特徴を持たせてあるわけではないようだが、微妙に表情の違いがある。南東側の「第1バラ園」は渦巻き状の園路を設けた花壇が設置されるなど、曲線を基調にデザインされており、南西側の「第2バラ園」は中央部に噴水を設置し、フランス式庭園風に造られている。北側の「第3バラ園」も直線を基調にしたデザインだが、すぐ脇に「バラまつり」の本部が置かれていることもあって、バラ園全体の導入部のような役割だろう。その印象の違いを感じながら観賞してゆくのも楽しい。
今回訪れたのは6月初めの土曜日、開催中の「バラまつり」もそろそろ終わりに近く、バラの花も最盛期を過ぎようとしている時期だったが、それでも園内に咲き誇るさまざまな品種のバラは見事なものだった。週末とあって来園者も多く賑わっていた。「第3バラ園」脇の駐車場は「イベント広場」となり。露店が設営されている。軽食や地元物産の販売などを行う露店が並び、立ち寄る来園者の姿も少なくなかった。お昼頃、「第2バラ園」の噴水前の広場で催された伊奈学園高等学校吹奏楽部による演奏会を見ることができた。伊奈学園高等学校吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクールで金賞を10回受賞しているそうだ。確かに見事な演奏で、来園者から盛大な拍手が贈られていた。
「バラまつり」は2003年(平成15年)から開催され(その以前は「バラの集い」というイベントが行われていたそうだ)、2005年(平成17年)から「バラまつり」開催中のバラ園が有料化されたものという。「バラまつり」開催中の週末にはさまざまなイベントが開催されるようで、バラの花とともにそうした催し物を楽しむのもよいものだろう。
バラ園の南東側には「アジサイ園」が設けられている。樹林地の中に散策路を通し、散策路に沿って紫陽花を植栽したもののようだ。それほど規模の大きなものではないが、しっとりとした風情がいい。訪れた6月初め、そろそろ紫陽花が咲き始めていた。花の盛りには美しい景観となることだろう。
アジサイ園の東側には湿地が横たわっている。湿地とは言っても基本的にはハンノキの林で、木立を縫って木道が辿り、途中には四阿も設置されている。「バラまつり」のリーフレットに記載された園内マップには「自然の池」と記載されており、公園として整備される以前からの湿地だったようだ。訪れたときにはほとんど水はなく、“池”というより、まさに林の中の湿地という様相だった。
数は少ないながら、湿地の一角に花菖蒲の咲く姿があった。かつて伊奈町制施行記念公園内には「あやめ園」もあったそうだが、残念ながら今はなく、跡地は今は使われていないようだ。
湿地の東側は「水辺の広場」と名付けられた一角で、その名のように人工的な水路と池が設けられ、子どもたちの水遊び場として親しまれているようだ。南側に設けられた噴出口から浅い水路を辿って水が流れ、北側に設けられた円形の池に注いでいる構成だ。水路はそれほど凝った造形ではないものの、自然の小川を模した造りになっている。訪れたときにも水遊びを楽しむ子どもたちの姿があった。初夏から夏にかけて、子どもたちにとって魅力的な遊び場であることだろう。
「水辺の広場」の北側の池の西側に、小さな丘を設けて大きなモニュメントが設置されている。「風の舞奏」というタイトルの作品で、伊奈町の町制施行20周年を記念して1991年(平成3年)に設置されたものという。曲面を複雑に組み合わせた造形は、そのタイトルのように風の動きや音を表現したものか。鏡面仕上げになった表面は周囲の色彩を映し込んで独特の存在感を放っている。このモニュメントは伊奈町制施行記念公園のシンボルであり、ここが公園の中心と言うことができるだろう。
「風の舞奏」の西側、湿地の北側に当たる区域には種々の遊具が配され、子どもたちの遊び場という位置付けのようだ。設置されている遊具は滑り台やブランコなどの一般的なもので、それほど特殊なものはないが、恐竜を象った遊具は他であまり見たことのないユニークなものだ。
「水辺の広場」の東側には樹林地が広がっている。樹林地にはかつてフィールドアスレチック施設が設けられていたそうだが、老朽化のために段階的に撤去され、今はまったく残っていない。その代わりというわけでもないのだろうが、「水辺の広場」の池のすぐ東側にはカラフルな塗装の施された複合遊具が設置されている。樹林地そのものは整備が行き届いている印象で、下草や低木がないために木々が茂りながらも明るい印象がある。樹林地と言うよりは、木々の茂った広場というのが相応しいかもしれない。
