神奈川県厚木市の西部に位置する七沢森林公園は園内のほぼ全域を雑木林が占める森林公園だ。秋になればそれらの木々が紅葉に染まる。木々が秋の色に染まった十一月下旬、七沢森林公園を訪ねた。
厚木市七沢の七沢森林公園は65haもの面積を有する広大な森林公園だ。そのほとんどは鬱蒼とした雑木林が占め、その林に包まれるようにところどころに広場が設けられ、それらを繋ぐように園路が辿る。園路の大部分は“山道”と言っていいような未舗装の小径で、野趣溢れる散策が楽しめる。晩秋になれば公園を覆う木々が紅葉に染まり、秋の日を浴びて美しい景観を見せる。
七沢森林公園の林は基本的に雑木林であるから、例えば整然と整えられたイチョウ並木や、あるいはカエデを多く植栽した寺社などのような、劇的な紅葉風景を見せるわけではない。しかしコナラやクヌギ、ミズキ、ヤマザクラといった木々が秋の色に染まって山肌を彩り、美しい錦秋の風景を見せてくれる。園路を辿って林の中を歩けば、さまざまな紅葉の景観に出会える。素朴で美しい晩秋の雑木林ならではの風情を感じながら、のんびりと散策を楽しむのがお勧めだろう。
公園中央部に設けられた「中央口」から園内に足を踏み入れると、公園管理事務所横から奥に建てられた「寸草亭」にかけて、鮮やかな紅に染まったモミジが出迎えてくれる。これらのモミジは公園が整備されたときに植栽されたものだろう。「寸草亭」側から管理事務所方向へと目を向ければ日差しが逆光となって、透過光に輝く美しいモミジの紅葉を堪能することができる。
「寸草亭」の横から山道を北へ登れば「野外ステージ」を設けた一角に出る。「野外ステージ」を上から見下ろす位置に立てば、晩秋の日差しを照り返して輝く林の木々が美しい。
「野外ステージ」横から西へ丘を上れば「ななさわの丘」と名付けられた展望所がある。「ななさわの丘」からは西に視界が開け、周囲に重畳する山々を一望する。それらの山々が錦秋に染まり、見事な景観だ。晩秋の七沢森林公園に訪れたときには、ここからの眺めをぜひ見ておきたい。
「ななさわの丘」から「野外ステージ」上を経て東へ登ると尾根道だ。尾根道を少し北へ辿れば「ながめの丘」だ。その名のように、ここからは東に視界が開けて爽快な眺めが楽しめる。空気の澄んでいれば新宿のビル群や東京タワー、東京スカイツリーのシルエットも見ることができる。晩秋には空気の澄んだ日が多い。この眺めも楽しんでおきたい。
「ながめの丘」からさらに尾根道を北へ辿れば「とうげの広場」を経て「北口」へと降りて行ける。一角には「さくらの広場」や「森のアトリエ」が設けられている。日が低い季節、「さくらの広場」は日が陰り、その陰の中に紅く染まったモミジが立っている。その様子もなかなか興趣のあるものだ。
「とうげの広場」から南へ、林の中を縫うように小径が谷へ降りている。「沢のさんぽ道」と名付けられた園路で、その名が示すように沢伝いに降りてゆく小径だ。道脇にはモミジの木も少なくないが、日当たりの悪い地形のせいか、あまりきれいな紅葉には染まっていないようだ。七沢川沿いまで降りてゆけば頭上の高みで日差しを浴びる木々の紅葉を見ることができる。
七沢川に沿った道をそのまま辿り、「森のかけはし」を渡って公園南側の区域へ歩を進めよう。「おおやま広場」は秋の陽光を受けて明るく開放感に溢れている。広場の脇に植栽されたモミジが美しい紅に染まっている。「おおやま広場」から「バーベキュー広場」へと辿る。良いお天気に恵まれた週末、「バーベキュー広場」ではバーベキューを楽しむ家族連れなどで賑わっている。広場の横には見事な紅葉に染まったヤマボウシの木があった。
「バーベキュー広場」の北側は「ピクニック広場」だ。木々の取り払われた斜面になった広場で、下から見上げると澄んだ秋空を背景にして美しい景観だ。「ピクニック広場」の上から尾根道を辿って中央口へ向かえば、七沢森林公園をほぼ一回りしたことになる。
