東京都瑞穂町のほぼ中央、狭山池公園という公園がある。池を中心にした親水公園で、涼やかな風景が楽しめる。夏の初めの七月上旬、狭山池公園を訪ねた。
狭山池公園
東京都瑞穂町箱根ヶ崎のほぼ中央、住宅が建ち並ぶ中に狭山池公園という公園がある。その名からもわかるように、池を中心に据えた親水公園だ。池の歴史は古く、かつて古多摩川が抉った窪地に水がたまった池だったという。現在は親水公園として整備され、池の景観を楽しみながら散策を楽しんだり、釣りを楽しんだりすることができる。それほど大きな公園ではないが、緑に溢れた、素敵な公園だ。
狭山池公園
狭山池公園はその名に「狭山」を含むため、埼玉県狭山市に位置する公園だと勘違いしてしまいそうだが、「狭山」の地名はそもそもは東京都北西部から埼玉県南西部にかけて広がる丘陵地を指す名で、そこからその周辺を広く「狭山」と呼ぶ。この辺りも古来の「狭山」に含まれる地域なのだ。ちなみに埼玉県狭山市は1954年(昭和29年)に一帯の町村が合併して誕生したが、その際に狭山茶の産地だったことから「狭山」を市名としたものという。
狭山池公園
公園のある辺りは古多摩川が流れていた頃に深く抉られて窪地となったところだという。大雨が降ると元々の池にさらに周辺の水が集まり、一帯が水浸しになっていたそうだ。鎌倉時代の歌集にも「筥(はこ)の池」として詠まれた歌があり、古くから知られた池だった。

江戸時代の初めに狭山丘陵から流れる残堀川に池の水を流し、玉川上水の助水としたそうで、現在も狭山池は残堀川の上流端である。
狭山池公園
狭山池が現在の規模になったのは江戸時代末期のことらしい。1804年(文化4年)に大がかりな池浚いが行われた記録があり、これによって水位が下がり、現在のような様相になったようだ。

