町田市成瀬〜本町田
恩田川河畔
(成瀬〜本町田)
Visited in November 2005
街の木々も紅葉に染まった11月中旬、成瀬から本町田にかけて恩田川の河岸を歩いた。成瀬の恩田川河岸は桜並木の遊歩道が整備され、春はお花見の名所として知られるところだ。
桜の時期に歩いたことはあったから、今回は秋の風景を楽しみたいと思ったのだった。
横浜線成瀬駅を北へ出て、「成瀬駅東」交差点からケヤキ並木となった「成瀬中央通り」を東に向かう。町田市立総合体育館を右に見ながら進むと、恩田川に架かる成瀬中央橋だ。河岸の桜並木は今が紅葉の盛りで、橋の中ほどに立って眺めると、川の両岸が真っ赤に染まっている印象だ。すいぶんと落葉も進み、すっかり裸になった木もある。桜の紅葉は、美しさという点ではカエデやイチョウなどに劣るが、陽光を照り返して輝く様子は秋の風景としてそれなりに興趣のあるものだ。
春の満開の桜並木や、夏の青々と葉を茂らせた並木の景観を思い出しながら歩けば、その表情の違いもまた楽しい。
恩田川の左岸、すなわち北側の河岸の舗道を上流側へと歩く。舗道にはところどころベンチも置かれており、散策途中の一休みにも都合がいい。河畔は団地だ。その団地の中、河岸に面して「成瀬しいのみ広場」という小公園があった。団地に暮らす人たちのための公園で、これと言って特筆するような特徴のある公園というわけではないのだが、この公園の広場の真ん中、一本のケヤキが良い姿で立っている。まっすぐに幹が伸び、上部ではまさにケヤキの特徴である「箒を逆さに立てたような形」に枝を広げている。赤茶色に紅葉した姿が秋空の青に映えて印象深く、たいへんに美しい立ち姿だった。
さらに恩田川の左岸を上流側へ歩く。二反田(にたんだ)橋という人道橋を過ぎて、会下山橋をくぐり、左手に城山公園の木々を見ながら進む。河岸の住宅地の木々が紅葉に染まり、陽光を照り返して美しい姿を見せる。やがて扇橋、扇橋の袂から上流側に向けて河岸に「弁天橋公園」という小公園がある。公園の西端辺りに「弁天橋」という橋があり、それが公園の名の由来なのだろう。「弁天橋公園」は河岸に沿った遊歩道という佇まいだが、西端部分には小さいながらも木々に囲まれた広場がある。遊具類も少しばかり設置されており、近所の子どもたちが遊んでいる。広場の西側には恩田川の水を引き込んだものなのか、池があり、岸辺には釣り糸を垂れる人の姿があった。広場にはケヤキの木が多く、河岸の桜とともに秋の色に染まり、木洩れ日の広場は黄金色の空気に満たされているかのようだった。
「弁天橋公園」を後にし、鹿島橋を過ぎる。この辺りから恩田川は北側へ大きく曲がってゆく。成瀬街道が恩田川を越える高瀬橋が近くなった辺りに、川の左岸には水辺まで降りて行けるように整備されたところがある。「水辺広場」と名付けられているようだ。護岸工事の施された市街地の河川に、人工的に設けられた「河原」というところか。恩田川は「清流」というわけではないが、やはり水辺近くに降りて行けるのは良いもので、水の流れをすぐ近くで眺めていると心が和む。川には鯉や鴨の姿もあり、それらを間近に見ることができるのも楽しい。
高瀬橋で成瀬街道が恩田川を越える。成瀬街道は交通量の多い道路だ。ひっきりなしに車が走り抜ける。高瀬橋の袂、恩田川右岸の上流側と下流側の双方に、小規模な緑地スペースが設けられている。河岸の舗道と一体化し、小公園という佇まいで、散策中の一休みにも良い場所だ。成瀬街道沿いにコンビニもあるから飲み物などの調達にも都合がいい。高瀬橋から恩田川の上流側を見ると、ほぼ真っ直ぐに北へ延びている。この辺りでは川の西側はすでに
高ヶ坂の住宅地だ。信号が変わるのを待って成瀬街道を横断し、恩田川の河岸をさらに上流側へと辿ろう。
少し北へ進み、旧高瀬橋の辺りから河岸を離れ、東側の丘を歩いてみよう。川の東側へと坂道を上ってゆくと、丘の上に広がる住宅地の端を辿る道があった。尾根筋の西端を辿る道のようで、西側には視界が開けて恩田川河畔を一望する景観が爽快だ。しばらく進むと、住宅地の一角に「鞍掛の松公園」という小公園がある。住宅一戸分ほどの敷地が公園として整備され、公園名となった「鞍掛の松」についての解説が設置されている。それによれば、1333年(元弘3年)、鎌倉攻めのために挙兵した新田義貞は分倍河原の合戦で北条泰家に大勝した後、その日の夜、この地で兵を休ませたという。その際に新田義貞が馬の鞍を掛けた松が、後に「鞍掛の松」と呼ばれるようになり、この付近の地名も「鞍掛」と呼ばれるようになったという。公園の隅には「鎌倉古道」と記された石柱が立てられている。尾根筋を辿るこの道は、かつての鎌倉道だったのだ。
