鹿児島県鹿屋市、市役所に隣接して「鹿屋市鉄道記念館」が設けられている。旧国鉄大隅線の関連資料を保存展示する施設だ。充実した資料は鉄道ファンでなくても興味深く見学できる。夏の盛りの八月、鹿屋市鉄道記念館を訪ねた。
鹿屋市鉄道記念館
「鹿屋市鉄道記念館」は1987年(昭和62年)に廃線となった旧国鉄大隅線の歴史を後世に伝えるために設けられた施設だ。館内にはさまざまな大隅線関連資料が展示され、さらに屋外には当時の車両や駅名標なども保存展示されており、往時を偲ばせる。大隅線が走っていた頃を知る人なら懐かしく、知らない人にも大隅地域の歴史のひとこまとして興味深く見学できるだろう。館内には鉄道模型のジオラマなどもあり、子どもでも楽しめるように工夫されている。鉄道ファンはもちろん、大隅地域の昔日の風景に興味のある人なら必見の記念館と言っていい。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
旧国鉄大隅線はかつて鹿児島県曽於郡志布志町(現在の鹿児島県志布志市)の志布志駅から鹿児島県国分市(現在の鹿児島県霧島市)の国分駅までを繋いでいた路線だ。

大隅線はそもそもは1915年(大正4年)に高須〜高山間で開業した南隅軽便鉄道(なんぐうけいべんてつどう)が始まりだ。南隅軽便鉄道は翌年に大隅鉄道に改称、1923年(大正12年)には古江〜串良間の全線が開通した。1935年(昭和10年)には鉄道省が大隅鉄道を買収、国有化されている。1938年(昭和13年)には鉄道省の延伸事業によって志布志〜古江間が開業、国鉄古江線となり、この時ようやく軽便鉄道から普通鉄道に改められている。

戦後、1961年(昭和36年)に古江〜海潟間が開業、1972年(昭和47年)には海潟〜国分間が開業し、ようやく志布志〜国分間が全線開通、国鉄大隅線と改称されている。駅の数33、総延長98.3kmの路線で、大隅地域の人々の足を支えた。

志布志〜国分間の開業からわずか15年、1987年(昭和62年)には国鉄大隅線は廃止となってしまう。1980年(昭和55年)に制定された日本国有鉄道経営再建促進特別措置法、いわゆる「国鉄再建法」によって大隅線は第2次特定地方交通線に指定され、全線廃止となるのである。大隅線最後の日となった1987年(昭和62年)3月13日、記念式典が執り行われ、多くの人々がその廃止を惜しんだ。その様子は鹿屋市鉄道記念館で見ることができる。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館は大隅線廃止から約一年半経った1988年(昭和63年)10月1日に開設、特に鹿屋駅を中心にした大隅線関連事物を保存、展示する施設として大隅線の歴史を今に伝えている。保存展示されたさまざまな物品は、大隅線廃止の後、そのままでは貴重な資料が散逸してしまうとの危機感から、可能な限り収集されたものという。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
展示品はかなり充実したもので、旧国鉄大隅線関連のさまざまな物品を見ることができる。系統立てて資料を収集したというより、“失われてしまう前に集められるだけ集めておいた”という印象もあるが、それだけに記念館の開設に当たった関係者の思いのようなものが感じられて感慨深い。

展示品は行先表示板や駅名板、往時の時刻表、手小荷物運賃表といったものから、タブレットや通票閉塞機、さらには運転台表示燈、車両用引戸錠、圧力計、ブレーキ弁といったものまで多岐に及ぶ。鉄道ファン、特に旧国鉄のマニアなら垂涎ものの展示だと言っていい。特に鉄道マニアでなくても旧国鉄時代の鉄道を知る人には懐かしさを感じながら興味深く見学できるだろう。往時を知らない若い人でも、レトロ感覚溢れる鉄道資料として面白いものなのではないだろうか。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
展示室の中央部には鉄道模型のジオラマが展示されている。それほど凝ったジオラマではないが、子ども連れの来館者には嬉しいものだろう。
鹿屋市鉄道記念館
展示室奥の一角には「さようなら大隅線 長い間ご利用いただきましてありがとうございました」と記された横断幕を掲げたコーナーがある。大隅線廃止の際に行われた記念式典の様子を収めた映像も見ることができる。旧大隅線の往時を偲ぶことのできるコーナーだ。旧大隅線を利用したことのある人なら感慨深く見学できるだろう。
鹿屋市鉄道記念館
記念館の展示室を通り抜けた、建物裏側には「キハ20」の旧国鉄車両が保存展示されている。車両は内部の見学も可能だ。運転席を覗き込んだり、座席に座ってみたり、天井に取り付けられた扇風機や網棚などにも目を向けたり、じっくりと見ておきたい。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
保存車両の周辺には鹿屋駅やその隣駅である大隅川西(おおすみかわにし)駅と大隅野里(おおすみのざと)駅などの駅名標も展示されている。これらもぜひ見ておきたい。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館は鉄道ファンなら一度は訪れてみるべき施設だと言っていい。旧国鉄のマニアならなおさらだ。鉄道のマニアでなくても旧国鉄大隅線関連の資料館として充分に楽しめる。鉄道に詳しくない身であっても、展示された物品の数々に興味は尽きない。記念館には係の方が常駐していらっしゃるようなので、いろいろと話を聞かせていただくのも楽しい。昭和の鉄道にタイムスリップするひとときである。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館は入館無料だが、来館時に国鉄時代の切符(硬券)を模した来館記念切符がもらえる。来館時の日付印が押されていて、なかなか人気らしい。記念館のリーフレットと共に、来館の記念にもらっておきたい。
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
鹿屋市鉄道記念館
参考情報
鹿屋市鉄道記念館は入館料は必要ない。開館日や開館時間など、詳細は公式サイト(頁末「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。

交通
大隅地域には鉄道路線が通っていない。訪れるには車の利用が必須だ。駐車場は市役所駐車場を利用すればいい。

鹿屋市鉄道記念館は鹿屋市役所に隣接しており、ほぼ鹿屋市の中心部に位置している。遠方から訪れる場合は、鹿屋市役所を目指せばいい。

鹿児島市街から訪れる場合は、桜島フェリーで桜島に渡り、国道224号から国道220号へと辿ればわかりやすい。桜島港から約45km、交通状況にもよるが1時間と少しで着く。宮崎自動車道都城ICからなら、ルートにもよるが60km前後、1時間半ほどだ。

飲食
鹿屋市鉄道記念館付近から北側にかけては鹿屋市の中心部で、さまざまな飲食店が点在している。良さそうなお店を見つけて食事を楽しむといい。

周辺
鹿屋市中心部の西方には海上自衛隊鹿屋航空基地が横たわっているが、その敷地内、北端部に鹿屋航空基地史料館が設けられている。海軍関連資料や海上自衛隊関連資料が展示されており、無料で見学できる。鹿屋市鉄道記念館から2kmほどで行ける。併せて訪ねみるといい。

海上自衛隊鹿屋航空基地の南西側には霧島ヶ丘公園がある。「かのやばら園」が併設されているから、薔薇の季節にはぜひ訪ねてみたい。鹿屋市鉄道記念館から7〜8kmの距離だ。

霧島ヶ丘公園から西へ丘を降りれば錦江湾岸だ。錦江湾岸を北上して荒平天神を訪ねたり、あるいは南へ下って神川大滝を訪ねたり、海岸ドライヴを兼ねて楽しむのがお勧めだ。
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