恋ヶ浦の入江から、国道は「恋ヶ浦トンネル」を抜けて
宮ノ浦の集落へと至っている。この「恋ヶ浦トンネル」を含む「小崎バイパス」は2009年(平成21年)3月に開通したもので、それまでは断崖に張り付いたような狭い道路が岬を回って恋ヶ浦と宮ノ浦とを繋いでいた。この道路は大雨の際に崖が崩落して通行止めになることが少なくなかった。2006年(平成18年)の台風による崩落では復旧の目途が立たず、ついに「恋ヶ浦トンネル」によって岬をバイパスすることになったのだ。トンネル開通以前は恋ヶ浦から宮ノ浦へと岬を回っていたわけだが、この岬を小崎という。岬突端には展望所と駐車場、トイレが設けられ、展望所からは眼下に広がる大海原の景観を堪能することができる。
展望台には「恋ヶ浦展望所 かんなフラワーガーデン」と記された名標が設置されている。「シーニックバイウェイ串間エリア推進協議会(串間のみちを考える女性の会)」によるもののようだ。「カンナ」は串間市の花で、花期は6月から10月、夏を彩る花である。
そしてまた、「R448へようこそ 日南海岸」と題して、「しあわせ448ハッピーロード」の案内板も設置されている。「448」を「4+4=8」として、すなわち「4(し)」を合わせて「8(はち=ハッピー)」ということで、串間市が設定した観光ルートである。「恋ヶ浦」から「築島」、「幸島」、「夫婦浦」と、“人生の幸せを想わせる”地名が連なっていることから、「しあわせ448ハッピーロード」と名付けて観光地としての魅力創出を図ったもののようだ。「恋」、「築」、「幸」、「夫婦」と“縁起の良い”地名の連なりは昔から知られていて、“ロマンス街道”などと呼ばれたこともあった。それらを辿ってのドライヴは、特に恋愛中のカップルには“験担ぎ”として魅力的かもしれない。
展望台には亜熱帯の樹木が植栽されて南国的風情を漂わせている。展望台はなかなかの高みで、そこからの眺望は雄大なものだ。北側には
恋ヶ浦の美しい砂浜が孤を描き、その向こうには山肌が急峻な断崖となって海に落ちる荒々しい景観が続いている。南は宮ノ浦の入り江の向こうに
都井岬として海に張り出した山塊のシルエットが浮かんでいる。沖に島影はなく、水平線が横たわっているだけだ。その雄大な景観は一般的な「日南海岸」のイメージとは少々異なったものであるかもしれないが、これもまた多様な表情を見せる「日南海岸」の魅力のひとつと言えるだろう。
2003年(平成15年)の夏にこの岬に立ち寄ったときのことだ。展望台に人の姿はなかった。駐車場に車を停め、車から降りるときに、展望台の縁に設けられた柵の上に動くものを見た。猿だった。数匹の猿が柵上部の手すりの上を連なって歩いているのだ。中には子猿の姿もあった。野生の猿というと幸島の猿ばかりが有名だが、実はこのあたりの山間には猿が棲んでいて、時々こうして人前に姿を見せる。かつては
都井岬でもよく見たものだったし、大納地区を車で通りかかったときに道路上に猿の群が広がっていてしばらく立ち往生したこともあった。ずいぶん久しぶりに猿たちの姿を見た気がして心が和んだ。写真を撮ろうとカメラを向けたのだが、人の気配に気づいた猿たちはたちまち向こう側の林の中に身を隠してしまった。近寄って覗き込むと、林の中に猿の姿をみつけた。こちらを警戒して、威嚇しているようだった。また姿を見せてくれないものかと離れて待っていたのだが、声が聞こえるばかりだった。
小崎から
宮ノ浦の集落へと降りる道路は2006年(平成18年)の台風での崩落以来現在でも通行が不可能で(おそらくこのまま復旧されることはないのだろう)、小崎へは
恋ヶ浦側から上り、再び引き返して降りてこなくてはならない。そのため立ち寄る人もほとんどいないのではないかと思われるが、ここからの景観は日南海岸の中でも屈指のものだ。もし可能であれば立ち寄ってみるといい。