「鎌倉古道」の尾根筋を北へ辿ろう。尾根筋の道は、この辺りではちょうど町の境になっており、西は高ヶ坂、東は成瀬だ。道はやがて車両の通行不可能な細道となって、住宅と林との間の坂道を緩やかに下ってゆく。ふいに視界が開けると、道は小さな橋を渡る。橋の下には尾根の東西を繋ぐ道路が横切っている。昔は尾根を越える細道だったのかもしれない。下の道路へ降りて東へ辿れば成瀬台方面へと抜け出ることができる。この橋の脇に、小さなお社が建っている。赤い鳥居を西に向け、木々に護られるようにして建っている。その佇まいに惹かれるものがある。西側から見上げると鳥居と社の赤、木々の緑、空の青と、その色彩のコントラストが美しい。
橋を渡り、お社の脇を過ぎてさらに進むと、そこはもう「
かしの木山自然公園」の入口だ。フェンスで囲まれた公園の、南口のゲートが設けられている。「かしのき山自然公園」は、雑木林の丘陵をそのままに残した自然溢れる公園だ。林の中にシラカシの木が多いことから、公園の名がこのようになったものという。公園南口のゲートの傍らに「鎌倉古道」について記した解説板が設けられている。ゲートから公園内部へと続く小径は、まさに「鎌倉古道」の佇まいを今に伝えるような様相だ。そのまま進めば尾根筋に設けられた広場に出る。公園は東に低く、東側中央部には池などもある。常緑樹の多い公園内はこの季節にも緑濃く、その中に混じった落葉樹の赤がアクセントを添える。
「かしのき山自然公園」を北口に抜け、バス通りの歩道を西へ下る。すでに「南大谷(みなみおおや)」だ。「大谷原」バス停を過ぎると、目の前を小田急線の線路が通っている。この辺りでバス通りを離れて恩田川の河岸に戻り、河岸の舗道を上流側へと辿ろう。小田急線の線路をくぐると、「梅の橋」という橋が架かっている。ここから河岸を離れて右手に進めば
南大谷天神社が近い。「天神」の名の通り、菅原道真公を祀って信仰を集める神社だが、桜の名所としても知られている。境内を覆い尽くすように咲き誇る桜は見事なものだ。今は桜が紅葉に染まっている。
「梅の橋」上流側の恩田川右岸に、水辺近くに降りて行ける遊歩道が設けられている。河岸の舗道から階段で降りると、川面とほぼ同じ高さに遊歩道があり、二、三十メートルほど上流側に続いている。そこへ降りて歩けば、恩田川の流れが間近に迫り、川面の鴨などもすぐ近くに見ることができて楽しい。もちろん水量が増加したときには降りることができないはずで、大雨などの際には立ち入りが禁止されるのだろう。河岸の舗道へと戻り、さらに上流側へと歩こう。すぐに桜橋、「南大谷」交差点が近い。小田急線「玉川学園前」駅前から町田街道の市役所前の交差点へと至る道路が恩田川を越えている。
恩田川の河畔は住宅地が続く。上流側へとしばらく歩くと河畔は本町田団地だ。団地のイチョウ並木も美しく黄葉しているようだ。河岸から離れて少しイチョウの黄葉を見てゆこう。本町田団地を過ぎて少し行けば稲荷坂橋、鶴川街道が恩田川を越える。稲荷坂橋に「おんだ川 上流端」を示す標識があった。河川管理上はここが恩田川の上流端ということなのだろう。恩田川の流れはさらに上流部から続いているが、今回は「上流端」の標識を良い区切りとして、この辺りで帰路を辿ることにしよう。稲荷坂橋から西へ少し歩けば
菅原神社だ。菅原神社に立ち寄り、神社前のバス停で町田駅行きのバスを待つことにしよう。
成瀬から高ヶ坂辺りは桜の季節などに幾度か歩いたことがあったが、恩田川の河岸を中心に成瀬から本町田辺りまでを通して歩いたのは初めてだった。街路樹の見せる紅葉の姿も美しく、天候にも恵まれ、なかなか楽しい散策だった。気まぐれに河岸を離れた丘の上の住宅地で「鞍掛の松公園」を見つけられたのもよかった。このような公園があることをまったく知らなかったから、嬉しい発見だった。このような発見も散歩の醍醐味だ。