座間市新田宿〜相模原市新戸〜磯部
新戸と磯部の水田地帯
Visited in September 2007
よく晴れた初秋の一日、相模原市新戸から磯部にかけて歩いた。この辺りは相模川左岸に広がる広大な水田地帯で、その中央部を貫くように「相模川左岸幹線用水路」が流れている。そろそろ彼岸花が咲き始める頃で、稲刈りの作業も始まっているかもしれない。そうした風景を楽しみたいと思って出かけたのだった。
相模線相武台下駅は小さな駅だ。こぢんまりとした駅舎の横にイチョウの木が立っている。駅から少し東へ行くと鳩川が南北に流れている。鳩川河岸の道を南へ下り、平和橋のところで西へ折れる。この辺りはすでに座間市だ。「相武台下第一踏切」で相模線を横切り、道は西へ延びている。その道をまっすぐに進む。まず相模川河岸へ向かおう。
道の両脇には水田地帯が広がっている。小さな集落を抜けると西南方向前方に座架依橋が近くなる。座架依橋は交通量も多く、座架依橋へと続く南側の道路はひっきりなしに車が行き交っている。座間市では毎年夏になると休耕地を利用してひまわりを植え、「ひまわり広場」として開放している。「ひまわり広場」は座間市市内の各所に設けられるのだが、この
座架依橋周辺にも設けられ、多くの人たちが訪れるようだ。今は九月の下旬、もちろんひまわりは咲いていないが、代わりに黄金に実った水田の稲が初秋の日差しに輝いている。
やがて相模川だ。河川敷の広場は「座間市立相模川グラウンド」だそうだ。せっかくだからグラウンドに降りてみよう。広々とした開放感がある。南を見ると相模川を一跨ぎにする座架依橋が間近に見える。座架依(ざかえ)橋とは面白い名だが、座間と厚木市依知(えち)を繋いで架けられた橋だからということらしい。現在の座架依橋は広く立派な橋だが、これは1992年(平成4年)に完成したもので、以前はずいぶんと細い橋だった。橋に至る道路も狭く、あまり便利な橋とは言えなかったのだが、細い橋が川面近くの低い位置に架かっている姿にはそれなりに風情があった。その頃の座架依橋の姿も、そろそろ人々の記憶の中から薄れてきたかもしれない。
座架依橋に別れを告げ、堤防道を北へ向かおう。歩いてゆくとやがて市境を越え、その先は相模原市新戸だ。河岸の堤防道は車両通行不可の「相模川散策路」として整備されている。散策路の左(西)には相模川の流れがあり、右手(東)には木々が植えられて緑の帯となり、その隙間から新戸の水田地帯が見え隠れする。散策路にはトイレも設置されており、散策を楽しむ際には便利だ。散策路脇にはさまざまな樹木が植えられているようだ。百日紅の木も少なくないようで随所で花を見ることができた。そろそろ九月も終わり、百日紅の花もそろそろ終わりだろう。百日紅の花の盛りの時期に再訪して、この散策路を歩いてみたいものだ。カエデの木も多いようだから秋の紅葉も美しいに違いない。河川敷で凧を揚げている人があった。南風をはらんでずいぶんと高く揚がっている。凧を追って視線を上げると初秋の澄んだ青空が眩しい。
爽快な景色を楽しみながら「相模川散策路」を北へ辿って行くと、やがて
相模原市磯部に入り、磯部頭首工が見えてくる。磯部頭首工は相模川河岸の農地灌漑のために設けられた堰で、造られたのは昭和初期のことだという。取水口から引き入れられた水は「相模川左岸幹線用水路」に導かれ、相模原市から座間市、海老名市、寒川町、茅ヶ崎市にかけて20kmほどを流れ、流域の農業用水として使われている。さらに取水口から「相模川伏越」と呼ばれる設備によって相模川の下を通して右岸にも導かれ、こちらは「相模川右岸幹線用水路」として厚木市、伊勢原市、平塚市に至る地域の農業用水を担っている。
「磯部頭首工」脇には「磯部頭首工公園」という小公園がある。広場があるだけの小さな公園だが、トイレや四阿が設置されており、散策途中の一休みには便利だ。駐車場も設置されているから、車を停めて一休みというふうの人の姿もある。公園脇に「磯部の渡し」を示した地名標柱が設置されている。昔、この辺りには大山道の「磯部の渡し」があり、対岸の猿が島とを繋いでいたという。公園脇には「鮎供養塔」も建っており、かつて鮎漁が盛んだった時代の相模川を偲ばせる。
「磯部頭首工公園」で一休みした後は「相模川左岸幹線用水路」に沿って水田地帯の中を南へ辿ろう。「磯部頭首工」近くでは民家の横を少し曲がりながら流れていた用水路だが、やがて周囲が開けると水田地帯の中を真っ直ぐに流れてゆく。用水路には満々と水が流れている。危険防止のためなのだろう、用水路は高いフェンスで囲まれている。そのフェンス脇、ところどころで彼岸花が咲いている。周囲の水田はすっかり黄金色に実っている。刈り取りの作業が行われている田もある。青く澄んだ初秋の空の下、黄金色の水田と真っ赤な彼岸花の織りなす風景を楽しみながらのんびりと歩こう。
用水路に沿って水田地帯の中を歩いてゆくと、やがて前方に相武台下駅が近くなる。水田地帯の中の道脇に「相模川散策路」と相武台下駅を指し示す道標が設置されている。散策に訪れる人も少なくないのだろう。駅の北側に、相模線の線路の東側へと渡る小さな踏切があった。「相武台下第二踏切」という名の、歩行者用の踏切だ。通路の真ん中に車両通行禁止の標識が立てられて車両の通行を禁じている。このような小さな踏切の佇まいにはなぜか心惹かれてしまう。この小さな踏切を渡って相武台下駅へと向かい、そろそろ帰路を辿ることにしよう。
今回は相模川散策路と相模川左岸用水路周辺の水田地帯と、そのふたつがメインの散策になった。「磯部頭首工」は
以前にも訪れたことがあったから、今回はその南側に広がる地域を歩いてみたいと思ったのだった。初秋に相応しい青空の下、爽快な気分で楽しめた散策だった。水田地帯の広々とした風景は強く印象に残るものだった。春の田植えの頃の風景も見てみたいものだ。相模川散策路もなかなか端正に整備されており、気持ちの良い散策が楽しめた。これもまた別の季節の表情を見てみたい。