東京都日の出町、役場南側の平井川河岸には桜並木がある。「塩田堤の桜」として知られ、東京都内の桜の名所のひとつに数えられている。桜が満開となった四月上旬、塩田堤を訪ねた。
塩田堤桜並木
塩田堤桜並木
塩田堤桜並木
東京都日の出町の中央部を平井川という川が流れている。日の出町西部の山間を源流部とし、日の出町からあきる野市へと流れ、あきる野市東端部で多摩川に合流する。日の出町の役場が置かれている辺り、平井川は緩やかに南へ蛇行し、その北側河畔、蛇行する平井川の弧の内側には平地が横たわる。その平地の一角に役場も置かれているわけだが、役場の東側は基本的に農地で、長閑な風景が広がっている。この辺りの農地を「塩田耕地」というらしい。この塩田耕地、弧を描く平井川の河岸には桜が並び、春には見事に咲き誇って平井川を彩る。「塩田堤の桜」、あるいは「塩田耕地堤の桜」と呼ばれ、桜の名所として知られている。

塩田堤の桜並木は、その名のように平井川の左岸側、すなわち塩田耕地側に植えられている。上流側は都道184号奥多摩あきる野線が平井川を越える西平井橋から下流側は南に離れた平井川が再び都道184号奥多摩あきる野線に近づく「塩沢」交差点付近まで、桜が並ぶのは1km弱といったところか。途中には切れ目があったりもするが、概ねその区間の河岸に桜並木が続いている。日の出町によれば、塩田堤には108本の桜が植えられているそうだ。
塩田堤桜並木
塩田堤の中央部、東京都森林組合の南側から日の出町民グラウンド手前までの200メートルほどの区間が、最も桜並木の景観が美しく、花見客も多いところだ。堤には大きな桜が並び、圧巻の景観を見せる。堤にはベンチも設置されているが、桜の根方にシートを広げて花見を楽しむ人たちの姿も少なくない。土曜日には「桜まつり」が開催されるため、並木には提灯が提げられ、堤沿いの道路脇にはすでに露店も出ていて「桜まつり」を待たずに賑わっている。
塩田堤桜並木
塩田堤桜並木
塩田堤の河原は広く、ちょっとした広場を成している。堤からも容易に降りることができ、河原にシートを敷いてお花見を楽しむ人たちも少なくない。塩田堤の桜並木は、この河原に降りて眺めるときの景観が最も素晴らしいように思える。川が大きな曲線を描いて流れるところだから桜並木もそれに沿って大きな弧を描く。桜の下に立って上流側から下流側を眺めたり、あるいは下流側から上流側を眺めたり、水際まで離れて眺めたり、見る場所によってさまざまに表情が変わり、それぞれに美しい桜景色を見せてくれて飽きない。周囲の山々が遠いために、広々と開放感があるのもいい。緑濃い風景の中に咲き誇る桜並木が春爛漫の空気を漂わせている。
塩田堤桜並木
塩田耕地の東側河岸には日の出町の町民グラウンドが設けられている。桜並木はそのグラウンドの河岸側の外縁部に続いている。緩やかな弧を描いて伸びる桜並木が美しい。グラウンドはフェンスで囲まれているが、河岸側の入口が開放されており、桜並木の下、グラウンドの端を歩くことができた。ここでも桜並木には提灯が提げられていた。
塩田堤桜並木
訪れたとき、グラウンドではサッカーの練習をする子どもたちの姿があった。地元のクラブのようなものか、小学校の高学年くらいの男の子たちがコーチらしい人の指導のもとで練習している。グラウンドの北側からその様子を見ると、ボールを追う彼らの向こうに桜が咲き誇っている。なかなか素敵な光景だった。
塩田堤桜並木
町民グラウンドの東側で、柳橋という橋が平井川を跨いでいる。この橋の上から平井川上流側に目を向ければ、町民グラウンドの桜並木に縁取られた平井川の風景を一望できる。町民グラウンドの桜並木が、グラウンドの中や北側から見るのとはまた違った表情を見せてくれる。
塩田堤桜並木
下流側を眺めれば、下流側にも桜並木があり、北側に迫った丘陵の緑を背景に美しい風景を見せてくれる。柳橋を過ぎてから平井川は右寄りに蛇行の向きを変えるため、ここでは塩田堤中央部とは違った表情の桜並木を見ることができる。河原に降りて見上げるように桜並木を眺めれば、その違いが実感できて楽しい。河原ではシートを敷いて花見を楽しむ人たちの姿がある。若者のグループのようだった。
塩田堤桜並木
塩田堤の中央部から少し上流部に本中橋という人道橋が平井川に架かっている。1993年(平成5年)に完成した橋らしい。この橋の中ほどから眺める平井川下流側の風景がなかなか美しい。右岸側には緑の樹林が茂り、左岸側には桜が大きく枝を張って咲き誇る。河原には携帯用の椅子に座ってスケッチを楽しむ人の姿もある。なかなか素敵な風景だ。
塩田堤桜並木
本中橋の上流側、西平井橋までの区間にも平井川左岸には桜並木があるが、堤を辿る遊歩道は設けられていないようだ。本中橋から眺める景観も美しいが、本中橋を渡って対岸から眺めるのも悪くない。西平井橋まで足を延ばし、西平井橋の上から眺めれば、桜並木と本中橋とが一緒に視界に収まる。特徴的な意匠の本中橋と桜並木との組み合わせも、良い風情を醸している。
塩田堤桜並木
塩田堤桜並木
塩田堤桜並木
塩田堤の桜は、中央部だけでも充分に堪能することができるが、周辺に散策の足を延ばせばさらに楽しむことができるように思える。平井川の左岸側には日の出町役場や東京都森林組合、町民グラウンドなどの施設があるが、「塩田耕地」の名の通り、基本的には農地の広がるところだ。気の向くままに歩いてみれば、畑地と桜並木とが織り成す、美しい春の田園風景に出会うこともできる。また東京都森林組合の東側、都道184号と河岸とを繋ぐ道路も桜並木になっている。この桜並木は河岸の桜に比べれば少し若い木だが、充分に美しい景観を見せてくれる。