1951年(昭和26年)に池とその周辺が都立狭山自然公園に指定され、その後、1983年(昭和58年)に町が譲り受け、現在の狭山池公園となったものという。
狭山池公園
狭山池公園の池は堤によって「筥の池」、「ふなっこの池」、「あめんぼうの池」の三つの池に分けられた形だ。もちろん完全に分断されているわけではなく、水は通じている。「筥の池」は庭園風の鑑賞池、「ふなっこの池」は釣り池、「あめんぼうの池」は自然観察池で、西側の岸辺も含めて生き物たちのサンクチュアリである。
狭山池公園
「筥の池」は古来の名を残した池だ。公園の東南部に位置している。池の北側は庭園風に整備されているが、岸辺には草木が生い茂り、古い時代の池の姿を思い浮かべることができる。中央部には島が突き出ており、そこに厳島神社が鎮座している。東側の道路に面した岸辺には藤棚も設けられており、花の時期には美し景観を見せてくれそうだ。
狭山池公園
厳島神社参道入口の鳥居横には大きな石灯籠がある。総高約5mという堂々として灯籠である。1865年(慶応元年)に日光街道が残堀川を渡る石橋の袂に建てられた常夜灯だという。引又(ひきまた、現在の埼玉県志木市)の石工、弥十良の作だそうだ。関東大震災で被災し、その後は狭山神社境内に置かれていたが、狭山池公園の整備に伴って1986年(昭和61年)に現在地に修復再建されたものという。
狭山池公園
公園中央部北側に位置しているのは「ふなっこの池」だ。釣り池として整備されており、釣りを楽しむことができる(他の池では釣りは禁止だ)。ただし投げ釣りや投網などは禁止だそうである。釣りを楽しむための池だが、景観も美しく、北側の岸辺や堤を巡って池の景色を楽しむのもお勧めだ。
狭山池公園
公園西側にあるのが「あめんぼうの池」だ。池の西側の岸辺には鬱蒼と草木が茂り、そこも含めて生き物たちのサンクチュアリとなっている。東側の岸辺は水際まで下りてゆくことができるように整備されており、そこで数多くの鴨が羽を休めていた。鴨の他にもコサギやカワセミなど、さまざまな野鳥が見られるようである。
狭山池公園
三つの池を隔てる堤が繋がるところ、「あめんぼうの池」の岸辺には四阿も設けられている。瓦葺きの屋根を載せた四阿はなかなか風雅な佇まいだ。のんびりと一休みするのも悪くない。
狭山池公園
公園南側には「芝生広場」や管理棟、遊具を設置した「ちびっこ広場」などが設けられている。「芝生広場」はそれほどの広さはないが、木立に囲まれて穏やかな空気感が漂っている。「ちびっこ広場」には大きな砂場が置かれ、その中央部に複合遊具が設けられている。狭山池公園の一部であると同時に、独立した小公園という佇まいだ。
狭山池公園
公園の北西側の角、「あめんぼうの池」から水路が北西側へと住宅地の中を抜けて延びている。この水路と岸辺の遊歩道も狭山池公園の一部であるようだ。住宅に挟まれるような水路を抜けていくと、やがて緑道の佇まいになり、辿っていった先には小さな池がある。水路脇には草木が茂っている。水路脇の遊歩道には水仙が植えられているようで、花の時期には美しい光景が見られるだろう。
狭山池公園
公園の北西側で水路を跨いで道路を通している橋を「調練橋」という。1865年(慶応元年)から翌年にかけて、この辺りの芝原で農兵に鉄砲等の訓練を行っていたことが名の由来という。箱根ヶ崎村、石畑村、殿ヶ谷村は江戸時代には天領で、西洋式戦術の研究家でもあった江川太郎左衛門が代官だったことからこの地が訓練場として選ばれたものらしい。その芝原も明治から昭和にかけて大部分が農民に払い下げられ、今は橋の名にその歴史のひとこまが残るのみである。
狭山池公園
公園の南東側の角、「筥の池」から残堀川が東へと流れ出る。道路をくぐった水路がそのまま残堀川となって流れていく。道路脇には「残堀川上流端」を示す案内板が設けられている。多摩川合流点まで14kmだそうである。残堀川は南東の方角へと流れ、100mほどで都道166号をくぐる。そこまでの区間、残堀川の岸辺は親水空間として整備され、水際まで下りていくことができる。狭山池公園と併せて水辺散歩を楽しむのもお勧めだ。
狭山池公園
狭山池公園は小さな公園だが、端正に整備されていて園内の景観も美しく、気持ちの良い水辺散歩が楽しめる。池の成り立ちにも興味深いものがあり、古い時代の風景を想像しながら園内を巡ってみるのも一興だ。池にはさまざまな野鳥が飛来するとのことで、野鳥好きの人にも魅力的な公園だろう。残堀川上流端ということで、河川好きの人にとっても見逃せないところだ。冬の水仙や春の桜や藤、初夏の合歓木、秋の紅葉など、四季折々の表情も楽しめる。あまり有名ではないが、魅力ある公園と言っていい。
狭山池公園
狭山池公園
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狭山池公園
狭山池公園
狭山池公園
参考情報
狭山池公園は入園料などは必要ない。無料で自由に入園できる。

交通
狭山池公園の最寄り駅はJR八高線箱根ヶ崎駅だ。駅東口から北へ辿って約600m、10分ほど歩けば着く。

狭山池公園には来園者用無料駐車場が用意されている。公園北側の駐車場は6台分、公園南側の駐車場は5台分のスペースが設けられている。また公園南側に位置する瑞穂武道館の駐車場も利用できるようだ。ただし主要路からは細い道を張り込んでいかなくてはならない。ナビなどを利用し、くれぐれも運転には注意されたい。

遠方から訪れる際には圏央道青梅ICが近い。青梅ICから狭山池公園まで4km弱の距離だ。

飲食
公園の周辺は住宅地で、飲食店などはない。箱根ヶ崎駅周辺には飲食店が点在しているが、それほど数は多くない。

公園は穏やかな空気感に満たされており、四阿などを利用してランチタイムを楽しむのも悪くない。

周辺
狭山池公園の東側の丘には狭山神社が鎮座している。社寺巡りの好きな人なら参拝していこう。

狭山神社北側の丘陵地は「さやま花多来里(かたくり)の郷」と名付けられたカタクリの名所だ。数多くのカタクリが自生し、春の下記には多くの鑑賞客を迎えて賑わう。花の見頃の時期に訪ねてみたい。

さらに東方、都道166号の東側には都立野山北・六道山公園が横たわっている。丘陵地の地形を活かした広大な公園だ。

瑞穂町の西は羽村市だ。狭山池公園から羽村市動物公園まで直線距離で2kmほど。歩いても40分ほどで着く。家族で楽しめる動物公園だ。
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