横浜市中区新港〜海岸通〜北仲通
秋晴れの新港地区
Visited in November 2016
すっきりとした秋晴れに恵まれた11月初旬、
JR根岸線桜木町駅に降りた。久しぶりに
汽車道を辿り、新港地区の西側を中心に歩いてみたいと思ったのだ。こんな快晴の日にはみなとみらいビル群の見せる景観がいっそう美しく見える。さまざまな場所から横浜の都市景観を堪能してみたい。それを目的にあちこちを巡ってみたい。
桜木町駅を降り、みなとみらい方面へと出る。駅前の広場で見上げると澄んだ秋の青空を背景に
ランドマークタワーの姿が映える。ランドマークタワーは1993年(平成5年)の開業、地上70階、高さ296メートル、完成した当時は高層ビルとして日本一の高さを誇った。あれからすでに二十年以上を経て、すでに日本一の高さではなくなってしまったが、その美しい姿の魅力はいささかも衰えることがない。横浜港を臨む地に建つその姿は、まさに今の横浜の“ランドマーク”である。
駅前ロータリーの横を抜け、「みなとみらい大通り」を渡れば、その先に「
汽車道」が延びる。汽車道はかつての臨港鉄道の遺構を利用して造られたプロムナードだ。路面にはレール跡が残されて往時を偲ばせる。桜木町駅から新港地区のワールドポーターズや赤レンガパーク方面へのアクセスルートになっているために行き交う人の姿が多い。汽車道からはみなとみらいのビル群の姿が間近に見え、その美しい景観を存分に堪能することができる。汽車道に残された明治期の橋梁とみなとみらいのビル群とが織り成す景観も興趣に富んでいる。すでに秋も深く、汽車道に植栽された木々も紅葉に染まりつつある。そうした風景を写真に捉えようと、カメラを構える人の姿も少なくない。観光に訪れた立場なら、足早に通り過ぎるのでは無く、のんびりと景色を楽しみながら歩くといい。
汽車道を通り抜けると、プロムナードはそのまま「ナビオス横浜」の建物の空洞部分を抜けてゆく。この空洞部分、汽車道側から見ればその向こうに赤レンガ倉庫が横たわり、赤レンガ倉庫側から見ればランドマークタワーやクイーンズスクエアなどのビル群が収まる。まるで額縁のようだが、おそらくそのように見えることを前提にした設計なのだろう。このナビオス横浜の建物も含めて、横浜みなとみらいビル群の織り成す美しい景観のひとつと言っていい。初めて訪れた人はぜひ、ナビオス横浜の空洞を通り抜けた後、振り返って、そこから見える景観の面白みを楽しんで欲しいと思うのだ。
ナビオス横浜の空洞を通り抜けると「万国橋」交差点。交差点を南へ折れると万国橋が運河を跨いで「万国橋通り」を通している。万国橋は1940年(昭和15年)9月に竣工したものだ。万国橋へと歩を進めよう。
万国橋の上からみなとみらいのビル群を見る景観がたいへんに美しい。ビル群の下には汽車道が延び、運河の水面がビル群をかすかに映す。視界の右下には運河パークの木々が潤いを添え、それらが織り成す景観に見とれてしまう。もしかしたら、みなとみらいのビル群の景観を楽しむには最もお勧めの場所かもしれない。みなとみらいのビル群と汽車道が一枚のフレームに無理なく収まり、写真を撮るにも最適だろう。東側歩道から西側の歩道を行き交う人々の姿と共にフレームに収めるのもなかなか素敵な写真だという気がする。
万国橋の東側、運河の北側には遊歩道が整備されている。判然としないが、この遊歩道も運河パークの一部なのかもしれない。遊歩道は万国橋の袂から東は新港橋の袂まで、300mほど続く。東に向かって歩けば目の前に横浜税関の「クイーンの塔」が間近に見える。あまり人の姿もなく、のんびりと散策が楽しめる。この遊歩道から西を振り返れば、万国橋越しにみなとみらいのビル群を見る。まるで万国橋の上にランドマークタワーが建っているような景観が面白い。
「万国橋」交差点に戻り、「万国橋通り」を北に辿ろう。ワールドポーターズの横を過ぎ、サークルウォークの下を通って進むと「客船ターミナル入口」交差点だ。交差点の北東側には「MARINE & WALK YOKOHAMA」がある。MARINE & WALK YOKOHAMAは2016年(平成28年)の春にオープンした商業施設で、横浜の新しい人気スポットになっている。