桜並木の河原でのんびりと“花見ランチ”を楽しむのもよく、“桜の咲く風景”を味わいながらの“花見散歩”にもいい。緑濃い日の出町の風景の中で楽しむ桜の風景はのんびりと穏やかな空気感に満ちていて“春爛漫”を実感する。桜の本数という点では規模の大きな桜並木とは言えないと思うが、平井川の流れそのものにも良い風情があり、興趣に富んだ風景としての美しさは「桜の名所」の形容に恥じない。素晴らしい桜景色である。
参考情報
交通
塩田堤へはJR五日市線武蔵増戸駅から北へ辿って1.5kmほど、徒歩で20〜30分といったところか。あるいはJR青梅線福生駅、JR五日市線武蔵秋川駅や五日市駅からバスを利用するといい。バス路線や料金などの詳細については西東京バスのサイトを参照されたい。

車で来訪する場合は圏央道日の出ICから都道を西進、2kmほどだ。塩田堤は日の出町役場の裏手(南側)に位置しているので、日の出町役場を目指して来るとわかりやすい。

塩田堤には基本的に駐車場は用意されていないが、「日の出町桜まつり」の開催日には役場裏の職員用駐車場が解放されるようだ。

今回は平日に時間を設けて訪れたので、塩田堤の桜並木の道路脇に車を停めておくことができた。平日には何とか駐車が可能なようだが、週末にはおそらく無理だろう。秋川駅周辺の民間駐車場に車を置き、バスで来訪することも検討した方がいい。

飲食
塩田堤の桜並木脇に露店が出て軽食を販売しているが、本格的な食事のできる店はない。役場前の県道沿いなどには飲食店が点在しているが数は多くない。のんびりとお花見を楽しむならお弁当持参がいい。お弁当持参でない人は秋川駅周辺に移動すればさまざまな飲食店がある。

周辺
日の出町は豊かな自然に恵まれたところだ。寺社などを巡っての里山散歩も楽しい。塩田堤から周辺に少し足を延ばしてみるのもお勧めだ。
桜散歩
東京多摩散歩