「風の舞奏」のモニュメントを中心にした「水辺の広場」の周辺は、憩いの場として、そしてまた子どもたちの遊び場としての役割を持ち、伊奈町制施行記念公園に於いて“公園”としての本来の目的を果たす一角と言っていい。木立に包まれた穏やかな空気感に満ちており、のんびりと散策するにもよいところだ。
公園内の南東側の端部には、樹林地に囲まれてキャンプ場が設けられている。かまどや洗い場、テーブルなどが設置され、中央部分にはキャンプファイヤー用の設備も準備されている。訪れたとき、バーベキューを楽しむ数組のグループの姿があった。市街地の喧噪から離れ、木立に包まれてのバーベキューは素敵なひとときに違いない。
伊奈町制施行記念公園そのものは当然のことながら町民の利用を前提に造られた公園と言ってよく、遠方から来園者を招くような行楽地的性格を持った公園ではない。その中に設けられたバラ園が「バラの名所」として広く知られ、バラの見頃の時期には県内外から大勢の来園者を迎えて賑わう。バラを目当てに訪れた人のほとんどはバラを観賞し終えるとそそくさと公園を後にするようだが、「水辺の広場」周辺の湿地や樹林をのんびりと散策してみるのもお勧めだ。しっとりと落ち着いた佇まいの伊奈町制施行記念公園を楽しむことができる。
伊奈町制施行記念公園は「伊奈町町制施行記念公園」と表記されることも多く、また伊奈町公式サイト内でも「町制施行記念公園」、「伊奈町記念公園」などの表記が混在している。本頁では公園西側入口に設けられたアーチや2013年の「バラまつり」のリーフレットに記されていた「伊奈町制施行記念公園」の表記に統一してある。
伊奈町制施行記念公園は公園自体は無料で入園できるが、春バラの花期にはバラ園は「有料期間」となり、開園時間が定められ、入場は有料になる(秋バラのシーズンは無料開放だそうだ)。入園料やバラ園の開園時間等、詳細は伊奈町公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
野球場やテニスコート、キャンプ場などについても、使用方法等の詳細は伊奈町公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
伊奈町制施行記念公園は埼玉新都市交通ニューシャトル内宿駅が近い。駅から東へ徒歩で10分ほどだ。埼玉新都市交通ニューシャトルは大宮駅から内宿駅までを繋いでいる。大宮まではJRや東武野田線などを利用すればよい。「バラまつり」開催期間中はニューシャトルの一日乗車券とバラ園入場券のセット販売も行われるようなので利用するといい。
車で訪れる場合は国道17号の「久保」交差点から県道87号を東進、あるいは国道122号の「根金」交差点から県道87号を西進するのがわかりやすい。「久保」交差点から約4km、「根金」交差点から約2.5kmで「伊奈学園前」交差点、これを北へ折れればすぐだ。遠方の人は圏央道桶川北本ICから県道12号を東進、国道17号に折れて南下、「久保」交差点から県道87号へ、あるいは圏央道白岡菖蒲ICから国道122号を南下、「根金」交差点から県道87号へ向かうコースがわかりやすいだろう。
伊奈町制施行記念公園には無料駐車場が複数あり、駐車台数にも比較的余裕がある。「バラまつり」の開催期間中はバラ園に隣接する第一駐車場は露店などが設けられて使用できないが、「多目的広場」が臨時駐車場として使用されるなどの対応がなされている。
公園内には飲食店や売店などはない。「バラまつり」開催期間中は第一駐車場に露店が設けられ、うどんや蕎麦の販売が行われている。たこ焼きなどの露店もあった。
公園の一角には樹林地もあり、シートを広げてお弁当を食べることも可能だ。バラ園内のベンチなどでお弁当を広げてもかまわないようだ。お弁当を持ってピクニック気分で訪れるのもお勧めだ。
公園内のキャンプ場ではバーベキューも楽しめる。伊奈町在住・在勤・在学の人なら、事前の予約をすれば利用できる。詳細は伊奈町公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
公園の周辺は基本的に住宅街だが、県道87号沿いにはレストランやコンビニエンスストアなどがある。
公園の北東側は元荒川の右岸に綾瀬川や見沼代用水が流れ、その周囲は水田の広がる田園風景だ。そうした風景の好きな人なら散策の足を延ばしてみるのもいい。寺社も点在しているから、それらを巡ってみるのもいいかもしれない。
町制施行記念公園(伊奈町)
伊奈町観光協会