南宮崎駅から田吉駅を過ぎて、宮崎空港線が分岐すると、日南線の線路はのどかな田園風景を東に見ながらほぼ直線を描いて南下してゆく。このあたりは宮崎平野の南端部分にあたり、周囲には広々とした風景が広がっている。その途中、本郷南方という地区に「南方駅」がある。「南方」は「みなみかた」と読む。片側使用のホームに屋根付きのベンチが設けられているだけの、もちろん無人駅だ。
このあたりでは、日南線の線路は西側の県道367号と併走している。県道367号は宮崎南バイパスが完成する以前には国道220号だった道路で、今でも交通量は多い。この道路から南方駅へ行こうとすると、場所がひどくわかりにくい。県道から細い裏道に入り込んで、さらにその細道から住宅の間の路地を入ってゆかなくてはならないのだ。その路地の奧、まるで民家の裏庭のような場所に、ひっそりと駅がある。その佇まいが、なぜか楽しい。もちろん「駅前広場」などはないが、駅の傍らには自転車が少なからず置かれているから、この駅を利用する人は決して少なくはないのだろう。
かつて1971年(昭和46年)に旧田吉駅が廃止されて1996年(平成8年)に宮崎空港線が開業するまで、南方駅は宮崎空港の「最寄り駅」だったが、駅から空港へのアクセスはあまりに不便で、空港へのアクセス駅として機能していたとは言えない。駅の近くにはこれと言って「観光名所」もなく、観光のために訪れる人にとっては利用する機会の極めて少ない駅のひとつに挙げられるだろうが、鉄道趣味の人などにとっては駅の立地が興味深いものであるかもしれない。