MARINE & WALK YOKOHAMAの西側はカップヌードルミュージアムパークだ。カップヌードルミュージアムパークは元々は「新港パーク」の名で知られていた公園だが、横浜市の港湾施設として初めてネーミングライツが導入され、2012年(平成24年)8月から「カップヌードルミュージアムパーク」の名で親しまれている。パーク内は緩やかな起伏を伴って整備され、松が植栽されている。海岸の松林を再現したものか。港を望む立地が魅力的な公園で、パーク内でのんびりと過ごす人たちの姿も多い。海岸部からの港湾の景観が魅力的で、西端からは「ぷかりさん橋」の姿も間近に見える。
カップヌードルミュージアムパークを通り抜け、大岡川河口部から左岸を西へ辿る。正面にはみなとみらいのビル群とコスモクロック、国際橋などが午後の逆光の中にシルエットで浮かぶ。南に向いたビルの壁面が日差しを弾いて、少し幻想的な風景だ。
そのまま国際橋の下を通り抜け、コスモクロックの横を過ぎて回り込めば汽車道が見えてくる。そのまま岸辺を辿って再び万国橋を目指そう。汽車道の上からの眺めは見慣れた感もあるが、こちら側から汽車道越しに横浜税関「クイーンの塔」を見る景観も新鮮で美しい。
万国橋を渡って、運河の南側へと歩を進める。万国橋の西南側は「海岸通五丁目」、万国橋の袂には「北仲通北第三公園」という小公園が設けられ、そこから岸辺に沿って「水際線プロムナード」が延びている。「水際線プロムナード」を辿ってゆこう。プロムナードは途中で「北仲通北第二公園」を経由して「北仲通六丁目」へ続き、「北仲通北第一公園」へ至っている。「水際線プロムナード」からは汽車道越しにみなとみらいビル群がよく見える。汽車道とみなとみらいビル群の競演を見るなら、ここがベストポイントかもしれない。プロムナードを進むにつれて汽車道とビル群との角度が次第に変わっていき、少しずつ表情の印象が変わってゆく。その変化も面白い。ずっと見ていても飽きない風景だ。
「北仲通北第一公園」は北仲橋の北東側の袂に位置している。公園は「灯台発祥の地」だそうだ。海上保安庁第三管区海上保安本部によって2015年(平成27年)に設置された解説パネルの記述によれば、西欧諸国から灯台の建設を求められた明治政府は、1869年(明治2年)に灯台事業を担う役所として「燈明台(とうみょうだい)局」を、1874年(明治7年)には「燈明番(とうみょうばん、いわゆる「灯台守」)の教育及び建設する灯台の試験調整を行うための「洋式試験灯台」を、横浜元弁天の地に建設した。それが現在の横浜市中区北仲通六丁目、「北仲通北第一公園」が設けられている、この場所であるという。「燈明台局」は1948年(昭和23年)に海上保安庁燈台局として東京に移転するまでの約80年間、この地にあり、日本の海上保安の礎となった。
「北仲通北第一公園」の南側を東西に抜ける道路は栄本町線、この辺りでは「みなとみらい大通り」と呼ばれる通りだ。北仲橋が大岡川を跨いでいる。北仲橋は1997年(平成9年)に竣工した。北仲橋の上から北を見れば汽車道の向こうにみなとみらいのビル群が見える。ここからはちょうど第一号橋梁とコスモクロック、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルの建物が重なる。北仲橋からでなければ見られない風景だ。眺めを楽しみながら北仲橋を渡り、そろそろ桜木町駅から帰路を辿ることにしよう。
横浜のみなとみらい地区にはすでに幾度も訪れたことがあるが、今回は新港二丁目地区にスポットを当ててのんびりと歩いてみた。敢えて空気の澄み渡る秋を選んだのが奏効し、横浜の都市景観美を堪能することができた。海岸通五丁目から北仲通六丁目にかけて「水際線プロムナード」は初めて歩いた。「灯台発祥の地」も新たな発見だった。少しずつ姿を変えてゆく横浜。何度訪れても飽きない。