七沢森林公園の林を構成する木々は多岐にわたる。常緑樹と落葉樹、高木と低木が混じり合って林を成し、四季それぞれにさまざまな表情を見せてくれるところが魅力だ。晩秋になれば常緑樹の緑の中に落葉樹が赤や黄の色彩を加え、この季節ならではの景観を見せてくれる。逆光の中に光を透かして輝く紅葉も美しいものだが、秋の青空を背景に日差しを照り返す木々の姿も色彩のコントラストが鮮やかだ。訪れる時期によっても、訪れる時刻によっても、木々が見せてくれる表情は違う。その時限りの出会いを楽しみながら、のんびりと園内を巡るのが、晩秋の七沢森林公園のお勧めだろう。
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七沢森林公園はそのほとんどを雑木林が占め、その中を辿る散策路は基本的に未舗装の小径だ。場所によっては急勾配の坂道もある。訪れる際には歩きやすい靴、できればトレッキングシューズなどを履いてゆくことをお勧めする。
七沢森林公園には駐車場が用意されており、地理的にも公園への来訪は車が便利だ。厚木市中心部からは県道603号を西進、伊勢原市方面からなら県道63号から県道64号へと辿って北上、宮ヶ瀬湖方面からは県道64号を南下、愛川町方面からは県道63号を南下するルートがわかりやすいだろう。遠方の人は東名高速道路厚木ICから県道603号へと辿って西へ向かえばいい。
公園駐車場は中央口付近に二ヶ所、北口に一ヶ所、公園東側の「森の里」側に一ヶ所設けられている。通常は中央口付近の駐車場を利用するのが便利だが、必要に応じて北口駐車場などを利用するといい。全体で百数十台分の駐車スペースがあるようだが、公園の規模から考えればやや少ないように思える。春から秋の土曜、日曜、祝日は駐車料金が必要なようだが、他は無料で利用できる。駐車場の位置や駐車料金の詳細は七沢森林公園公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
バスを利用して来訪する場合は、小田急本厚木駅厚木バスセンターや小田急愛甲石田駅、小田急伊勢原駅などからバス便を利用するといい。バス路線やバス停などの詳細は、これも七沢森林公園公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
園内には売店やレストランなどは無く、管理事務所前にドリンク類の自動販売機が設置されているだけだ。公園周辺にもお店は無い。七沢森林公園へはお弁当持参での来訪がお勧めだ。見晴らしのいい丘の上でのランチタイムはとても楽しい。
園内のバーベキュー広場は材料をすべて公園側で準備してくれるタイプのものだ。利用するには三日前までに予約が必要だが、器具を用意したり食材を買い揃える手間が要らないのは気軽だし、バーベキュー初心者などにはお勧めだろう。詳細な利用方法は七沢森林公園公式サイト(「関連する他のウェブサイト」欄のリンク先)を参照されたい。
七沢森林公園の西には七沢温泉郷がある。徒歩で十数分ほどの距離だ。公園を散策した後は温泉で汗を流すのも悪くない。
公園の東側は「森の里」と名付けられた住宅街だ。その一角に
若宮公園
という公園がある。また「森の里」の北側には
あつぎつつじの丘公園(上古沢緑地公園)
がある。
七沢森林公園西側の県道64号(伊勢原津久井線)を南へ辿ればすぐに市境を越えて伊勢原市、伊勢原市へ入ってすぐの西方には
彼岸花の群生地として有名な日向(ひなた)地区
がある。彼岸花の花期に車で訪れたなら寄り道してみるといい。
七沢森林公園
七沢森林公園
紫陽花の咲く七沢森林公園
若宮公園
あつぎつつじの丘公園
初秋の日向路